108回目 待機状態にはなれない人達 6
「それと、こういうのはどうだ?」
今回の話の発端となった男が、新たな情報を表示させていく。
ネットから拾ったそれらが他の者達にも示される。
「これは?」
「軽装甲車ってところかな。
どちらかっていうと、小装甲車って言った方がいいかもしれないけど」
表示されたものは確かに小さな車体の戦闘車両ばかりだった。
「うちで必要なのはこういうのだと思うんだ」
そういって男は自分の考えを示していく。
この世界は森林地帯もあり、大型車輌だと侵入出来ない所もある。
その為、可能な限り小型の車輌が求められている。
だが、現状ではそういった車輌は存在しない。
バイクやバギーなどが活躍してるのはこれが理由になる。
また、戦闘車両に比べれば小型な一般車両を武装して使ってる理由にもなっている。
なので、比較的小型の戦闘車両の需要は存在する。
生産や運用にあたっても、小型というのは無視出来ない利点がある。
まず、小さい分必要な材料が少なくて済む。
製造工程においても、大がかりな設備はそれほど必要なくなる。
生産設備が充分とはいえない異世界において、これは無視出来ない要素になる。
運用においても、小型軽量というのは無視出来ない。
実際、現在第三大陸における戦争において、一番問題になってるのは輸送だ。
特に戦車などの重車輌は航空輸送が不可能である。
船舶を使うしかない。
そして、重量があり車体も大きいので一度に運べる数が少なくなる。
これらを解消するためには、小型軽量を目指す必要がある。
問題もある。
小型軽量にするので、設計上の問題が出てくる。
内部容積が少ないので、搭載出来る様々な機器に限界が容易く発生する。
また、強力な兵器の運用も不可能になる。
戦車砲のように威力が大きいが、反動も大きなものは使えない。
また、小さいので兵員運搬車輌として用いるのにも不便だ。
多少は乗り込めても、その人数には限界が出てくる。
それに現在利用してる他の車輌との互換性がない。
完全に新規で生産する事になるので、このための専用の生産設備を作らねばならない。
その手間がどうしてもかかってしまう。
これは運用面での不利にもなる。
他の車輌との互換性がないから、部品の流用なども出来ない。
なので、維持や整備の為に専用の部品を作る必要がある。
その分、補給における混乱も発生する可能性が出てくる。
車輌毎に違う部品が必要になるので、どうしても運搬する物資の数が増えてしまう。
こうなると、一輌あたりの材料を省く事が出来るという利点もかすんでくる。
こういった面倒を増やすくらいならば、現在使われてる装甲戦闘車を用いた方が良いのではないかと思えてくる。
「それでも必要かどうかだな」
「あると便利なのは確かだが」
生産施設を作り、複雑になる部品供給と補給・補充体制。
それを踏まえても、あれば便利のは確かだ。
実際、軽く小さければ輸送に便利だし、緊急展開には向いている。
ある程度の装甲と火力があるというのも心強い。
それに、調査や偵察では武装した一般車両に、バイクやバギーしか用いられてない。
そういった所に導入すれば、それだけで戦力や安全性が向上する。
抱える面倒と釣り合う以上の利点もあるだろう。
「でも、すぐには無理だろ」
「これだと、新しく開発するしかなくなる」
それが問題だった。
既存車輌の改造などでどうにかなるならともかく、そういうものでもない。
現在使われてる装甲車両などは、参考にあげたものよりも大きい。
改造などでどうにかなるものではなかった。
とてもすぐに調達出来るものではない。
「さすがに今すぐにとは思ってないよ」
発案者もそれは理解している。
「でも、将来的に導入したいと思ってる。
今日は、良い機会だから提案してみたんだ」
本当に必要なのかどうか。
それは分からない。
もしかしたら邪魔になるかもしれない。
あるいは想定通り、更にはそれ以上の有効性を示すかもしれない。
そのどちらになるにせよ、提案はどこかでせねばならない。
今回、今後について話合う機会があったので、ついでに提案をした。
こうしておけば、これから話合う機会が出来るかもしれない。
どこかで議題にあがるかもしれない。
その為の布石である。
結果がどうなるかは、その時次第だ。
「でもまあ、とにかく目先の問題だ。
戦力の確保と前線への補給。
それに、更なる前進と」
やらねばならない事は多い。
その為に出来る事をまずはしていかねばならない。
おかげで企画部は休む暇が無い。
「俺らも休みが欲しいな」
「全くだ」
今後の作戦が片付くまで、それはお預けである。
そして、いつ片付くのかは、未だに不明であった。