107回目 待機状態にはなれない人達 5
「第三がああなってるからな」
「あいつらを撃退するまではこっちにかまってる余裕は無いか」
現在、戦力の大半を第三大陸に振り向けている。
そうしないと対処が出来ないほど手間取っている。
こんな状況では、他で何か起こっていても即座に動く事は出来ない。
また、第一大陸の防衛もある。
脅威としては大したものではないが、モンスターには備えておかねばならない。
このため、最低限の戦力は第一大陸に貼り付けておく事になる。
これらまで他に移動させる事は出来ない。
「だから、最低限の防衛が出来るくらいにこっちの戦力を上げていかないと」
現状維持では済まされない。
「何よりも、装甲車をもっと増やしたい。
今の状態で怪我人や死人が出るのはまずい」
「そうだな」
誰もがそれには頷く。
何せ人手不足である。
どこかで誰かが死ねば、それだけで大きな問題になりかねない。
道徳や倫理、人道的な理由ももちろんある。
だが、それを抜きにしたとしても、人の損失は可能な限り避けねばならなかった。
企業としての運営が立ち行かなくなる。
「まあ、まずは軽装甲車の増産だな」
四輪駆動の乗用車を巨大化・装甲化したような車輌である。
自衛隊でも使用していたものの改良版だが、それを企業部隊でも用いていた。
比較的安価で手に入るので重宝している。
また、モンスターの攻撃を受けても破壊されないくらいの強度はある。
部隊員の安全を確保する為の最も簡単な手段となる。
「あと、装甲戦闘車。
これはうちでも使っていかないと」
「まあ、そうなるな」
火力を確保する為にも、機関砲搭載の戦闘車両は必須だ。
これは現在使用してるものに加えて、突撃砲や砲戦車に用いる車体としても必要になる。
兵員輸送用にも、装甲で守られた専用車両が必要だ。
「これは軍で使ってるものをそのままうちで使えばいいだろう」
新規で生産する必要はあるが、新たに設計する手間を省ける。
また、実際に使用されてるという運用実績もある。
運用して出て来た問題点もそれなりに解消されてるだろう。
されてなくても、問題点が把握出来てるだけでもありがたい。
解消する必要がある部分が分かってるからだ。
今後そういった部分を改修していけばいい。
それだけの余裕があるかどうかという問題は出てくるが。
それでも、全く新しいものを用意するよりは手早く調達出来る。
「少しでも早く手に入れたいな」
「それだけの予算が出てくればいいけど」
こればかりは泣き所である。
戦闘車両は何せ値段が高い。
戦車ほどではなくても、何億という値段がついてしまう。
いくら大企業と言えども、おいそれと入手出来るものではない。
「まあ、うちから発注すれば、多少は値段も落ち着くだろうけど」
軍に加えて新たな発注があれば量産効果も出て来る可能性がある。
効果は微々たるものであろうが、それでも皆無というわけではない。
ただ、それも何百と発注してようやく出て来るかどうかだ。
増産するとなれば新規で生産設備を導入する必要も出て来る。
その負担を加えれば結局費用がかさみ、値段はそのままという事もありえる。
それでも、調達しないわけにはいかない。
先々を考えればどうしても必要になるのだから。
「まあ、必要な数は増える事はあっても減りはしないさ」
「そうだな」
理由は簡単である。
現在、新地道の人口は増え続けてる。
それに伴い、一井物産の社員数も毎年増加している。
本土はともかく、新地道においては人口減少や子供の減少は過去の問題だ。
これに伴い、武装部隊も今後増加していくだろう。
そうなれば、配備する必要のある装備や兵器も増えていく。
「だったら、将来分のつもりで数を揃えておいてもいいだろ」
「随分気の長い話だな」
「自分でもそう思うよ。
でも、戦闘で壊れる物も出て来るだろうし、その予備ってのも考えるとな」
「余裕があった方がいいって事か」
「そういう事」
戦闘で用いるのだからその可能性はある。
それに備えて、使わずに保管しておく分があっても良いだろうという事だ。
無駄を抱える事になるが、現状ではこういった事も考えておかねばならない。
第三大陸では実際損耗も出ているのだから。
幸い、それほど大きな数ではない。
それでも補充が必要なのは覆す事が出来ない。
「足りなくなってから慌てるんじゃどうしようもないからな」
それは全員が頷く事だった。
可能な限り最善の状態を保つ。
その為にも、出来るだけの余裕は必要だった。
無駄に場所をとらない程度には。




