106回目 待機状態にはなれない人達 4
「これだけじゃない。
他にも色々必要になるだろう」
現在配備している武器や兵器だけでは足りなくなる。
より効果的な、より強力な武装が必要になる。
戦力は過剰であっても良い。
足りなくて歯が立たないという事態になるくらいならば。
「一度、武装部隊のあり方を考え直さないと」
目下検討すべき事は、これである。
この先、他のトンネルの向こう側から別の勢力がやってきた場合。
それらに対処するために現在保有する兵器で大丈夫なのか。
そう考えるのは自然な事だろう。
何せ、中心となってるのは一般車両に機関銃を搭載しただけのものなのだから。
これが悪いというわけではないが、これだけしかないというのは避けたい。
何より、火力も大事だが防御力も増強させたいものだった。
企業部隊の戦闘車両のほとんどは装甲がない。
一般車両を用いてるものがほとんどなのだから当然だろう。
それでもモンスターが相手ならばさほど問題はなかった。
それでも、突発的な遭遇や近距離まで接近されたら危険が伴っている。
一般車両では、ある程度の大きさのモンスターの攻撃を凌ぎきれない事もある。
なので、可能な限り防御力のある車輌も必要とされてはいた。
それでも今までは、これ以上の武装は必要無いと判断されていた。
実際、危険はあっても本当に損害が出ることは少ない。
それよりも、より強力な火器や兵器を導入する事の方が手間がかかると判断されていた。
実際、導入費用や運用経費を考えると、現状より強力な武装を導入する利点がなかった。
「でも、そうも言ってられない」
今までならば、経費がかかりすぎるという事で現状維持が最善だった。
しかし、もう前提条件が変わってしまっている。
モンスターよりも強力な敵が出現する可能性が出てきてしまった。
ならば、今まで以上の戦闘力が必要になる。
「今まで通りって事はもう無理だと思う。
今よりまずい事がこの先起こる可能性はある。
それに対処していかないと」
何かが起こってから対処するわけにはいかない。
必要なものを何もないうちに用意していかないといけない。
そういう状況になってきている。
いや、以前からそういう状況だったのだ。
ただ、目に見えた脅威がなかったから実感出来なかっただけで。
「特に第二大陸はうちで受け持つ事になってる。
他を宛にするわけにはいかない」
第二大陸の開拓や開発については一井物産が取り仕切る事になってる。
これは、単に優先的に、あるいは独占的に事業を取り仕切れるというだけではない。
様々な事を一井物産が受け持つという意味である。
利益も当然手に入れる事が出来るが、下準備も担わねばならない。
いってしまえば第二大陸の統治を任されたに等しい。
自治体も役所を設置はするが、その機能は最低限のものになる。
かなりの自由が手に入る。
長期的、将来的な利益は莫大なものになるだろう。
だが、あらゆる事を一井物産で賄わねばならない。
戦闘もその一つになる。
「第二大陸にも大穴はあるからな」
あえて過大な戦力を保持する理由がこれだった。
そこから何かが出てきたらどうするのか?
今の戦力で撃退出来るなら良い。
しかし、それが出来なかったら?
そう考えると不安が出てくる。
実際、第三大陸の大穴からは、機械群が出てきた。
それは、当初想定していなかった巨大な敵である。
似たような事が起こらない可能性は無い。
むしろ、もっと凶悪な敵が出て来る可能性すらある。
そうなった場合にどうするかは考えねばならない。
「もっと戦力が必要だ」
結論はそうなる。
「軍は頼れないか……」
「いや、何かあれば動くとは思う」
最悪の懸念が出てきたが、それは否定される。
「さすがに自治体だって見殺しにはしないだろう。
ここが潰れて困るのは自治体も同じだし」
「だといいけど」
「まあ、すぐに動くとは思えないわな。
でもな、それでも動くつもりがあるならいい」
見捨てられないでいるなら、それだけでもありがたい。
やる気が全く無いのと、あるけどすぐに動けないのとでは全く違う。
ただ、手続きや準備で動きが遅くなるのはしょうがない事なので、これは責められない。
「何より、こっちに回す兵隊がいるかどうか。
それが一番の問題だ」
一番の問題がこれである。