105回目 待機状態にはなれない人達 3
「なるほど」
表示された情報を見た者達は納得していく。
「確かにこれで充分だな」
「そうだな、これくらいの性能で充分だ」
「そうだよな」
考えを提示した者も満足げに頷く。
「俺達に必要なのはこれだ。
機動力と火力があって、生産性が良い。
しかも、改めて研究しなくちゃならないような技術も無いだろう。
実際に作れば色々と工夫が必要だろうけど。
でも、それでも構造は簡単になるはずだ」
「その分、簡単に作れると」
「そういう事。
実際に簡単にいくかは分からないけど」
だが、それでも戦車程に求めるものはない。
要求仕様は大分減らせるはずである。
「だから、こいつを我が社で持とうと思う」
そう言って示されたのは、砲塔の無い戦車。
砲を前方にだけ向ける事が出来る車輌。
突撃砲である。
突撃砲。
あるいは、対戦車自走砲。
駆逐戦車、砲戦車という呼び方もある。
これらに共通するのは、砲塔の無い戦車というような形状をしてる事だろうか。
なので、攻撃するのは砲が向いてる方向だけになる。
このため、攻撃においての柔軟性は低くなる。
しかし砲塔ではない分、構造は比較的単純になる。
比較的強力な火砲を搭載する事も可能となる。
車輌に搭載してるので、純然たる機動力なら牽引式の砲よりも高くなる。
「今の敵が相手なら、これで充分だろう」
「確かにな」
「こっちに向かって一直線に向かってくるだけだし」
「待ち構えて撃てばいいだけだ」
なので、前方にだけ撃てれば良い。
それ以外の事はほとんど必要無い。
構造が単純になる分だけ生産や整備の手間も低くなる。
「けど、今から作って間に合うのか?」
「そこは分からない。
間に合わない可能性もある」
問題となるのはここだった。
出来上がったとしても、戦争が終わっていたら意味が無い。
使う事のないものをわざわざ用意したら無駄になる。
だが、機械群との戦いが続くなら、無理してでも用意した方が良いだろう。
そのどちらになるかは、その時になるまで分からない。
今は先を見越してやるかやらないかを決めるしかない。
「けどな、間に合わなくてもこういうのがあっても良いとは思ってる」
「なんで?」
「うちが火力を確保するためだ」
「……ああ」
「……そうか」
言われて誰もが納得していく。
現状では企業部隊の戦闘力は軍隊ほどではない。
装備してる武器の大半は機関銃がほとんどだ。
20ミリや35ミリといった機関砲を搭載するような戦闘車両は少ない。
そこまで必要無かったというのも大きな理由だ。
この異世界にいるモンスターが相手なら、12.7ミリの機関銃まであれば充分対処出来る。
ドラゴンなどの強力なモンスターが相手なら、これでは力不足にはなる。
それでも、ロケットランチャーや無反動方があれば事足りる。
そもそもとして、ドラゴンのような巨大で強力なモンスターはそうそう遭遇しない。
それなのに高い火力を持つ兵器や、それを搭載する戦闘車両を保有する意味は無い。
少なくとも今まではそうだった。
「けど、大穴の向こうからあんなのが出てきたからな」
それが考えを変える理由になっている。
「今まで言われていた事だけど。
別の大穴から他の世界からの奴らがやってくる。
そいつらが強力な敵だったらどうするかって事だ」
今まさにそうなっている。
別の世界からやって来た機械群は、短期間で拡大し、人々の脅威になっている。
「あの機械共を倒してもそれで終わりになるとは限らない。
むしろ、この世界にある他の大穴から同じような連中が出て来るかもしれん」
「それに備えてか」
「ああ。
どうせ最初に遭遇する事になるのは俺達だろう。
対抗する必要がある」
「せめて軍が到着するまでか?」
「そうだ」
これも懸念事項である。
自治体の軍が動くにしても、それまでの間は企業の部隊で応戦するしかない。
そうなった時に、戦闘力が足りませんでしたでは済まない。
そんな事になれば、人や物資や設備が失われる事になる。
企業としてそんな損失を出すわけにはいかない。
そうならない為にも、可能な限り強力な武装はしなければならなかった。
これらを用いる事態にならないのが一番ではあるが。
それでも、最悪に備えない理由にはならない。
実際、最悪の事態は現在進行形で発生中なのだから。




