104回目 待機状態にはなれない人達 2
「それと陸軍にも出て来てもらわないと。
戦車とかも必要になる」
「装甲車じゃ駄目なのか?」
「駄目って事はないが、火力が違う。
一発で大量の敵を貫通してくれるだろう。
35ミリの機関砲ですら何体か貫通して倒したっていうし」
「確かに。
これが105ミリの戦車砲ならどうなるか」
今回の戦闘で得られた教訓の一つがこれだった。
35ミリの機関砲でも充分な威力がある。
しかし、余裕があればそれに越した事は無い。
「射程も機関砲よりもある。
敵も一直線に、しかも隙間無く詰め寄ってくる。
これなら一度に幾つも巻き込める」
「待ち伏せなら固定砲台でもいいんだろうけど」
「この先どうなるかだよな」
通常の長距離砲なら、牽引して移動させるしかない。
それでは前進するにしても後退するにしても手間がかかる。
移動可能な状態から射撃が出来るようにするまでにはそれなりの作業が必要だ。
逆も当然ながら時間と手間がかかり人手が必要になる。
そんな余裕が常にあるとは限らない。
だとすれば自分で移動出来る砲台があった方がいい。
それが出来るのが戦車であり自走砲になる。
「出来るだけ多く来てくれるといいけど」
こればかりは軍の意向による。
一井物産の影響力をもってしても、確約を得られるかどうかは分からない。
それが歯がゆいところだった。
「そこまで必要無いとか言い出したらそれまでだな」
「それはないと思いたい」
「けど、機関砲で対処できちまった。
それを聞いて、『なら戦車は必要無い』とか言い出すかもしれん」
「確かにな」
可能性は充分にあった。
戦力の移動にかかる手間。
そして、戦力を移動させた事によって、空白地が出来てしまう不安。
これらを考えた場合、おいそれと部隊を動かせなくなる事もある。
特に現有兵力で充分に対処が可能である場合。
より強力な戦力の投入を控える可能性はあった。
過剰な戦力は必要無いと。
間違ってはいないが、これはあくまで現状を考えた場合である。
この先、更なる火力が必要だった場合、それが現地に無いのは大きな痛手になる。
貴重な時間を喪失する可能性があるからだ。
今すぐ行動しなくてはならないのに、動ける者がいない。
そんな状態は出来るだけ少なくしておきたかった。
「こうなると欲しくなるな」
「戦車がか?」
「ああ。
今までは必要なかったけど」
モンスターが相手ならそこまで強力な兵器は必要なかった。
装甲車で充分な火力と防御力、機動力を得られていたのだ。
それ以上は過剰で無駄となってしまう。
無駄な経費をかける羽目になる。
だから企業部隊は、軍に比べれば軽装であった。
けど、そうも言ってられない事態になっている。
「かといって、すぐに戦車が手に入るわけじゃない」
「増産するにしたって、そう簡単にはいかんぞ」
もともとそれほど必要なかった事もあり、戦車の生産はゆっくりとしたものだった。
年間数台といったところである。
自治体も、必要は無いだろうけど万が一に備えて、という程度で生産していたくらいだ。
その万が一が起こってしまったのは不幸と言うしかない。
「戦車は無理だろうな」
この場に居る者達でそれが分からないような輩はいない。
「けど、戦車に拘る必要もないだろ」
「どういう事だ?」
「欲しいのは火力だ。
他は正直、そこまで必要無い。
だから、こういうので良いんじゃないか?」
発現したものは、ネットワークに接続してあるパソコンに情報を表示させる。
特別な資料ではない。
ネットで普通に閲覧出来るデータベースだ。
個人のサイトから、SNSなどで見つけられるようなものばかりである。
だが、説明の為に表示する情報はそれで充分だった。