103回目 待機状態にはなれない人達
「今のうちに前進しよう」
一井物産の企画室ではそういう方向に話が流れていた。
「敵はまだ残ってるし、新しい機械もどんどん出てきてる。
でも、まだ攻撃に出るほど増えてるわけじゃない。
幾らかやってくるだろうけど、対処出来ない程多くは出てきないだろう。
だから、今のうちに前進しよう」
「そうだな」
「爆撃もしたいし、その為の場所も確保したいな」
「となると、あと1000キロは前進しないと」
「厳しいな」
「でも、道の心配は無くなった」
「まあ、確かにな」
「道って言っていいのか分からんけど」
そんな話をしてる彼等は、衛星写真で判明してる最新の地形を見つめていた。
第三大陸における敵の大攻勢。
それによって作られた道。
機械群が進む為に木々を倒していった跡だ。
大群が移動したので幅広い更地となっている。
おかげで、人類が道を切り開く必要はかなり低くなっていた。
「問題なのは、敵もここを通る事だな」
「それはしょうがない。
こっちの方面はどこに進んだって敵に遭遇する可能性がある」
「どこを通っても結局は同じだな」
やるせないが、それが現実だった。
「まあ、悪く考えるのはやめよう。
この道のおかげで、敵地まで一直線に進めるんだし」
「進撃をするなら便利だな」
「正面衝突は避けられないけど」
「その時は横に逸れておけばいい。
そういう事にしようぜ」
「まあな。
ポジティブ・シンキングでいくならそうなるかもな」
「むしろ、現実逃避に思えるんだが……」
「それは言わないでおこう」
物事の見方は様々で、良い部分に注目する事も出来る。
だが、それが本来見据えねばならない本筋や本質を無視する事になってはいけない。
都合の良い部分があったとしても、それよい大きな問題があるならそれこそしっかり見つめねばならない。
「でも、使えるものは使おう」
「そうだな。
この道は使える」
「まあな。
これを使って一気に進むか」
危険はあるだろう。
それを承知で事を進めていく。
敵との遭遇は怖いが、それ以上に大きな利点があるのも確かだ。
企画室の者達はその利点を見つめていく。
利用価値のある部分はしっかりいただく。
同時に、問題のある部分はしっかり排除する。
その為に何が必要なのかを考えていく。
「まあ、このあたりは今までの開拓と同じようにやってけるだろう」
この新天地にて培って来た経験と知識がある。
作業そのものはそれほど難しくはない。
道を切り開く手間がない分、いつもの開拓よりは楽であるかもしれない。
「問題なのは敵だな」
「防衛の為の部隊も展開しないと」
「いつもより多目になる。
この部分の負担が大きくなりそうだ」
「部隊をもっと展開したいけど、さすがにうちだけじゃきついな」
「軍の方はもう出動可能らしい。
そちらに出て来てもらおう」
「素直に応じてくれるといいけど」
「それは大丈夫だろう。
問題なのは現地に渡る手段と、輸送と補給手段だそうだ」
「あちらも大変だな」
企業部隊よりも大所帯だけに、手間も倍増してるのだろう。
それを思うと同情してしまう。
だとしても、必要なので絶対に出て来てもらわねばならない。
「今でもかなり出て来てもらってるけど」
「これからはもっと大規模に展開してもらう事になるだろう」
「そうだな」
こればかりは決して譲れぬ一線だった。
数だけでも企業部隊をはるかに凌駕するのが軍だ。
戦力の中心である。
これが無ければ現状の維持すら出来ない。
先に進むならなおさらだ。
「爆撃は絶対にやってもらないとならんし。
確実に来てもらわないと」
事と次第によれば、第三大陸を失う事になりかねない。
それだけの脅威である。
友好的になる可能性も無い。
交渉も何もなく、接近しただけで攻撃してくる連中である。
そんな連中と仲良くやっていけると夢想する者は新地道にはいない。
いたとしても何の影響力もないような微少な数でしかない。
相手は本質的にモンスターと同じなのだ。
交渉が出来ず、一方的に襲ってくるという部分は共通する。
そんなのに席巻されるわけにはいかない。
どうにかしてご退場してもらわねばならなかった。