102回目 休暇は次の仕事が入るまでの待機時間である 5
「とにかく酷かったのよ」
「ほー、そーですかー」
停車させたバギーに腰をかけ、アマネは次々と愚痴を吐き出す。
それを聞かされてるタクヤは、適当に相づちをうっていた。
だが、喋ってる内容については大いに同情するものがあった。
アマネはアマネでとてつもなく大変であったのが伺えた。
タクヤのように戦闘に従事していたわけではない。
やっていたのは物資の管理。
到着しては運び出されていく物の管理におわれていたという。
それを聞いてタクヤは心底同情した。
前線にいたからその様子が分かるわけではない。
だが、自分達が消費していった銃弾の量は分かっている。
肩を並べていた部隊のも。
途切れる事無く放たれるそれらが、消費の激しさを簡単に予想させる。
そこまで運び込んでくる者達の苦労も。
今もそうだが、前線に向けて大量の物資が運び込まれている。
それらを管理するとなったら、とんでもない労力が必要だろうと思えた。
「大変だったな」
「大変だったよ」
そういう声と表情は、感情がこもってないほど平坦なものだった。
だから余計に苦労の大きさを感じさせる。
タクヤもおぼえがあるからよく分かる。
疲れ過ぎると力なくボソボソと漏らすしかなくなるのだ。
今のアマネはそんな調子だった。
「後からあとからどんどん追加で到着するんだよ。
しかも、到着した途端に運び出されるんだから。
もらった伝票の処理も追いつかないんだから」
アマネの愚痴はとどまる事を知らず続いていく。
それだけ大変だったのだろう。
入社してさほど時間が経ってないのだ。
それなのにいきなり大仕事のど真ん中に放り込まれている。
目が回るどころか、何が起こってるのか分からないまま働いていたのだろう。
よく倒れなかったものだと思う。
なのだが、それに付き合わされるのはたまったものではない。
(早く終わらねえかな)
ただ聞かされるだけではない。
同じ事を何度も繰り返したりもするのだ。
不毛極まる。
それでもそこから逃げ出さないのは、タクヤの甘さかもしれない。
「言いたい事は終わったか?」
「全然」
一時間ほど愚痴を聞いたあとでの質問である。
返事は残念なものだが、それも仕方ないのだろうとは思った。
しかし、いつまでも付き合ってるわけにもいかない。
「帰るぞ」
「もう?」
「そうだよ」
現在時刻を見せてやる。
携帯端末に表示された時間は、あと少しで夕方になるというあたりを示していた。
急いで帰る必要はないが、そろそろ外出を切り上げる頃だ。
「意外と外にいたんだね」
「ほとんどがお前の愚痴で終わったけどな」
実際、外でやった事と言えばアマネの愚痴が全てだった。
他に何かしたというわけではない。
「まあまあ」
言われたアマネはそう言って矛先を逸らそうとする。
「だったらこれからどこか行こうよ。
お腹空く時間だし」
そこまで腹が空いてるわけではない。
だが、何か口にしておきたいとは思った。
「どこかでお茶でも飲んでこ。
兄ちゃんのおごりで」
「なんでだよ」
「お昼、おごったじゃない」
そう言われると言い返せない。
「……飲み物だけなら」
「ケチー」
「そうしておかないと、お前が際限なく頼むだろ」
「失礼な。
そんなに食いしん坊じゃないよ」
「よく言うな」
甘い物に関しては際限なくと言う程食べるのをタクヤは知っている。
「お前に付き合ってたら破産する」
だからこそ釘を刺しておく必要があった。
ケーキの一つ二つならおごってやっても良いとは思う。
買ってきてもらった分くらいの金額ならば出しても構わないとも思ってる。
だが、際限なく注文されてはかなわない。
そこまで常識がない女ではないが、許容限度ギリギリまで行く可能性はあった。
それだけで数千円も支払うような事にはなりたくない。
「とにかく、ケーキは一つ。
それと飲み物一つ。
それ以外は自腹でどうにかしろ」
「はーい」
気の抜けた声が返ってくる。
とても納得してるようには思えなかった。
このようにタクヤとアマネは休日を過ごしていった。
予断を許さぬ状況はまだ続いていたが、それでもこの瞬間くらいは平穏を感じる事が出来た。
もっとも、それはあくまでタクヤやアマネのような立場の者だけである。
敵をとりあえず凌いだとしても、それで問題が解決したわけではない。
数は減らしても敵はまだ残っている。
生産地は無傷のままなので、いずれ復活するだろう。
実際、こうしてる間にも消耗した分を補うように工場から出てきている。
それを知る者達は、次の対策の為に奔走していた。