100回目 休暇は次の仕事が入るまでの待機時間である 3
「……それで居座ってたと」
「だって、危ないでしょ」
「まあ、そうかもしれんが」
「そうかもじゃなくて、そうなの」
言葉を訂正するアマネ。
こればかりは反論が出来ないので、
「はい、すいません」
と素直に頭を下げる。
「鍵を開けたまま眠るってどうなの?」
「本当にそのとおりだな」
「そりゃあ、泥棒なんていないかもしれないけど」
こんな所まできて悪さをするような輩はそう多くはない。
第一大陸の新開市ならともかく、危険極まりない第三大陸にて悪さをする余裕のある者はいない。
そもそもとして、最前線勤務に参加する者達が集まっている。
盗みなどを働く不埒な輩はそう多くはない。
皆無といかないのが人間の業なのであろうが。
そんなわけで、最低限の警戒は必要だった。
「まさかこのまま放っておくわけにはいかないし」
「おかげで助かります」
実際、アマネが部屋に入って鍵を閉めてくれていたのはありがたい。
それはそれで不用心ではあるが。
「それでだ」
「なに?」
「それはいったい何なんだ?」
起こった問題についてはこれで良いとして。
もう一つの問題についてタクヤは考えはじめる。
「なんで食い物があるんだ?」
コンビニで買ってきたであろう弁当。
おにぎり。
サンドイッチ。
ついでに飲み物。
それが殺風景な部屋に置いてあるテーブルの上に並んでる。
十中八九、アマネが買ってきたものだろう。
だが、それがなぜここにあるのか?
それが問題だった。
「お前が持ってきたのか?」
「まあ、そうなるわね」
「最初から?」
「……え?」
「だから、最初から持ってたのか?」
「なにを、っていうか、どういう事?」
「だから、ここに来た時に持ってきてたのか?」
あらためて思いついた事を口にする。
タクヤの部屋に昼時に、これらを持ってきてたのかと。
それを聞いたアマネは、言ってる意味を理解するのに少しだけ時間を費やした。
タクヤの言葉が端的過ぎて、理解するのに補正が必要だったのだ。
それから、
「違うわよ」
とあっさり否定する。
「これは兄ちゃんが寝てる間に買ってきたの」
と正解を出す。
それはそれで疑問が出てくる。
「寝てる間って」
だったらその間は部屋を開けっ放しにしていた事にあるのでは、と考える。
そんなタクヤにアマネは、
「鍵は使わせてもらったから。
さすがに開けっ放しにするわけにはいかないし」
更なる解答を重ねる。
さすがに不用心を注意するだけに、迂闊な事はしなかったようだ。
ただ、それはそれでタクヤには考えるものがあった。
「人の部屋の鍵を……」
「不用心なのが悪いんじゃない」
「…………」
「それに、食べる物も無かったし。
起きたらどうせ何か食べるだろうと思って、わざわざ買ってきてあげたのよ」
少しは感謝したら、とアマネはそこから先は無言で告げた。
三白眼のようなジトーっとした目で。
明らかに呆れてるのが伺える。
これについても言い返す理由のないタクヤは、
「重ね重ね、申し訳ありません」
と再び頭を下げた。
「……けど、何しに来たんだ?」
買ってきてくれた物を腹に詰め込んで、少し落ち着いた。
そうなると、ここにやって来た理由が気になってきた。
「メールを見たら?」
素っ気ない声である。
だが逆らう事無くタクヤは端末を立ち上げる。
(そういや、昨夜なにか来てたな)
今になって思い出す。
そうしながらメールを開き、用件を確認しようとした。
それより先にずらっと並ぶアマネからのメールの数々が目についた。
「……あの、アマネ?」
「なあに?」
「これはいったい何かな?」
「全く返信の来ない頼れるお兄様への愛のお手紙ですわ」
全くそんな事思ってないのは、声の平坦さから明らかである。
無視されたのがそれだけ腹立たしいようだ。
(相当お冠だな)
怒鳴り散らしたりはしないが、冷めた態度が心に痛い。
そんなアマネの目の前で、やたらと送り込まれたメールを開いていく。
そこには、
『休みが入った事だし、どこかに連れてって』
という内容がしたためられていた。
その是非を問うためのものが連投されている。
なお、後半になればなるほど、文章内に怒りと恨みと憤りなどが込められていっている。
それがタクヤの背筋を冷たくさせていった。
それ以上に盛大なため息を吐き出させた。
「お前なあ」
「なによ」
「わざわざこんなもん送りこんで来るなよ」
「悪い?」
「最悪だ」
はっきりと言ってからタクヤは、もう一度大きなため息を吐いた。