えっ！？ いきなりの痴漢宣言
僕は大学に向かうため急いでいた。
飼い猫が見送り来ていたため、ついつい撫でたりしてたら時間が経ってしまった。
電車の出発時刻が迫る。一本遅らせているから走るほどではないがギリギリだろう。
だがこの電車に乗り遅れると遅刻確定だ。いつもの余裕が台無しだ。
駅に着き、改札を抜ける。階段を登っている途中、電車がホームにやってきた。
予想よりも遅れていたようだ。電車の到着が思ったより早い。急いで階段を駆け下りる。
降りる駅の到着場所から逆算した一番いい位置より一つズレたが電車に乗り込む。
しばらくすると動き出す電車。呼吸を整えて眠るように目を瞑る。
するとすぐに駅に着く。
次の駅も降車する人より乗車する人の方が多い。
そして駅に着き、ドア付近に乗っていたが奥に押されて、押し込まれてしまった。
甲高い音が鳴り、ドアが閉まり、電車が動き出す。アナウンスは聞き流す。
吊り革が掛かっているポールに手をやって、握る。
吊り革だと揺れに逆らいきれないため、嫌いだからだ。
それと身長があるために手が届くというのもある。
路線によっては奇麗になってなくて、手が黒くなることもある。
だがあまり人が触ってないと考えることもできる。
――ガタン――
電車が揺れる。右腕に力を込め体を固定する。
前にいる人が倒れてくる。右膝が柔らかい。女の子だ。
右脇が痛い。男の肩が当たる。さらに頭のポマードが臭い。
揺れが収まったのに右の男がグイグイ圧し掛かるように押してくる。
何故だ。
もうドアが閉まった後なのに、さらに一度は安定したにも拘らず、こちらに押す理由が分からない。
邪魔臭い。
気に入らないため、足を踏ん張り居場所を固持する。
そうこうしてると前の子が振り返る。睨んでくる。
なんだ？ ちょっと動揺する。
視線が上下する。それが往復する。
そして反対に振り返る。
目線を逸らす隣の男。
ふむ。状況から考えるに痴漢されてるのか？
右隣を観察してみる。さっきから押してくる男だ。
角度が悪くよく分からない。
ただ前の子にぴったりくっ付いている。
手元は見えない。
身長差からどうしてもよく見えない。
まあ自分の腕が邪魔してるのもあるかも知れない。
詳しくはないが現行犯じゃなければ逮捕はできないはずだ。一般市民ならなおさら。
未確認じゃ無理だよね、強硬手段に訴えることは。
スペースもないため、後ろに移動させることもできないか。
どうにもできないな。強引に割り込んでも今度は僕自身が痴漢にされかねないし。
実際に見てないのだから見なかったことにするというのも変だが、諦めよう。
この電車は普通ではなく急行だから今しばらくは駅に止まらない。
この隣の痴漢ヤロー(未確認)は押してきて腹が立つし、何より臭い。背が低いのにポマードを頭に塗りたくって、ちょうど顔のあたりにその頭が来てキツイ。
上を向くと多少は呼吸が楽になる。
目的の駅まで吐かないように耐えることが出来るか。ちょっと心配なぐらいだ。
気晴らしに窓の外を見てみるが、背が、視線が窓よりも高いと見下ろす形になって遠くの景色などが見えない。
仕方なく広告に呆然と視線を走らせる。
いつもと違う車両のため、広告も違う。が同じような物しかなくすぐに飽きてしまう。
目を瞑る。今日の予定などに考えを巡らして時間を潰す。
やはり隣が気になって時間がなかなか進まない。いつもなら意識を閉ざして、うつらうつらとしてたら駅に着いているはずなのに。
そんなとりとめのないことを考えてる間にやっとこさ駅に着きそうだ。
隣の男が素早くドアの前へ移動する。早いっ！ この満員で狭い隙間をするりと抜ける。
駅に到着後、ドアが開くと同時にすごい速さで走り去る。
僕もホームに降り、いつもと降りる位置が違うため、どちらが近いか左右を見回す。
そうしてると制服を着た女の子二人と制服を着た男性二人が立ち塞がっている。
そうして女の子の片方が僕を指差し言ってくる。
「この人痴漢です！」
えっ！？ いきなりの痴漢宣言。この後一体どうしよう……
