4、公爵令嬢はチート
「エレオノーラ様って、ずるくないですか?なんでも出来るんですか、あの人は」
訓練所の芝生にまみれた体で若干くさくさした態度で体育座りしながら、レイスに愚痴っていた。
「気持ちはわからなくないけどなー。物心つく頃から、こっちは剣を握っていたっていうのに、エレオノーラ様は全く経験が無かったのに短期間で剣を振れるようになって上達もかなり早かったぞ。」
「それもそうですけれど、6歳の頭に入る知識量じゃないと思うんですけど…」
「あの人の側にいると皆、自信を無くすけど、なんか憎めないからなぁ。」とレイスに苦笑しながら慰めるように頭を撫でられた。
やっぱり転生人か!今度ちょっと聞いてみようかな?
ここ数日通って二人と接して思った事は、『エレオノーラ様はチートキャラである』という事。
実際に体を動かす訓練もそうだけれど、エレオノーラ様の頭にはほぼ入っていて、実際に使う事が出来る。
この間、エレオノーラ様との雑談で今は軍の兵法なども学んでいるといっていたけれど、6歳にしていったいどこに向かうつもりなのか。
「エレオノーラ様は騎士になるか軍に入るのでしょうか?」
「どうなのかね~。割と気まぐれなお嬢様だし…。女性の軍人で貴族は見た事ないけどね。…ローズはエレオノーラ様を社交の場で見た事ある?」
「いいえ。」
「社交の場だと、こことはまた違う振る舞いなんだよ。何でも出来るっていうのは、あながち間違ってないね。」
チートキャラに輪をかけてるっていうのか!!マジで何者なんだエレオノーラ様!
ゲームで出てきたかな~…こんな目立つ人…。
そうすると、フッと画面に青年と女性が言い争ってる場面が浮かんだ。
青年の方は全くわからないけど、エレオノーラ様いた!
えっ‥、どういう事だろう。エレオノーラ様は悪役だったという事?
私にはまだここが乙女ゲームの世界だろうという事と、それに関係してくる人物に会うとなんとなく場面が…というかゲームでいう一枚スチルの絵が見えるのと名前がなんとなくわかるだけなのだ。
エレオノーラ様が悪役…。ヒロインに物理的な勝ち目が無いんだけど…。
「エレオノーラ様には婚約者など、いらっしゃらないのですか?」
「…これだけ優秀な公爵家令嬢なら王家から申し込みが来てもおかしくはないと思うけどね。」
王子!きっとそれだ!!乙女の夢である王子は鉄板だもんね。
ていうかライバルがエレオノーラ様とかヒロインの優秀さもエレオノーラ様と同じぐらいって事!?
は~~、無理だ。無理ゲーだ。
もし弟とくっついた日には私、寝首をかかれるかもしれない。
けど、そんな脳筋の義妹、嫌だ。
「貴族としての義務とは言え、まだ婚約者なんて考えられないな。俺はもっと剣の腕を磨いて騎士団に入りたい。」
なんだか生暖かい笑みで見てしまう。
あなた攻略対象ですよ。将来ヒロインを守るためにその剣をふるうようになりますよ、と。
「なんでそんな腹の立つ笑い方をしてるんだ。」
「あと十年後ぐらいにはわかりませんよ、守りたいと思う運命の人が現れちゃうかもしれません。」
すっかりレイスとも気安い仲になってしまった。
私の将来のために、ぜひ弟よりも頑張ってフラグを立ててほしいものだ。
なんだか呆れて失笑で返されたので、カチンときた。
最近ずっと満身創痍で帰ってる私を心配してるお父様が迎えにきた時『今日はレイス様の稽古が厳しかったんです』と嘘泣きしてやった。
最初の日に男の子が混じっている事にも困惑してたお父様なので、射殺さんばかりにレイスを睨んでいた。べー。
レイスは騎士の訓練所に来る幼い貴族子女なんて、ろくな者はいないと次の日喚いていた。
半年が立って、やっと短剣を持たせてもらえるようになった。
怪我しないよう木で出来た物だ。
体さばきなど、基本的な動きは少しは出来るようになったので、やっと次のステップへいける。
日本でも柔道、空手、合気道などがあったと思うけれど、どこからも少しづつ取ったような体術だ。
私が見よう見真似で記憶を頼りに柔道の技をかけようと思ったけれど、運動音痴には再現すら難しかった。
「ローズ、頑張ったな。」
「エレオノーラ様、ありがとうございます…。」
「これからは短剣の扱い方になる。コントロール出来るようになるまで、また頑張れ。」
「はい、レイス様。今日はお二人とも、これから剣の稽古を始めるのですか?」
私は基本を教えられたら、ひたすら練習なので、その間二人はよく剣の稽古をしていた。
最近、エレオノーラ様が勝って終わる事が多くなってきて、レイスがまたお兄さん達や他の騎士の方に稽古をつけてもらってから挑み直すという負けず嫌いさを発揮していた。
二人も7歳になり、私は5歳になった。シュナイザーもすくすくと大きく育ってきている。
「あぁ、今日も私の勝ちで終わろう。」
「最近私に勝ってるからと調子に乗らないで下さい。そんな事、一時の事ですから」
今から火花を散らしてるな~。
二人が打ち合い稽古を初めて、私はドーリーの監督の元、基礎訓練をしていた。
ただ木に規則的に打ちつけるだけだ。
そうしていると、貴族服を着た知らない男の子が入ってきた。
「誰でしょうか?」「今日、見学の予定は…あっ…!」
ドーリーが何か思い出して、あたふたしている。
男の子がこちらに気づいて人差し指に口に当てた。しーっのポーズだ。
その男の子はこちらに近づいてきて、ドーリーはとても困った顔をしていた。
「初めまして。最近子供が3人、騎士の訓練所に出入りしていると聞いて見学に来たんだ。」
と、男の子は口を開いた。
「実は抜け出してきたから、誰かに見つかると困るんだ。内緒にしてくれる?」
「…私たちの見学ですか?おもしろい事なんて無いですよ。特に私は。」
誰だ。運動音痴の私を見られても困る。
「なるほど、ウィステリア侯爵が隠してしまった宝石が訓練所で短剣を振るう姿はおもしろくないんだね。」
ククッとニコニコした顔で笑われた。
私はムッとした。
「どなたか存じませんが、一方的に知られていて、事情も知らずに口を出されるのはおもしろくありません。」
「これは失礼。本当は今日は今、社交界で君の事を『宝石』だと言っている人を見に来たんだ。」
え?そんな事になってるの?
「そうか、顔を出してなかったね。正確に言うとそこでスルファム家の三男と剣を振るってるお転婆の事だよ。」
エレオノーラ様!!?あなた何やってくれてるんですか!?
思わず、バッとエレオノーラ様を見てしまった。
二人は打ち合いに集中していて、こちらには気づいていない。
「そういう事だから、私の恋路に協力してくれない?なるべくあの二人にも気づかれないようにしたいんだ。」
えっ…恋路?この男の子エレオノーラ様の事好きなの?
あのスペックなら憧れるような事があってもおかしくはないけど…気付かれないように一方的に見たいって…。
エレオノーラ様のストーカー…?やばい。何故こんな人、許可したんですか
「素性も知らない今日初めて会った方に、そんな事出来ません!知ってても勝手に付け回すような事をする方なら、エレオノーラ様の為にしたくありません!」
思わずドン引きして後ずさりしてしまった。
なんだか私の方を見てドーリーが青褪めてるような気がしないでもない。
「なんだか誤解されてしまったようだ。う~ん、どうしようかな……。」
「ろ、ローゼマリー様……。」
ドーリーが目を泳がせて言うべきか言わざるべきか迷ってるような表情で私と男の子の方を見ている。
「では正直に言おう。私は未来の王妃になりえる人物を探している。エレオノーラはその第一候補なんだよ。」
思わず息を止めて絶句した。
え?という事は…この人は、王族の依頼で来ているって事?
いや、エレオノーラ様に敬称をつけていないって事は公爵家と同等か、それより上の身分って事になる。
ドーリーの反応からしても私よりも身分が高いって事はわかる。
考えたくないけど、もしかして王族本人って事もあるかもしれない。
今は第一王子と第二王子がいる。けれど第一王子に王位継承権は決まっているから事実上の王太子だ。
未来の王妃という事は王太子の嫁探しという事だ。
思い出せ思い出せ、お父様とお母様はこの国の王子達は何歳だと言っていた?
「固まっちゃったねぇ。今日はお忍びで来てるから、内緒にしたいんだよ。最初適当にごまかしちゃったから誠実に言ったつもりなので信じてほしい。」
王族ってこんなに気やすいものなのかな…。
「あの…私は最敬礼の自己紹介をした方が良いのでしょうか…?」
「目立つから辞めて欲しいかな。お忍びだからいろいろと気にしないで良いよ。こちらこそ名乗れなくてごめんね。」
否定さ れ な かっ た !王族かー!!
第二王子は私のひとつ上だと聞いていたので、この男の子は、それよりも年上に見える。
この人、多分王太子だ。
どうしよう、ストーカーだと思ってドン引きしちゃったよ。
そんな事も言っちゃったよ…。お父様、ごめんなさい。
「数々の失礼、申し訳ございません!」
冷や汗をだらだらかきながら謝った。
「いやいや、大丈夫。私がここにいるとマズイからお忍びなんだし、普通に接してくれて大丈夫だから。また正式に会った時に初対面の挨拶をお互いしよう。」
「かしこま…わかりました。」
いや、というかエレオノーラ様が王妃候補か。おおいに納得…。
えっ、けど、エレオノーラ様の相手はあの青年じゃなかったっけ?
大きくなるとあの見た目になるのかな?
じゃあ王太子も攻略対象キャラ?うぐぐ、名まえがわからないとわからない~~。
私がいろいろと考えていると、王太子はエレオノーラ様とレイスの打ち合い稽古を見始めた。
王太子は二人の稽古などについてドーリーにちょこちょこ質問していた。
「あの…、本日はエレオノーラ様の剣術を見に来られたんですか?」
3人で結局見る形になっていたので質問してみた。
「そうだね、剣術などはここで思いきりやっているようだから、見に来たんだ。彼女は他でこんな事はしないからね。」
当たり前だけれど、きちんと場は弁えているんだな…。
とりあえず、社交界での噂についてエレオノーラ様に後で問い詰めなくては。と思いながら私も王太子が帰るまで、二人の稽古を見ていた。
それからあまり経たない内に、エレオノーラ様が王太子の正式な婚約者となった。
公爵令嬢本人はあまり出てきませんでした。けれど周りが放っておかない人物。
主人公は前世持ちをなかなかまだ生かせません。
今回は出せませんでしたが、満身創痍で帰ってくる娘を見てお母様は悲鳴をあげています。
そして姉バカは変わらず。
ふわふわ設定のお話を読んでいただきありがとうございます。
最低限の設定しか決めてないので、あんまり何も考えずに書いてしまっていて、増えていく閲覧数に対してなんかすみませんという気持ちになります。
大筋は決めてますので、閲覧・ブクマを励みにやれるだけ頑張りたいと思います。