36、流行に聡い人の勢いって怖い
マグノリア公爵夫人の一声でお披露目のためのお茶会が始まった。
私の恰好は既に招待されていた流行に聡いご婦人たちの目を奪っていた。
「ただお茶会の話題提供をしてくれると思って、あまり緊張しなくても良い」とオリヴィア様には言われたけれど、こちらを興味津々に見られていると落ち着かない。
そんな事を思っていると私達に真っ直ぐ突進してくる子が一人いた。
エレオノーラ様だ。目の前に立ってキラキラした目で私の事を見ている。
「今日は招待ありがとう、ライル、ローズ。ローズ、とても可愛らしいぞ!また新しい事を始めそうだと聞いてはいたけれど、こんなに可愛らしい姿を拝めるとは思っていなかった。これがローズが提案したという服につけるネックレスというやつなのか」
「来てくださり、ありがとうございますエレオノーラ様。そんなに難しい事では無いのですけれど、ネックレスの両端を留め具に変えると服につけられるオシャレが出来ると提案しただけなのです。私が今つけている物はマグノリア領の細工師に新しく作ってもらったものですけれど…。かなり皆が頑張ってくれたのですよ」
前のめりぐらいでやってきたエレオノーラ様に呆気にとられて緊張とか吹っ飛んでしまった。
さすがに今回はお忍びと称した王太子様と一緒には来ていないようだ。
その代わりに他の貴族令嬢たちと歓談していたようで、迷わず真っ直ぐ来れるのはエレオノーラ様だけだけれど、令嬢たちも新しいオシャレには興味があるみたいだった。
「私もいくつか注文してみるかな。その時は頼みたい。美に関してはマグノリア領とウィステリア領が結びついたら右に出る者はなかなかいないだろうね。私はあまりそういう事に関しては疎いからローズやライルにまかせたいと思う」
おお、現状、公爵令嬢であり王太子の婚約者であり未来の王妃様からのご依頼が…!
けどエレオノーラ様まかせたいって何ですか。
「頼まれたら、はりきってやらせて頂きます。けれどまだ子どもの私達にまかせられるのは荷が重いですよ。そういう事はオリヴィア様に頼って下さいませ」
「ローズ、ウィステリア領でも王都でもそういう事に関して影響力の強い自分の事をちゃんと自覚した方が良いぞ。宝石のようだと例えられるような可愛らしいローズに憧れて真似をする令嬢たちが多い事に気付いているか?…それにローズの周りでは新しい事が起こりやすいしね」
エレオノーラ様は少しだけ呆れてそう言った後に、最後にぼそりと含みをこめた笑みで意味深な言葉を呟いた。
私は思わずさっと目を逸らした。
畳み掛けるようにエレオノーラ様は私が前に教えた紙幣の数え方の普及について教えてくれた。
「あの紙幣の数え方は発行所でもうだいぶ普及して稼働しているよ。私やシュバルツ殿下で王家ご用達の商人たちから店舗を持っている商人たちにも広めていってもらっているところだ。大商人や富豪やお金が大きく動くところはあまり歓迎されていないようだが王家の財務を担っているところや普通の店舗を持っている商人たちにはかなり重宝しているようだ。多分そのうち計算教育として組み込まれると思うぞ」
王太子様とエレオノーラ様の影響力、半端ねぇ。
知らない内にいろいろと進んでたよ!!何よりジークの手の平の上のような気もするけど!
「ほほほ…。ジークの頑張りが評価されているようで何よりですわ…」
「まぁ今はそんな話は無粋だったね。私だけがいつまでもローズを独占している訳にはいかないし。ライルはこの可愛すぎる婚約者をしっかり自慢するよう頑張ってくれ」
「言われなくても。エレオノーラ嬢、今回の流行は私達が作っているので母上よりも私達に頼ってくれて大丈夫だから」
ライルがそう言うとエレオノーラ様は少しだけ虚を突かれたような顔をした後に微笑んで「わかった」と一言、言って席へと戻っていった。
ライルも緊張してるのかな?と思ったけれど、私と同じくエレオノーラ様に緊張を解されてしまったようだ。
その後、私達は各テーブルでお茶やお菓子を食べながら、私の恰好をしっかり見せて、服につけるアクセサリーとしての説明をいっぱいした。
今あるネックレスの留め具を変えれば良いという話をしたら、あまり裕福ではなくてそんなに宝石を買えないと言っていた貴族子女達には喜ばれた。
大人になってネックレスが使いたくなったらまたネックレスとして使っても良いしね。
結構大変だったのが流行に聡いご婦人たちにはもみくちゃにされてしまった事だ。
悪意はないけれど、頭のてっぺんから足のつま先までチェックされ、ほっぺたをもちーっとされてお肌のお手入れは何を使ってますの?とか、下ろしているところの髪の毛を一房ぐらい触って、まぶしいばかりの髪の毛にはどんな洗髪洗剤を使ってるかとかティアラやアクセサリー、服や靴の出来まで褒めながら何でも聞いてきた。
お母様やオリヴィア様に諌められて止まったけれど流行に聡いご婦人たち、勢いありすぎて怖い…。
その勢いのままご婦人たちは注文する事を決めたようだ。ドレスと肌につけるアクセサリーに合わせてほしいという事もお願いしておいた。
ライルはオリヴィア様の友人という事で慣れているのか困った笑みを浮かべていただけだった。
大体のテーブルも廻り終わったので少しだけ心に余裕が出来た。
年代によってテーブルが変わっていて、子供達が多いところに私達の席も用意してある。
そこにはシュナイザーもいてシュナイザーはお茶会で社交の練習もあり、令嬢たちに混ざって席について周りの子と喋っていた。
学園のヒロインよりも前に伏兵がいたわ…!!
シュナイザーは大きくなってく度に将来ばっちりイケメンになる要素がたっぷりあり可愛くカッコよく育ちつつある。そして将来はウィステリア侯爵を継ぐ身分的にも申し分ない良物件だ。
ゲーム内でも、それなりにモテてはいたけれど、もちろん周りがほっておくはずもなく、こんなに小さい内からモテていた。
私はささっとライルを若干引っ張りながらシュナイザーの元へ行き防波堤になった。
私の弟に手を出す輩はお姉ちゃんが許しません。
シュナイザーは一人だったのがちょっと心細かったみたいで私にとても甘えてきた。
自慢の姉様ですと言われた時には私だって自慢の弟だと返して姉弟の仲が良い事を見せつけたりして、お茶会は終わった。
それを見てエスコート役のライルは、ため息を吐いていた。今日はなんだかあまりライル喋らないなぁ。
このお茶会の後に参加した貴族達から、それぞれ話題として広がっていった。
その後マグノリア領の細工師への注文が殺到して、留め具を変えるだけで済む物は鍛冶職人へまでもヘルプが飛ぶぐらい盛況になった。
特に王都にいる針子達は大忙しで、ウィステリア領でもそれに合わせたデザインのドレス作りが始まっていた。
本当に流行って作れるんだなぁ…。
これに合わせて、ライルと私の繋がりが強くなったのを周りにしっかりと宣伝された。
なんだか周りが盛り上がって私達の気持ちは置いてけぼりだ。
私はライルの事が心配だった。学園が始まるまでヒロインに会えないとはいえ、周りがここまで固められてしまったら身動きが取りにくくなってしまう。
私はどうしてもそれが気になって、ライルと二人で話す機会を設けてもらった。
たぶん、それでもお父様に言ったら、どうにでもなる気がするんだよね。
私は二人で話をするために、今回の流行に関してのお話としてのお茶会と称して護衛や侍女などの同行も引き連れてだけれどマグノリア公爵邸へと馬車で向かった。
オリヴィアの友人たちは可愛いもの綺麗なもの、自分を美しく見せるもの大好きです。
オリヴィアから広められるのは一番新しい美容品などが多いので、いろいろと協力してくれます。
そういう事に関して見た目が派手なウィステリア一家は注目が集まりやすいです。
前の話で挿絵を入れさせて頂きましたが、もしまた機会があったらあんな感じに注意喚起をしつつ入れたいと思います。機会が…あったら…。挿絵有りでも楽しめたという方がいたら本当に嬉しいです。
閲覧、評価、ブクマいつもありがとうございます。
昨日、番外編の方も更新しましたので、甘い恋愛もの読みたいという方はどうぞ。恋愛もの思いきり書きたい欲はそっちの方に置いてきました。R-15かな?
過去のお母様視点です。良ければよろしくお願い致します。