3、初めまして
がっちり護衛に囲まれて、お父様と騎士の訓練所にやってきた。
女性騎士の訓練を受けるようで、そちらの訓練所に案内された。
さすがに訓練所に頼んだらお父様も一旦帰ってから私を迎えにくるらしい。
お父様が女性騎士の何人かに頼んでから別れ、女性騎士の方に「少し待っていて下さい」と大きな部屋の一画に通された。
割と大きな部屋の中に何人かの女性騎士がいたけれど、なんというか女の人で鍛えてるとこんな風に筋肉がつくんだなぁ。
かっこいいし健康的なセクシーさを感じる!なんて思いながら周りをじろじろ見まわしていた。
そうすると、その中から子供がひょこっと顔を出した。
「?あまり見ない顔だな。小さい時から訓練所にくる物好きなんて私ぐらいかと思っていた。」
えっ!?誰!?男の子!?
びっくりした顔をして見ると自己紹介をしてくれた。
「あぁ、急に声をかけて驚かせたようだ。すまない。私はエレオノーラ・スフォルビア。スフォルビア公爵の娘だ。」
女の子だった!!話し言葉も相まって中性的に見えるかっこいい子だ。
って、公爵の娘!?私より身分上だったよ!
あわてて自己紹介を返す。
「は、初めまして、エレオノーラ様。私はウィステリア侯爵の娘、ローゼマリー・ウィステリアと申します。」
「最近噂のウィステリア家の令嬢か。噂に違わぬ可愛らしさだ。」
フッとエレオノーラ様が微笑んだ。
たぶん年齢変わらないだろう女の子にそんな事言われると思わなかったよ!
なんだか気恥ずかしくて、ほっぺたが熱い。
「ローゼマリー嬢は何故ここに?知り合いがいるのか?」
「いえ…、これから護身のために稽古をつけてもらおうと騎士の訓練所に頼んだのです。今日、初めてここに来たので何をするのか私もまだわかりません。」
一応、私も女性騎士の子ども版みたいな服なのでドレスでは無い。
エレオノーラ様も同じ感じだ。けれど女性騎士というより、もう騎士服に近いかもしれない。
またそれが似合っている。
一言で言うと、「かっこいい」だ。
それだけじゃ簡単すぎるけど、かもしだしてるオーラがなんか王者のそれっぽくて少し気圧されるくらいだ。
中性的な容姿もあるけれど、豊かな波打つような黒髪を束ねていて堂々とした振る舞いと表情がプラスされてキラキラしている幻覚が見える。
これが高位貴族としての輝き…!私…、多分無い…!
「あまり緊張しないでくれ。私もここで稽古をつけてもらっているんだ。良ければ時々一緒にやれれば嬉しい。」
私の心の中を知ってか知らずか、そんな事を言われた。
「すみません、エレオノーラ様がかっこよくて気圧されてしまっていました。こちらこそ初めてなのできっと不足すぎる相手になると思いますが、よろしくお願いします!」
「よく生意気だとか偉そうだから言葉遣いを直せと言われるんだ。もうこれは癖になってしまっていてな。威圧的になってしまっていたらすまない。…私は6歳だが、ローゼマリー嬢は何歳だ?」
「私は4歳です。私からしたら、その口調も魅力的に感じますけれど、確かに女性にしては珍しいですね…。」
またこの口調もエレオノーラ様の魅力を引き出してると思うけど、淑女らしからぬなんて言われそうではあるなぁ…。
「そうそう、女なんだからとも言われるな。まぁ一人ぐらい変わり者がいても良いだろう?」
とニッコリ笑った顔はとても可愛らしかった。
なんというか、他人を惹きつける人ってこういう人の事を言うんだろうな、と思わせられる。
たぶん、4歳とか6歳の会話じゃない気がした。
私は前世でとっくに成人した記憶があるけれど、6歳でこんな会話が交わせるって事は基本スペックがかなり優秀だ。
いや、もしかしたら同じく転生人かもしれない。どうでも良いけど転生人って語感どっかの星の人みたい。
そんな事を考えていたらエレオノーラ様がふと誰かに気づいたようだ。
私も同じく視線をそちらに向けてみると、騎士服の子ども版を着た男の子が歩いていた。
「ローゼマリー嬢、少し失礼。」
そう言ってその男の子に向かっていった。
「レイス!!今日こそお前に勝つぞ!剣の稽古に付き合え!」
大声でエレオノーラ様にレイスと呼ばれた男の子はゲッという顔をしていた。
「エレオノーラ様、勘弁してください。公爵家の令嬢が、お転婆が過ぎますよ…。とうさ…父に毎回怒られる俺の事も考えて下さい。」
ジト目でエレオノーラ様を呆れ半分に睨んでいた。
「身分差でわざと負けないお前の誠実さを買ってるんだ。それに6歳にして有望な騎士候補を稽古相手に選ぶのはおかしくないだろう。体格差も大人とやるより無理が無い」
「はぁ~。。ただ俺が馬鹿で負けず嫌いなだけでしょ。見つからないようもっと気をつければ良かった…。」
エレオノーラ様は生き生きとしていて、レイス?は下を向いて全身で後悔の念をかもしだしている。
なんだか凄く仲が良さそうだ。
というかエレオノーラ様、子どもと言っても騎士候補である男の子と稽古出来るぐらいなんだ。凄い。
「あの…、エレオノーラ様…、」
私が声をかけると二人ともこちらを見た。
レイスはなんだか驚いた顔をして、こちらを見ている。
「えっ、エレオノーラ様以外にも騎士の訓練所に来る貴族子女が…!いや、そんな訳が…。エレオノーラ様こんな小さい女の子を巻き込んではいけませんよ!」
「お前は何を言っている。私もさっき初めて会ったばかりだぞ。ローゼマリー嬢、すまない。私に対しては無礼だが、悪いやつじゃないんだ。」
なんだかエレオノーラ様が目でレイスに訴えてる気がする。
そうすると、レイスは騎士の礼に則って、私の前に跪いて手をとって、こちらに顔を向けた。
こうして見ると茶色の髪にグレイの瞳で、少しだけやんちゃそうだが顔が整っている。
「失礼しました。お初にお目にかかります。私はスルファム伯爵の三男、レイス・スルファムと申します。」
途端にフッ…と画面に剣を持った青年がこの間シュナイザーの時にも見た女の子をかばっている姿が見えた。
まただ。
確かにレイス・スルファムという名も聞いた事がある。
という事はこの男の子も、あの乙女ゲームの攻略対象という事か。
ハッとして私はあわてて自己紹介を返す。
「初めまして、私はウィステリア侯爵の娘、ローゼマリー・ウィステリアと申します。」
「ローゼマリー嬢、スルファム家は代々、騎士を排出している家系でレイスは幼少から兄たちに鍛えられているために相手に不足は無いぞ!」
「エレオノーラ様、私、剣もまだ持った事がないですし今日初めてここに来ましたから…。ぜひ、お二人の稽古を見学させて頂きたいです。」
と苦笑いして返した。
そうするとレイスがおずおずと私に質問してきた。
「ええと…、ローゼマリー嬢…様?は何故ここに?」
「護身のために、ここにお父様が頼んだのです。様付けはいりません。」
「そうだったのですか。こんなに小さい内から大変ですね。」
「…えぇと……、この間、誘拐されかけてしまって…お父様が心配して、ここに預けたのです。」
「「えっ!!?」」
私が視線を彷徨わせながら言うと二人はとても驚いた。
言おうかどうか悩んだけど、この二人なら何となく大丈夫な気がした。
微妙な気まずさを出してしまったけれど、エレオノーラ様がぽつりと言った。
「まぁ聞かない話では無いが…そうか、大変だったのだな…。」
「あまり言わないで下さいね。」と、弱く微笑んだ。
「ウィステリア侯爵はローゼマリー嬢に大変甘いと聞いていましたけど、なるほど…。」
「…レイス!私はなんだか無性に腹が立ってきたぞ!こんなに幼い宝石のようなローゼマリー嬢を下賤な輩に近づけてはいけないと思わないか」
「確かに。」
その後、二人は顔を合わせてニヤリと笑った。
えっ、何何?ちょっと怖いですエレオノーラ様。
「ローゼマリー嬢!子どもの力で大人の力に対抗するためには限界があると思わないか?ここでどれだけ鍛えても、また鍛えた大人の力には敵わない。」
「はっ、はい。」
なんだかエレオノーラ様の勢いに飲まれてしまう。
「なら、この力差を考えた時にどうしても一撃に近い攻撃で相手を無力化か逃げる時間を稼げるぐらいの怪我をさせるかする方法を考えなければいけない。たぶん今日もそのための前段階を習う事になったと思う。」
「なるほど。」
けど、この世界スタンガンとかある訳じゃないよね。
「私たちに扱えるぐらいの大きさだと、短剣だ。またはナイフ、フォーク、包丁、いざという時はペンを使っても良いし、先がとがっている物または固い物など何でも使っていいんだ。」
えっ…それはぶっ刺すという事でしょうか?
さすがに殺してしまうのは躊躇われる。自分の命がかかってたら、そんな事言ってられないのかもしれないけど…。
「エレオノーラ様、ローゼマリー嬢が困ってますよ。そんな事言われても貴族の子女が躊躇いなく使えませんよ。」
「いざとなったらなんでも使えという心構えだ。けれど、武器になる物に関しては使い方を間違えれば自分が怪我をするから慣れるために、ここで扱い方を学んだりする。」
「まず剣を持てるようにならなければ話になりませんから、剣を持って振れるくらいは体を鍛えなければなりませんけどね。」
なんだか授業を受けている気分だ。何故こうなった。
頼まれていた女性騎士の方も視界の端にいるけれど、うんうんと頷きながら聞いていた。
エレオノーラ様が熱弁をふるっている間に来たらしい。
思わず女性騎士と二人を見比べてしまった。
「ローゼマリー嬢、私たちが出来る限り教えよう。予定通り騎士の手も借りながらでも良い。手伝わせてくれ。」
お…おう。凄い熱い人だ、エレオノーラ様。
「ええと…」思わず女性騎士の方を見上げてしまった。
女性騎士は私の視線に気づくと、ニコッと笑ってこちらを見た。
「初めまして、ローゼマリー様。ドーリーと申します。お待たせしてしまい申し訳ありません。けれど、このお二人ともう仲良くなられたのですね。エレオノーラ様とレイス様はとても優秀ですから良いと思いますよ。もちろん私も監督としてお付き合い致します。」
「初めましてドーリー。で…では、よろしくお願い致します、エレオノーラ様、レイス様…。」
なんだか挙動不審になりながら返事をした。
何故か二人の手ほどきを受ける事になってしまった。
この後、割と厳しい二人の指導を受けながら過ごした。
先ほどの授業のような事をされてから、訓練所にある芝生がある校庭のようなところで準備運動して体を動かす事になった。
よく考えたら、ずっと運動らしい運動をしてこなかったので気づかなかったけれど、私は凄い運動音痴だった。
子どもの頃って、もっと体動かしやすかったと思うんだけど、何故!?
二人の稽古も見せてもらったけれど、6歳のくせに二人はめちゃくちゃ強かった。大人と試合出来るほどだ。
子どもながらの小ささを逆に利用してるらしい。
剣と同じ重さの模造刀も持たせてもらったけれど、予想通り重さに耐えきれずに無様に転んでしまった。
大人になってもこの長さの剣を持てる気がしないわ。
私が運動音痴で覚えが遅いにも関わらず、根気よく二人は教えてくれて、しばらく訓練所に通うのが楽しみになった。
私が一番小さいのでローズと愛称で呼ばれるのに、そう時間はかからなかった。
新キャラ登場。攻略対象より存在感が強いエレオノーラ。
黒髪に暗めの青色の瞳をしています。
ドーリーは凡庸な顔立ちですが腹筋が割れていて、どこもちょうどよく筋肉がついています。
元男爵令嬢ですが、勘当されて身分は今は平民です。
大人との体格差を感じるためにドーリーとも素手で稽古をします。