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悪役令嬢、頑張ります。  作者: 影干し
第一章 気づいたら侯爵令嬢
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閑話 足りないもの

ライル視点です


 私はライル・マグノリア。マグノリア公爵家の跡取りだ。

 父も母も貴族的な生き方をしている人で特別仲が悪いという事もなく、貴族として家族仲も良好だと思う。

 けれど、婚約者として決まったローゼマリーの家族仲を見ていると、あまりの仲の良さと距離感の近さに面食らうと同時に家は冷淡な関係なんだろうかと疑問を感じる時がある。


 子どもの頃から跡取りとして決まっていた私は早めの教育を施された。

 私は教えられればすぐに理解する事も実践する事も出来たし、自分でもそれなりに優秀だと思っている。

 私も教えられた通りに、父と母のように、決められた家との結婚相手と将来、家を継いで子供を作って後継者を育てマグノリア公爵家を安泰させていくのだろうと漠然と考えていた。

 両親が不幸せだと思う事は無い。私もそうなるだろうという想いはある。

 婚約者の相手としてウィステリア家のローゼマリー嬢が決まった時には、噂のローゼマリー嬢の美しい姿に一目で気に入ったし、これから婚約者として将来を一緒に歩む相手として大事にしなくてはと思っていた。


 けれど、敵対心を持って挑んでこられるローズの小さい弟にウィステリア侯爵…、慈しまれてお互い大事にしているところを見せられると、自分の心の中にちりちりと、ふとした飢餓感を覚える。


 私も欲しい。近しい者からの、溢れんばかりの愛情が。


 両親から愛されていない訳では無いのに、欲張りだと思った。



 ある日、ローズの母親であるウィステリア侯爵夫人にローズがいるウィステリア家へ呼ばれた。

 最近お茶会で授業の事を知ってしまってから家庭教師の方を忙しそうにしていたのでローズに会うのは訓練所に見学に行って以来だ。

 ウィステリア家の屋敷に着くとウィステリア侯爵とシュナイザーは出かけていたようで、侯爵夫人にもてなされていた。

 侯爵夫人は人差し指でしーっという仕草をして、お茶会の部屋へ案内してくれた。

 侯爵夫人は女性にしては背が高いのでだいぶ見上げる形になるが、その仕草も妖艶な美女だ。

 さすがローズの母親で、一時、社交界の噂の的になっていた人物だ。あまり目立たないようついてきていた私のお付きの侍従たちもごくりと唾を飲む姿が見える。

 昔、ウィステリア侯爵夫妻は結婚前に社交界を荒らしまわっていた夫婦、となんとも不名誉な噂を振りまいていたらしいが私の母から侯爵夫人は見た目とは正反対の性格だと聞かされていた。

 見た目は妖艶でも中身は小さな少女のようで傷つきやすくて真面目で男女関係に潔癖で清楚なんだと。

 侍従たちには後でよく言っておかなくてはならないかもしれない。


 前にローズ達とお茶会をした事のある部屋にはまた違うお菓子が並んでいた。

 「お好きな物をどうぞ。」と侯爵夫人が笑顔で両手を合わせながら、誘導してくれた。


「呼びつけてしまってごめんなさい。旦那様とシュナイザーはローズの事が大好きで、ライル様に嫉妬して意地悪するものだから、すこーし出掛けてもらっているのです。」


 と言ってパチンとウィンクをしながら説明してくれた。あのウィステリア侯爵を出掛けさせるとは…、意外と侯爵夫人もやり手なのかもしれないな。


「それも含めて両親から聞いていますから。それに私には兄弟がいないので羨ましいです。」


 今日はウィステリア家で侯爵夫人とお茶会だ。

 ウィステリア家でお茶会する機会が増えてしまった。


「ふふ、案外すぐに弟か妹が出来るかもしれませんよ。まだライル様は6歳ですから。」


 曖昧な笑みで侯爵夫人に返してしまった。

 両親が私以外に子どもを作るつもりなのか正直私にはわからない。


「家はウィステリア家ほど、仲が良くありませんから、どうでしょうね。」


 そう言うと侯爵夫人は驚いた顔をしてお茶を持ちながら固まってしまった。


「あ、仲違いしているという訳では無いですよ。」


 と慌てて付け足した。

 侯爵夫人はお茶を両手で持ち直しながら、カップを見て考え込んでいた。


「マグノリア公爵夫妻は貴族らしい方達ですからね。ライル様のお母様であるオリヴィア様とは友人ですけれど、好きな事に飛び込んでいくためにマグノリア公爵家に嫁いでいったようなものですし…。…ライル様は寂しいですか?」


 シュナイザーと同じ翡翠の瞳で私の事を捕えられる。

 侯爵夫人はローズやシュナイザーに向ける母親の顔をしていた。

 愛されたいと願った感情は私は”寂しい”と感じていたからなのだろうか?


「私は……、そんな事を思うのは贅沢だと思っています。」


「聞き分けがよすぎるのも親として寂しいものですよ。」


「けれど、ウィステリア家のように仲良くしてくださいと言って上辺だけ仲良くされても空しいだけです。それに…多分今の距離感が自分でもそんなに嫌いではないと思っているんです。…私は…、」


 私は、あぁ、愛されたいんじゃないんだ。

 自分の体裁を失えるぐらいの愛情を自分が持ちたいと思ったのか。

 愛されるだけではなくて、自分がそういう感情を持ちたい。

 相手もそれを返してくれたら最高に幸せだと思う。


 自分の手をぎゅっと膝の上で握りしめた。

 ローズやウィステリア侯爵やシュナイザー、侯爵夫人というウィステリア家の関係を羨ましいと感じていたのはそれが当たり前にここにあるからだ。


 そんな事を考えていると、私のお茶を侯爵夫人が淹れ直させた。


「ライル様、私は今日は旦那様とシュナイザーがいない時にお家でのローズとの時間を取って欲しくて呼んだのです。ローズも外に行くと自分の立場を気にしてしまいますから。少しはゆったりした時間を二人で過ごしてほしかったのですわ。」


「最近ローズに会ってなかったのでありがたいです。」


 少し元気無く返事を返してしまった。


「ライル様はとても優秀ですけれど、心がまだついてきていないのです。それはこれから成長するもので、成長していく度に、とても素敵な男性になっていくでしょうね。」


「…そうなのでしょうか?」


 私が欲しいと思っている感情を自分は持つ事が出来るのだろうか?

 両親と同じく貴族としての義務だけで生きていくのではないだろうか?


「自信がありませんか?私はローズやライル様が大きくなった時にお互いに心を占める存在になり得て欲しいと思っていますけれど…。」


「私は…、今はまだよくわかりません。」


 わからない。ローズがそういう存在になり得るのか。

 婚約者なのだから、出来ればローズがそうであって欲しいけれど、きっとローズも私も、今一番大事なのはお互いじゃない。

 ローズは家族が一番大事だろう。けれど、自分はなんなんだろうな。


「まだ早すぎますものね。ライル様もローズもまだ6歳ですから。私ったら二人とも大人びているものだから、少し気が早かったですわ。お話に夢中になってお菓子に手をつけられませんでしたわね。」


 と、侯爵夫人が言って、お互いにお菓子にも手を付け始めた。

 この間の小さいケーキは家でも評判だったけれど、ウィステリア家のお菓子は見た目への探究心が凝っていて、美味しいしおもしろい。

 落ち着いた頃に侯爵夫人がローズの授業が終わっているか侍女に聞いていた。

 侍女は今日は授業で教える事が増えて長引いているようです、と返していた。

 そういえば、科目が増えると言っていたからな。

 侯爵夫人はう~ん、と考えて小休憩という形で少しお茶出来ないかしらと提案していた。

 そういえば、ジークが家庭教師としてついているんだったな、と思い出していた。


「侯爵夫人、私も少しローズの授業の様子を覗いてみたいです。私が声をかけに行ってもよろしいですか?」


 と言うと「ええ」という返事と共に、授業部屋として使っている部屋へ使用人に案内してもらった。

 急に入って邪魔する訳にもいかないので、そっと覗いてみると、ジークと思われる眼鏡をかけた神経質そうな男性がローズへ授業をしている最中だった。

 ジークは何故かお金を置きながら、歴史の授業をローズに教えていた。無表情だが、目線が少しだけこちらへ向いた気がする。

 聞いていると、歴史と地理を混ぜたものを授業としてやっているようだが、ローズは歴史の授業として聞いているようだ。計算の授業でも驚いたが、教える段階が早すぎる。

 正直に言って6歳でやる範囲では無いのだが、何故かローズはついていっている。

 何故かローズは平民の情報も求めるので平民出身のジークならではの情報も入ってくるのはおもしろいと思った。

 少し部屋に入らずに授業の様子を見ていると、遅いと思われたのか後から侯爵夫人が私がいる授業部屋の前へと来た。


「まだ声をかけていないのですか?」


 と、侯爵夫人に言われ私はしーっと人差し指を口に当てて、小声で言った。


「今日はローズとお茶をするのは遠慮しておきます。授業の邪魔はしたくありませんから。」


 侯爵夫人は口に片手をそっと当てながら中の様子を見て「何故お金が…?」と首を傾げながら呟いていた。


「ジークは優秀な家庭教師として有名ですが、ローズはあの授業のスピードについていけているのですね。」


「まぁ、そうなのですか…?」


「正直に言って少しワクワクしてしまいました。私がやっていないところもジークならば知っていそうです。ついていけるのか私にはわかりませんが。」


「あら…。!!それならローズと一緒にジークの授業を受ければよろしいのでは無いですか?」


 侯爵夫人は名案だと言わんばかりに私に提案してきた。


「私にはもう家庭教師がついていますし、それだけのためにウィステリア家に毎回来るのは…。」


「では、マグノリア公爵領についてのところだけはどうでしょうか?ライル様が知っている事もローズに教えて下されば、より勉強になると思うのです。無理にとは言いませんけれど…。」


 ジークの授業には興味があったので、私個人としてはやってみたい。


「それならば…。では帰ったら両親に聞いてみます。」


「はい!良いお返事を期待しておりますわ!」


 花が咲いたような笑顔で侯爵夫人は言った。母の言う通り確かにウィステリア侯爵夫人は少女のような人だ。

 けれど何よりローズの母親としての行動なんだろうな、と思う。


乙女ゲーム内では足りないものを埋めてくれるのがヒロインです。

ただこの自覚をするのが早くなりました。

本編に組み込みたかったのですが、断念。

ジャンル恋愛をいい加減書きたくてしょうがないのですが、上手く話を進められる人間になりたい…。何もかもすっとばして学園編を書いてしまいたい衝動にたまに駆られます。


いつも閲覧、ブクマ、評価ありがとうございます。


昨日の話を投稿したらブクマ1000件超えました!と喜んでいたのに外されてて笑ってしまいました。いや、申し訳ない。

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