2、嬉しい事と怖い事
今回は後半に暴力表現、少し性犯罪的な表現があります。ご注意ください。
今日も今日とてお父様の愛情が凄い。
さすがにやりすぎだと思った時は言っていた。
『あまり好きなものだけ食べていたら病気になります。料理はバランス良く一汁三菜が良いんですよ』とか。
『数があれば良いってものではありません!もったいない精神も大事です』とか。
こちらでは聞きなれない日本人としての何かが出てしまってお父様はポカンとして、どういう意味なのか聞いてきた。
『もったいない精神』の方は「貴族として受け入れられないねぇ」と苦笑いされてしまった。
けれど、料理の方は「興味深い」と聞いてくれた。
こちらの世界でもおかしくないラインを探って言ったつもりだ。
まだ3歳だった時にとても嬉しい事が起こった。
「ローズはあまり物を欲しがらなくなってしまって私は寂しいよ。何か欲しい物は無いのかい?」
と、なんだかしょんぼりしてお父様が聞いてきた。
う~ん、欲しいと思う前に全部お父様かお母様が買ってしまうから多分無いんだけど…。
「では、弟か妹が欲しいです。」
一人娘だから溺愛されるんだろうけど、兄弟がいれば分散されるはずだ。
むしろ分散した方が良いぐらいの愛情だ、と思って言ってみれば、二人にとても驚いた顔をされた。
「エリー言った?」「いいえ」
「どうしたのですか?」
「母様のお腹に弟か妹がいるんだよ。もう少し後に驚かせようと思っていたんだけど…驚いた。」
「えっ!!??お母様もう妊娠してるのですか!?」
「そうだよね、知らなかったよね。」となんだかお父様に安心された。
お父様のいったいどこにそんな時間があったんだろうかと思わされる。
仕事して私の事を構い倒した後にもお母様とやる事やってt…いやいや、仲良くやってたのね~。
「いつ頃産まれてくるのですか?」
「ローズが3歳の内に産まれてくるよ。冬かな~」と満面の笑顔で返された。
「お母様具合は大丈夫なのですか?辛くないですか?」
つわりは酷い人は酷いから心配だ。
「大丈夫ですよ。すこしだけ具合が悪くなるだけで、その期間も過ぎましたからね。ありがとう、ローズ」
お母様もお腹を撫でながら微笑んで返してくれた。
やがて冬になり、無事に弟が産まれてきた。
名前はシュナイザー・ウィステリア。
未来のウィステリア侯爵だ。ちなみにウィステリアは家の家名。
私のフルネームはローゼマリー・ウィステリアだ。
ぼんやりと、私の名前、なんか聞いたか見た事あるんだよなぁと思いながら産まれてきた可愛い弟を存分に愛でていた。
「しゅにゃいじゃ~~、お姉ちゃんですよ~~~~~!」
私が首の座らない弟を抱っこしながら頬ずりしてるところを周りがハラハラと見守っていた。
可愛い。家の弟は世界一だ。
私がこんな風に愛をぶつけても泣かない子だ。強い。
けど、たまに見せる笑顔なんか破壊力抜群だ。天使か。
「お嬢様は旦那様にそっくりですねぇ…。」
「受け継がれていますわねぇ…。けれど良いお姉様になりそうで嬉しいわ。」
将来、嫁が来た日にはシュナイザーを幸せに出来る女かどうか見極めなくては!
などと小姑魂をふるっていたところ、画面に無口な男の子が可愛い女の子と幸せそうに寄り添っている光景が一瞬見えた。
…あれ…。
シュナイザー・ウィステリア…。侯爵子息…。
確かあの男の子もそんな名前だった気がする。
私はそんな乙女ゲームをやらなかった…?
ハッとしてシュナイザーをお母様に渡してから部屋に戻って前世の記憶を引っ張り出してみた。
私は前の世界でここと似た世界を見た事がある…。
ローゼマリー・ウィステリアもどこかで出てこなかった…?
確かにわかるのは、私はヒロインである主人公では無かった。
これ以上は思い出せない。
けれど、ここは乙女ゲームの世界かもしれない。
私の弟はヒロインに愛をささやくだけの男になるの!?
何てことだ…!くそっ、女狐め!うちの弟を誑かしやがって!
などと一人でその日は部屋でうんうん唸っていた。
良い事もあると、悪い事もあるのかその数日後に前の人生を合わせても味わった事の無い恐怖に晒される事になった。
4歳くらいの時にパーティーに顔を出した後、元々両親が有名だった事もあって、あちこちで私の噂が広まり、あまりよくない輩も寄ってきてしまった。
幼女趣味の子爵に目をつけられてしまっていたらしい。
パーティーの帰りの馬車を賊に襲われた。
その時乗っていたのはお父様と私だけで、お母様とシュナイザーは留守番だったのは幸いだった。
お父様はずっと私を守るように抱きかかえてくれていたけれど、賊が通る道では無いという油断から護衛の数も少なかった。
数が多い賊の男たちにだんだん圧され、お父様も外に出て剣を振るう事になった。
私は馬車に隠されていたけれど、怖くて周りを見る事はとても出来なかった。
その内、私が隠されていた場所がごとりと開き、じっとりとした目と視線が合って、「ひっ」と声が出た。
私を誘拐するのが一番の目的だったらしく、変態貴族の仲間だろうと思われる賊に口をふさがれ匂いを嗅がれ、顔を舐められた。
全身の震えが止まらなくて怖くて殺されると思った。そして何より悪寒と気持ち悪さが凄かった。
きたない さわらないで きもちわるい こわい
何で私は今子どもなの?
とぐるぐる思っていたところに鬼になった父様が凄い勢いで助けに来てくれた。
ものすごい剣幕で賊の男に対して何をしゃべっていたのかわからないぐらいだったけど、剣を使わずに原型がわからないぐらいボコボコにしていた。
その後は、そのまま賊たちを捕まえて背後関係に誰がいたか調べたらしい。
私は震えが止まらない口から「…と…さま…。」と言ったら、私のところにしゃがみこんで舐められた顔を濡れたハンカチで拭いてくれた。
その後、痛いくらいに抱きしめられ、怖かったのと安心したので涙が止まらなくなった。
「怖かったな、ごめんな、ごめん……」と言いながら私から顔は見えなかったけど、お父様も泣いていたと思う。
それから子爵はいなくなった。
お父様は子爵はあの件で捕まっただけだから心配はいらないと言っていた。
しばらくはパーティーに行かないようにした。
お父様は自分も怖い姿を娘に見せた事を後悔してるようだったけれど、私にとってはピンチにかけつけてくれるヒーローだった。
怖い事なんか何もない。同じような事を本人にも伝えた。
あれからお父様は過剰なスキンシップをしてこなくなった。
私がこの間の事が心の傷になっているんじゃないかと思っているようだ。
なってないと言ったら嘘だけれど、お父様に抱きしめられるのは逆に安心するのに。
なんだか寂しいのでお母様に甘えていた。
お父様に呼び出されて
「まだローズは小さいけれど、大きくなるにつれてもこの間のような事が無いとは言えない。護身用に騎士の訓練所に行って習っておこう。」
と、とても真面目な顔で言っていた。
「家の娘は世界一だから、変なやつも寄ってきてしまうからな。可愛く美しい者の弊害だ。」
少しだけおどけて付け足してきた。
「お父様に習うのでは駄目なのですか?」
たぶん、この間、父様はめちゃくちゃ強かった。
だからあの速さで解決出来たのだと思う。
「私がローズに教えたら、剣を持った時点でそんなもの捨てなさいと言ってしまうし、全く痛くなく辛くもない身にならない教え方しか出来ん。」
どれだけ私に甘いのお父様!それもう子どもの成長妨げてない!?
苦虫をかみつぶしたような顔で言ってるので本当は騎士の訓練所にも行かせたくないんだろうなって予想出来た。
けれど、苦渋の決断なのだろう。
「わかりました。やるからには頑張れるだけ頑張ります!目標はお父様に致します!」
「それはやめて」
「…じゃあお父様が目標は辞めます。その代り…私が違う目標を達成出来たら、お願いがあります。」
「ローズのお願いなら何でも聞くよ。いつでもね」
「私が少し強くなって、ちょっとでも自分の身を守れるようになったら、またぎゅーってしてください。…お父様のぎゅーもないと寂しいですから。」
お父様が少し目を瞠って、おずおずと、とても緩く抱きしめてくれた。
「お父様、早いですよ」
「いつでもって言ったでしょ。父様もぎゅーってしたいけど、怖い人と同じになりたくないから。これで許してね。」
「怖い人と同じなんてありませんよ。お父様は特別です。私はこの間の事でもっとお父様が好きになりましたよ。」
「うん、私も世界一愛してるよ。けれど、こうして大事に出来るのはここだけだから…。貴族として生きていくなら異性が怖いなんて弱み見せられないんだ。本当なら、ずーっと屋敷で守ってあげたいけどね」
悲しそうに微笑んで、お父様は離れた。
あまりにも大事にされてるのが分かって胸が痛い。
お父様の愛情に溺れててはいけない。
子どもの力では限界があるけど心配させないぐらいは身を守れるようになりたい。
某探偵少年のようにキック力増強シューズとか欲しい。
チート欲しいなぁ…。けど日本だって防犯ブザーぐらいしか子どもが身を守るものって無いよね。
う~ん、まぁいいや。
「頑張ります!」
正直、護身術なんて習った事が無いので、ちょっと楽しみだ。
いえすろりこんのーたっち。
父様も自分の娘が害されるのかと恐怖でした。
閲覧、ブクマありがとうございます。
自分の文章なので期待はしてなかったのですが閲覧数が凄くてびっくりしています。
未熟な文章力で申し訳ないですが、一人でも、おもしろいと思ってくれる方がいれば嬉しいです。
あらすじネタバレですが、もう少しお付き合い下さい。