19、初めての家庭教師
後半に残酷な表現があります。ご注意下さい。
あのお茶会の後、疲れたのかその日はぐっすり眠ってしまった。
次の日起きたら、シュナイザーが私の隣で寝てて、びっくりと同時にとても癒された。寂しかったんだねシュナイザー…!
そういえば、お父様に家庭教師の話を聞こうと思ってたんだっけ。
読み書き計算なら、お父様とお母様に小さい頃から絵本を読んでもらったので、簡単な文章なら読めるようになっている。
ゲーム上で数字ってローマ数字だったかな。なら全然、計算は問題無い。
前世では仕事上、どこでも数字との戦いだったからね。
さすがに読み書き計算でつまづく事はないと思うんだけど、お茶会でお姉様方から聞いた話だと、社交やマナー、ダンスを女の子は学園に入るまでは取る人が多いらしい。ダンス…。貴族なら必須だよねぇええ、どうしよう…。
思わず顔を覆ってバタバタしてしまう。
つまづいて転がる未来しか見えない…。いっそ受け身とか前転とか後転とかの練習しとくか…と自嘲してしまう。
今更だけど、私、この世界のゲーム上に出てこない知識の事を全然知らないんだよね。
目に見える物はわかるけど、この国の歴史とか地理とか、教育の仕組みとか、お父様がしている貴族の仕事とか。
えぇと、私は今、侯爵令嬢なのだから、侯爵領の収益でこの贅沢をしてるんだよね?
前世での仕事がもしかして活かせるかもしれない!あっ、パソコンが無いと無理だ!
内政チートとか魔法とかせっかく異世界に来たんだから、やってみたいじゃんよ…。
けどこのゲーム魔法とかは出てきた事無いんだよな。魔法自体が認識されてるのかが、わからない。
この屋敷にも図書室があるのだけど、侍女に絵本を持ってきてもらうばっかりだし、屋敷を見て回った時は家に図書室ある、すげー!と思っただけで、次々、回って行っちゃったからなぁ。
図書室で調べられる所は調べるのも良いかもしれない。
読むのもまだ不安ではあるからお父様の所にまず行ってこよう!
と意気込んで、ベッドの上で前転してみた。
体が傾いて、コースがそれてベッドの下へ、どべしゃっと激突した。ふむぐぅ…!!
体の側面と顔が痛いよぉおおおお!!
涙目でベッドの下で痛みに耐えていると、シュナイザーがベッドの上から覗いていた。
「ねぇさま…?どうしたのですか?大丈夫ですか?」
「シュナイザー…姉様はもう駄目です…。ダンスの準備運動も出来ない女なのです…。」
「?ベッドでダンスをしようとしたのですか?…大丈夫ですか?」
おう、頭がという意味か…!いろいろと察せるシュナイザーはやっぱり優秀な子だわ。
そんな事を喋っていると侍女が入ってきて、起こしてくれた。いたた…。
「お嬢様、ベッドの上で遊んでいたら怪我をしますよ!おいたわしい…お医者様を呼んできますからね!」と言われて慌てて止めたけれど、結局呼ばれてしまった。
お父様とお母様も飛んできて、怒られてしまった。お父様は怒ってないけど、とても心配していた。
顔に少し赤い跡が残って、お父様がちゃんと消えるのかお医者様に詰め寄っていて、お医者様にとても申し訳ない気持ちになった。こんなのすぐ消えるよ…。
うお~、恥ずかしい!
「お、お父様、私、お聞きしたい事があるのです!訓練所でも小さいケガはしょちゅうありましたから、大丈夫ですよ!」
お父様はむむっと難しい顔をした後に、話を聞く体勢になってくれた。
「あのですね。この間のエレオノーラ様のお茶会で家庭教師での必須科目の話を聞いたのです。」
「あぁ、まだローズは6歳だから、あと2年は余裕があるよ。」
「ライルは早めに科目を取る事も可能だと言っていました。私も早くお勉強をしたいのです。」
「あら…。ローズもライル様に追いつきたいのね。」「なっ」
「違います!エレオノーラ様は既に6歳の時から兵法書を読んでいました。兵法書は難しすぎますが、私もいろんな本を読んでみたいし、いろいろな事を知りたいのです。」
「う~ん…。エレオノーラ様か…。」
「ローズがやりたいというのなら、やらせてみては?まだ2年も余裕があるのですから、集中出来ないようならすぐに辞めても構わないのですし。」
「お父様、お願いします。」キラキラとした上目使いでお願いしてみる。
「わかった。すぐに準備しよう。なるべく簡単な子ども向けの問題を作る家庭教師を雇うか…。」
「お父様、普通で良いです。8歳から習うのを2年早めたいのです。その分、私ダンスや体を動かす科目は壊滅的だと思うので、そちらで帳尻を合わせたいです!」
と言って、先ほど打ち付けてしまった一部をバッと見せた。
「ねぇさまは、ダンスのれんしゅうをベッドでしようとしたそうです。」
様子を見ていたシュナイザーがちょうどいいところで口を出してくれた。
お父様とお母様はそれぞれ、う~ん、と頭を抱えてしまった。
お父様はすぐに家庭教師をつけてくれた。
文字の勉強からなので、元々、絵本で字には触れていたし、読むのはすぐに出来るようになった。
日本ではひらがなとカタカナと漢字の3種類覚えないといけないのに比べたら、カードで文字を一文字ずつ出す授業なんぞ軽すぎる。普通で良いって言ったのに、簡単な問題を出す家庭教師にしたな、お父様…!
そりゃ外国語をもうひとつ学ばないといけないと思うと簡単なのは、ありがたいけどね…!
さすがに覚えが早かったので、文字をひとつ読めるだけで大仰に褒める先生から驚かれてしまった。
「絵本で小さい頃から慣れていましたから」と頬をピクピクさせながら弁解しておいた。
計算だけはどうしようも無いんだけれど、おもちゃを10個程度持ってきて、1+1=2を教えてくれるのを我慢して解いていた。
面倒だったので授業の最後ぐらいに足す引き掛け割るをそのおもちゃを使って、さもわかったように先生に説明したら、天才です!と叫ばれた。そりゃどーも…。
こちらの世界の家庭教師はサービス業に含まれるのか。大変だな。
冷静に考えたら、最初の授業で子どもを退屈させないように興味を持ちそうなおもちゃ等を使って褒めて伸ばすこの先生は優秀なのかもしれないわ。中身がアラサーで申し訳ないね。
とても優秀な先生には申し訳ないのだけど、もっとたくさんの子どものためにその優秀さを活かして欲しい。
という訳で、お父様に先生のおかげでこんなに出来るようになったんですの!と言って、出来た事全部、披露してみて驚かせた。「もう少し難しい事も試してみたいです。」とお父様を威圧しておいた。
次の授業は、違う家庭教師になっていて、基本の読み書きと、もっと難しい科目まで幅広く出来る神経質そうなガリ勉ぽい先生になった。
普通っぽい授業になって安心した。
後で知った事だけれど、先生は学園の平民棟の出身だった。
少しは難しい文章も読めるようになったので、家の図書室で、侍女に魔法…不思議な力について書いてある本は無いかと聞いてみた。
ものすごい苦い顔をされて拒否されたけど、え!?あるの!?と思って、しつこく聞いて知る事が出来た。
ホラーだった。
この世界での魔法の位置づけがヤバすぎる。
歴史に近い本だったのだけど、それによると、昔イガナスク国の建国よりも前にとある国で摩訶不思議な理屈の通らない力が、ある子どもに顕現した。
発現したばかりで大した事は無かったけれど、その不可思議な力を求めて権力者が群がった。
その後その力を求める余り、その子どもの体の一部を持っていれば力の恩恵を受けれるのかもしれないと殺されコマ切れにされた体の一部が当時の権力者中に配られた。平民だからという扱いもあったかもしれない。
それ以来、魔法を使える者は現れていないそうだ。ちなみにその国はもう滅びているらしい。
そんなん呪われるわ!アホか!読んだ後にぞわっとした。
魔法が使えたら魔女狩りに合うじゃん、こんなん…。
真っ青な顔をして、腕をさすさすしていたら侍女に刺繍がびっしりしてある、ひざ掛けをかけられた。
「だから言ったでしょう、お嬢様。こんなものを読ませてしまって申し訳ありません。」
「私が無理を言ったのだから大丈夫よ。さすがにこんなに怖い話だとは思わなかったけれど…。また、こんな力を持った人間が現れたら、同じような事になってしまうのかしら…?」
「理解できない力なんて、どの国にとっても脅威ですからね。それにお嬢様、あまりこういう事に興味があると口に出すのもこういう経緯がありますので、憚られます。気を付けて下さいね。それでも、この扱いはあまりにも残酷ですね…。狂った人間が多い国だったのでしょう。」
思わず本に向かって手を合わせた。
世界が違えばチートだったのに、この子が今度はもっと違う世界に生まれてきますように。
…転生のせいで私に魔法の力とかが覚醒しませんように。
自分の力だけできちんと生きていこう、と強く決心した。
貴族の子ども時代は全員、家庭教師での科目を取らないといけないという事情で家庭教師はいろいろな人がいます。
貴族の家に入れるのに信用がいりますので、実力と経験が必要。余所の貴族内での評判などでも判断されます。
魔法はありません。ホラーです。
忌避されるのにも、パワーバランスが崩れてしまうからという理由があります。
魔法が溢れてる世界も楽しそうなんですけどね~。
説明が多かったかもしれません。申し訳ない。
花粉が辛いです。
いつも閲覧、ブクマ、評価ありがとうございます。