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悪役令嬢、頑張ります。  作者: 影干し
第一章 気づいたら侯爵令嬢
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閑話 私の妹

前の話と更新時間が近いです。読み飛ばしにご注意ください。シリアスかも。


 私の妹は変だ。貴族として致命的な欠陥を持っているとしか言えない。

 いつもおどおどして人を見る度に怯えていて、見ているとイライラする。

 本当は誰よりも恵まれた容姿をしているくせに…。

 

 お母様は産まれてきた妹を見て男児じゃなくても、とても嬉しそうだった。

 家には正妻であるお母様と妾が一人いる。あの女は男児一人産んだだけでこの家で大きい顔をしている。

 お母様は私達、姉妹を産んだけれど、男の子に恵まれなかった。

 妹を産むとなって男児か女児かで家は少し緊張状態にあった。お母様が男児を産めば、あの女の子どもが跡取りでは無くなるからだ。

 女の子が産まれたと聞いて肩を落としてしまったけれど実際に妹を見た時、奇跡のようだと思った。

 お母様に嫌味を言いに来たあの女すら妹の目を見た途端、踵を返したくらいだ。

 くりくりとした目には、うっすらピンク色の瞳の中に何色もキラキラと宝石のように輝いていて、お母様は「この子は神様からのプレゼントをいくつも受け取った子なのね。」と瞳を潤ませながら愛おしそうに撫でていた。

 プレッシャーからか、お母様は早産だった。男の子じゃなかったショックもあったはずなのに。

 けれど、この子なら将来、家格がどれだけ上のお嫁に行っても不思議じゃない。

 こんなに美しい瞳は見た事が無い。私達、家族と顔は似ていても瞳の色だけは神様からのプレゼントとしか言いようが無かった。

 妹は赤ん坊からどんどん大きくなり、見た目も愛らしいピンク色のストレートの髪の毛とキラキラしている瞳が相まって、とても美しく、家の者、皆が笑ったり怒ったりする妹に魅了された。

 侍女なんかは妹を飾りたてるのに生きがいを感じていた。

 あの女の子どもも妹が近くにいるとそわそわして妹に隙あらば話しかけようとして、あの女に怒られていた。


 妹は大きくなって言葉もどんどん話せるようになり、物事もきちんとわかってきた頃に、急に変わってしまった。


 最初は部屋に閉じこもってしまって、あの女に何かされたのかと心配したけれど、久しぶりに会った妹は人が変わったようになっていて、「ゲームでは…」とか「攻略対象者が…」とか意味不明な言動をブツブツ繰り返していた。

 何より、あの美しい瞳を、どこから持ってきたのか、分厚い眼鏡で歪ませていた。

 ストレートの髪の毛は自分で編んだのかぐちゃぐちゃとした三つ編みにしていて、服も持っている中で一番シンプルな物になっていた。

 家の者たちは「一体どうしたんだ」と阿鼻叫喚で、妹を見た目だけでも元に戻そうと頑張ったけれど、妹は全部を拒否した。

 この日から妹は貴族としての鼻つまみ者になった。


 人に会えば怯えたようにする妹は、どんな人が来ても隠れるように振舞った。

 失礼な振る舞いをするなと怒った後に何をそんなに恐れているのか聞いてみたけれど、黙って下を向いてしまうままだ。余計に腹が立った。


 ある日、あの女がお母様に妹の事で「あんな欠陥品を世話しないといけないなんて大変ね。」と笑いながら嫌味を言いに来た。

 あの女にもそんな事を言わせる妹にも頭にきた。

 妹は私達、家族に心を開かなくなったくせに、最近平民の男に懐いている。

 そんな事があった後に、あの平民の男と楽しそうに喋っている妹が目に入った。

 我慢の限界だった。

 私は平民の男を睨みつけてから妹の腕を掴んで私の部屋へ引きずるように連れていった。「姉様、痛いです。」という妹の声が聞こえた気がした。


 「座りなさい。」と言うと私が怒っている事を察してか妹は縮こまりながら、おずおずと椅子へ座った。

 既に待機していた侍女に目で合図すると、あまりにも野暮ったかった服を、流行りに乗った妹に合う服へ着替えさせた。ぐちゃぐちゃだった髪の毛もほどいて綺麗に梳くだけであの頃のストレートの髪の毛がすぐに蘇った。そのストレートの髪を活かした服に合う可愛らしい髪形へ変えた。


 私は妹の目を歪ませている眼鏡を取って床に叩きつけた。

 妹の体がビクッとした後に固まった気がした。

 怯えていても、久しぶりに見る妹の目はやはりとても綺麗で顔立ちも愛らしいままだ。


「…お母様の期待を裏切って恥ずかしいと思わないの?あの女はあなたが、そんな風になってから大喜びよ!こんなに恵まれて産まれてきたのに何が不満だって言うの?」


 私は妹を鏡の前へ立たせた。

 妹はくしゃりと顔を歪ませて綺麗な瞳から涙を溢れさせた。

 こんな時でも涙が妹の瞳の輝きを増させて綺麗に見える。


「よく見なさい。私は許せないのよ。あなたの事を嘲笑って欠陥品だとお母様に言うあの女も、あなたの事を知らないくせに馬鹿にする人間も、もう期待出来ないと勝手に去っていく奴らも、何より自分を否定するように行動するあなた自身も!」


 妹は、泣きながら、ひっくひっくとしゃくりあげている。

 私は鏡の前に立っている妹の肩を後ろから抱きしめた。


「あなたは産まれた時から私の自慢の妹よ。あなたが産まれてきた時に奇跡だって思った。こんなに可愛らしい妹なんだって、きちんと周りにも自慢させてちょうだい。」


「…きぜ…きぜぎじゃ…あだじ…げっがんあ゛る゛…っげほっげほっ。」


 何言ってるのかわからなかったので、とりあえず背中をさすっておいた。


「…わたし…おくびょうで…ねえざま…わたし自分を変えられないんでず…。ごめんなざい…!」


 妹は顔を覆い隠しながら泣き続けていた。

 私はため息を吐いた。


 床に叩きつけた眼鏡は下がカーペットだったので割れる事は無かった。

 妹は少し落ち着いてから、真っ赤になってしまった目で私の方をチラチラと伺いながら眼鏡を拾い上げていた。

 その後も妹はあの野暮ったい恰好を続けて、平民の男のツテで平民の生活を覗いているようだった。

この国では一夫一妻制で貴族には妾が許されています。

ただ国王夫妻が妾を置かないので、おおっぴらには持ちにくいです。

歴史的に兄弟間や親族間での殺し合いなどで国が荒れたので、今では子を増やしすぎないよう、ルールが厳格に定められています。


いつも閲覧、ブクマ、評価ありがとうございます。

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