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雨と先輩

作者: 安浦
掲載日:2016/08/13

何となく園田先輩って苦手だ。


何となく信用に欠けると思っているのは、多分…私だけなのだろう。




「滝瀬、掃除終わった?」


先輩の声は私に緊張感を与える。


「もう少し…です」


先輩の目を直視するのも苦手だ。


「終わったら声かけて。戸締まりするから」

「…はい…」


何考えてるのかよくわからない。


「俺、部室にいるから」




ここまで警戒するにも理由がある。

あれは半年程前の雨が降っていた日のことだ。


バスケ部の私は忘れものを取りに部室に戻った時に、先輩はまだ体育館で1人練習をしていた。


『滝瀬。忘れ物?』

『はい。

先輩は練習ですか?』


先輩はボールを手で持ち変えながら言った。


『…雨なのに傘ないから、雨が弱まるの待ってるんだよ』


先輩がそう言うから私は自分の傘を指差しながら言った。


『あ…よかったら私と一緒に入り…ます?』


下心なんか何もない。

ただの人助けのつもりだった。


先輩は優しく笑ってゆっくりと私に近付いてきた。


私はただ先輩をじっと眺めていた。


『じゃあ、一緒に入れてよ』


そう言って、先輩は私の持っていた傘を自分の元に引き寄せた。


『え…?』


私は気のせいだと思ったけれど、その拍子に一瞬だけギュッと抱き締められたような気がしてしまった。


『帰ろうか』

『は、はい…』


それはきっとただの気のせい。

だけど、どうもそれからは先輩を直視出来ない。





あれから半年もたっているのにそれは変わらずだ。


私は当番だった掃除を終わらせ、先輩のいる部室に向かった。


「先輩、終わりました」


私の呼び掛けに、先輩は部室から出てきた。


「お疲れ様」


私の苦手な先輩の笑顔。

それを見る私は自然と先輩から目をそらしてしまう。


「滝瀬、忘れ物ない?」

「ないですよ!」


先輩もあの日のことを覚えているのか、悪戯な笑みを浮かべていた。


「戸締まりしたし、帰ろうか」


先輩が何気なく一緒に帰る話をしているものの、私はそれを後退りしてしまう。


「…滝瀬って俺のこと嫌い?」

「え?!」


先輩からの意外な言葉にまたも後退りしてしまう。


「ま、まさか!!そんなわけ…」


そう言いながら、チラリと先輩を見ると、先輩は優しく笑っている。


その度に私は何だか胸がグッと苦しくなって、私は自分のカバンの持ち手をギュッと掴んだ。


「鍵、職員室返してくるから」

「あ、はい。じゃあ…お疲れ様でし…」


そう言いかけたときに、先輩は私の話を被せるように笑って言った。


「返してくるから下駄箱で待ってて。あと、俺のカバンも一緒に下駄箱に置いといて」


先輩のその目が私をノーとは言わせない。


「…わかりました」


先輩のカバンは思ったよりも中が雑で、チャックも半分くらい開いていた。


私は靴を履き替え、ボーッと空を見上げてみる。


夕方なのに明るくて、蒸し暑い。

手でパタパタと仰いでいると、廊下から小走りで向かってくる足音が聞こえる。


「滝瀬、帰ろう」


ポーカーフェイスな先輩が汗ばんで急いできた姿を想像してしまい、私はプッと笑ってしまった。


「何笑ってんの?」

「いや、何でもないです」


先輩は不思議そうに私を見ていた。


そして、いつもよりゆっくりと歩きながら帰る。

友達となら、無言でも気にならないのに。


私はチラリと気付かれないように先輩を見る。


「何?」


だけど、それも失敗に終わり、バッチリと目が合ってしまった。


「いや!その…」


園田先輩は他の先輩と全然違う。

一人だけ特別で、キラキラして見える。


「滝瀬って、人見知りじゃないよね?」

「え?!」


突然の先輩からの質問に私は聞き間違えたのではないかと思ってしまったくらいだ。


「人見知りではないと思いますけど…」


私の答えに、先輩は深いため息をついた。


「だよね。でも、俺には何か態度がよそよそしいっていうか…」


先輩も薄々勘づいていたことに気付く。


「そんなことないですよ!普通です。普通‥」


普通じゃないことは、私が一番知っている。


「じゃあさ…」


先輩が話はじめて、私は先輩の顔をじっと見た。


その時に、ポツリポツリと雨が降ってきた。


「え?!あ、雨?!」


急な雨に私は慌ててしまう。

だけど、先輩は…。


「向こうの屋根があるとこまで走って!」


そう言って、私の頭にタオルを被せてくれた。


先輩はそういうことをサラリとやってしまうから、私の心臓の音がどんどん強くなる。


そんなに長い距離があったわけでも、体力がないわけでもないのに、息切れがすごくて、顔が上げられないままだ。


「滝瀬、大丈夫?顔赤いけど‥」

「だ、大丈夫です!本当に‥大丈夫…」


先輩は屈むようにして、私の顔を覗きこんできた。


「疲れた?」

「そんな体力ないわけじゃないですよ…」


私は恥ずかしくて、下を向いた。


「雨、やまないですね」


ザーザーと降る雨の音が私の緊張を隠してくれるといいのに。


「…滝瀬は今日は傘持ってないの?」

「え?」


先輩はニコリと笑う。


「前もそんなことあったよね」


あの日から私は先輩がちゃんと見れなくなったんだ。


「…先輩は?」

「え?」


今日は私は天気予報は観てこなかった。だから予報は知らないけれど。


通り雨。私は傘は持っていない。


先輩は…?


「先輩は傘、持ってないんですか?」

「俺?」


先輩はカバンを背負い直して笑って言った。


「…持ってないよ」


先輩はやっぱりずるい。

私は知っている。


「タオル、洗って返しますね」

「いつでもいいよ」


私もずるい。

本当はカバンの中から折り畳み傘が見えたこと。

先輩が傘を持っていることを知らないふりをする。


「滝瀬はいつも他の先輩とは気楽に話すのに、俺がいると急に静かになる」


先輩の急な指摘に私はビクリと心臓が跳ねあがる。


「そ…そうですかね?」


「…何で?」


先輩の目が直視出来ず、少しだけ反らした。


だけど。


「何で?俺、怖い?」


「ま、まさか!!…先輩は何か特別というか…」


言葉が上手くまとまらない。


「…先輩と話すの緊張しちゃって」


私は冗談半分で笑いながら言った。


「へぇ…何でだろうね」


先輩は何を私に言わそうとしているのだろうか。


「俺は、滝瀬だけだけど」

「何がですか…?」


先輩の目が何か私に訴えているような気がしてしまうのは、気のせいだろうか?


「一緒に帰ったり、話して楽しい女の子は」


胸が熱くなる。


「俺も滝瀬が特別なんだよね」


これは、罠なのだろうか?


「あ、雨やんだ。帰ろうか?」


先輩のカバンには折り畳み傘。


「…滝瀬?」


罠でもいい。

好きな人の仕掛けた罠ならば。


「先輩あの…私…!!」


引っ掛かるのも本望なのだから。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

また宜しくお願い致しますm(__)m

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