僕等はステータス振分け担当責任者なんだね
「んで、アンタは何者なのよ。」
リリィ、そしてボロボロの安物の服を着た50代の男性はステ振り本舗施設内の椅子に腰を掛けていた。
「あ、お茶どうぞ。」
お茶の用意を済ませたケイも。
「あ、ありがとう。俺は・・・、気が付いたらここの森の中に居たんだ。中は見たこともないような野獣ばっかりで農業しかしてこなかった俺には到底敵いそうにない奴らばっかりだった。」
「へぇ、ってことはやっぱりアンタが客ってやつ?」
「でもいきなり森の中にワープさせるだなんて神様も酷いね。」
リリィの話では魔法使いの戦闘力を持った彼女でさえ歯が立たない奴らが息を潜める森の中だ。
実際、命を落としてもおかしくない。
「まあ私の場合はかまいたちじゃなくてかまいたちを捕食しようとしたドラゴンにやられそうになったんだけど。」
そして彼女の運の無さは本物のようだ。
「それで?」
とリリィは頬を付いて農家の男性を見つめる。
「アンタ、悩みがあってここに来たんでしょ?」
「な、悩み?なんであんたらが分かるんだ。」
少々驚く様子の男性。
考えてみるとそれもそうだ。
訳の分からない所に突然飛ばされて突然野獣に襲われて突然のお悩み相談なのだから。
「えぇと。ここは要するに・・・」
「それじゃああんたらはその天界人ってやつで俺は・・・ステータスを振分け出来るって事なのか?」
「まあ、そうなるわ。アンタついてるわね。その運分けなさいよ。」
「た!頼む!!」
「なっ!何よ突然!」
突然リリィの手を掴む男性。
こんなオッサンに両手を掴まれるのだ恐ろしいだろう。
「俺を・・・!イケメンにしてくれないか!」
「は、ハァ!?とりあえず手離しなさいよ気持ち悪い!」
「あ!?あぁ、すまない・・・。」
「え、えとできない事は無いですが・・・。とりあえずステータス覗いて見ますね。」
そう言ってケイは男性に向けて右手をスッと振り下ろし、ステータスを開示する。
「えぇと、よく分かんないなぁ。何を下げたらいいんだろ?」
「何だかこのステータスだけ妙に高くない?」
そう言って少しだけ寄り添うリリィ。
いい香りがしたのは内緒だ。
「え、と。・・・トイレマナー?」
「何よこれ。0でいいわ。下げちゃいなさい。」
「そんな簡単に下げてもいいの!?」
「トイレマナーか。それはお袋から教わったんだ。」
「ほら、どうでもいいから下げて下げて。」
「う、うん。」
ケイは半ば脅されて指先で1度トイレマナーを28から0にし、顔ステータスを7から35まで上げる。
「これで・・・いいのかな。」
「確定、押すわよ。」
そう言ってリリィは確定ボタンを押す。
「お、うぉお!!?」
瞬間、男性の顔から眩い光が放たれる。
「顔がァ!顔がぁ!!」
「いや、アンタが望んだんでしょ。」
間もなく光は弱まり、男性はその顔をすっと上げる。
「おめでとうございます。成功です。」
「へぇ。神の力ってのも侮れないわね。」
「か、変わったのか!?か、鏡を!」
「私のならあるけど汚さないでね。」
そう言ってリリィは珍しく親切に男性に折りたたみの手鏡を手渡す。
「こ、これが俺の・・・。」
「さっきの汚いオッサン面よりはいいんじゃない?」
「僕は素敵だと思いますよ。ワイルドな紳士みたいで。」
「ありがとう!!」
「だからなんでアンタは私の手を握るのよ!!」
「これで・・・お見合いも・・・成功しそうだ。」
「お見合い・・・?」
「あぁ・・・、初めてのお見合いだが相手が俺のタイプの女性でな・・・。だがこれで自分に自信が持てそうだ。感謝する・・・。」
そう言ってポツっとリリィの手に涙を落とす男性。
「ちょっ!汚っ!離しなさいよこのバカ!」
「あぁ、すまない。しかし本当に感謝している。言葉では表せない。ありがとう。」
そう言って立ち上がり、頭を下げる男性。
「あっ・・・。」
足から少しずつ影を失っていき、光の欠片となって宙に舞う。
「もう、時間という事か・・・。」
「ええ、そうね。お見合い、健闘を祈るわ。」
「ありがとう、本当に。ありがとう。」
そのありがとうという言葉だけを残して男性は光となって消えていった。
「・・・僕等はステ振り責任者なんだね。」
「・・・あーもう汚いわね。なにあの男、最悪。」
とプンスカして洗面台へ向かうリリィ。
「満更でもないくせに。」
と、笑顔でポツっと零したケイの髪の毛は15秒後3分の1消滅する事になる。
リリィの手によって。