彼女との出逢い
天界、そこは下界にて亡くなった者が過ごす地。
最も神と空に近い場所と呼ばれるその中心部に位置する神の間。
眩しいほどの太陽の光が降り注ぎ、純白のオブジェが立ち並ぶ聖域とも呼べる場所。
そこには異様で、間抜けな光景が広がっていた。
「神様!僕は転生をしたいが為に此処に参りました!」
首に赤いマフラーを巻き、学ランを着た一人の少年。
それを取り押さえようとする鎧をかぶった兵士達。
しかし少年はそれを気にも止めずスルスルと服を脱ぎ捨て、想像する神とはかけ離れた『麻雀の卓を囲む神様』に近づいて行く。
そして、
「どうか!!」
そう少年が叫ぶ頃には赤いマフラーにトランクス1枚というなんとも新しいファッションとなっていた。
「うわっ寒い!なんで僕こんな格好してんの?!」
「フハハッ、その牌。ロンだ。」
こんな格好までして全く相手にしない神に少年はさらに噛み付く。
「神様!!」
バンッ!と手をぶつけた先は神の持ち牌。
当然の如く、麻雀牌はバラバラになってしまい少年は戦慄する。
「なっ、あっ・・・、すみません!ここまでするつもりじゃ・・・!」
「お、俺の・・・俺の役満が・・・!・・・どうしてくれる!!」
この世界の全てを強いる神の怒りを買ってしまったと少年は激しく後悔し、死をも覚悟したが、
「・・・あぁ、ケイか。お前なら仕方が無い。〝馬鹿〟だしな。」
「す、すみません。」
「それで?何の用だ。」
無精髭を生やして金髪のウルフヘアー、片耳にピアスを当てて若作りしてるとしか思えない見た目30代のオッサンにしか見えない神が足と腕を組んでケイを見つめる。
「だから・・・何の用でしたっけ?」
「は?」
救いようのない馬鹿。
これはもはや彼の一つのステータスでもあった。
「流石は犬よりも知力が低いだけはあるなケイ!」
「あっ!そうだ!転生がしたくて!」
「だからダメだっつの。したかったら貢献度溜めて出直せって。今月何回目だ?」
「25回目です・・・。」
「あぁ?おい、今日は何日だ?」
神が先程麻雀をしていた兵士に問う。
「ハッ、14日でございます!」
「お前・・・ふざけてんのか?それとも本気で1日2回も来てんのか?終いには地獄に落とすぞ。」
「でも・・・、」
俯くケイを哀れに思った神は小さくため息を付く。
「半年前発表した制度の事だろ?」
「・・・はい。」
「〝ステータス振分け制度〟それは誰もが夢見る制度だが、そんな事何の苦労も無く出来たら有能な奴らで溢れかえっちまうだろ?」
「でも・・・。」
「あぁ。お前の言いたいことは分かる。貢献度が5000も貯まるわけない。そう言いたいんだろ?」
「・・・。」
貢献度。
それは天界で過ごす天界人にとって誇りのようなもの。
貢献度5000を見事達成した者には転生する権利が与えられる。
この世界が神の手によって生み出された制度だがそう簡単にはいかない。
「・・・、お前の貢献度は3か。毎日ゴミ拾い頑張ってるみたいだな。」
「今月で5ヶ月目になります・・・。」
「塵も積もればなんとやら。お前の世界の言葉だろう?」
「先月ようやく1人転生出来たみたいですね。神様の・・・お嫁さん・・・でしたっけ?」
神は面倒くさそうにタバコに火をつけ面倒くさそうに煙を吐き、面倒くさそうに答える。
「秘書だ。嫁なんかいた試しはない。それがどうした。」
「僕も下僕に・・「ダメだ。お前馬鹿だし。」」
「そんなの不平等ですよ!だったら僕をお嫁さんに・・・!」
「ったくどうしてこうも馬鹿が多いか。」
「馬鹿なんて言葉・・・生前下界で聞き飽きました!」
「お前みたいな厄介者がもう一人いて『ズゴォオオ!!』・・・ほらきやがった。」
「なっ、なんですか!?」
突然の轟音にケイは音のした扉の方を振り向く。
爆破の衝撃による煙でよく分からないが人影がひとつ。
「お邪魔するわクソッタレの神様(笑)」
「お前今月何回目だ扉壊すの。」
「54回目よ。文句あるならさっさと転生させなさい。さもないとその首飛ばすわよ。」
「おーおーおっかない。リリィ、お前だけだぞ俺にそんな口使うヤツ。」
ケイは悟った。
この少女とは関わってはいけないと。
「あぁ、リリィ。お前によく似たやつが居てな。」
(あれぇ・・・なんかこの人僕のこと紹介してない・・・?)
「ハァ?こんなボンクラと私のどこが似てるっていうの?」
リリィという名の暴言少女はショートヘアーから伸びた特徴的な2本の長い三つ編みをなびかせながらケイを睨む。
その瞳から感じる敵意も凄まじいが、
(あれ・・・綺麗だ・・・。)
美しさに圧倒されつい、
「・・・ども。」
としか言えなかった。
「ハンッ!こんなのと似てるだなんて私も堕ちたものね。馬鹿にするのも大概にして欲しいわ。なんならアンタの方が似てるんじゃない?このヘタレ神。」
「こりゃ厳しい。参った参った。だから帰宅を願おう。」
「あっ!ちょっと!」
神がそう言って兵士達にアイコンタクトを送るとすぐさまリリィは取り囲まれ引きずられていく。
「離しなさいよこの役立たずのゴミ下僕共!」
「いい加減にしろ!神様の怒りを買う気か!」
今まで何も喋らなかった兵士達も流石に痺れを切らす。
「フッ・・・。」
それを眺める神も耳かきしながら鼻で笑う。
「・・・。」
その姿を見つめるケイもただ何も出来ず立ち尽くすだけだった。
トランクス一枚で。
「寒っ。」