魔術師の注文 8
再度、ゴーレムへと突進した俺は、奴の拳を掻い潜り、その懐へと潜り込んで行く。
狙うのは、奴の胸部にある、核だ。
俺は、ゴーレムの継ぎ目を足場しにして、奴の体を駆け上がって行く。
だが、奴は危険を感じたのであろう。
ゴーレムは身体を激しく動かし、脅威を振り払おうとする。
「さすがに、そう簡単にはやらせてくれないか」
振動に耐え切れなくなった俺は、自ら跳び、ゴーレムから離れる事にした。
息を整え、再び対峙する。
対峙していたゴーレムは、またもや岩石を手にし、投擲しようと動く。
だが今回は、アリカの心配は必要ない。
彼女には、安全な岩陰へと隠れてもらっているからだ。
奴が投げた岩石が、こちらへと飛ぶ。
その下を潜り抜け、三度、奴へと駆け出したのだが、
「ちっ!」
眼前から、岩の壁が迫り来る。
奴がその豪腕を、横薙ぎに払ったのだ。
俺は跳躍し、腕を躱そうとしたが、片足が奴の腕に引っ掛かり、転倒してしまう。
ゴーレムは、自らの足元に転がり込んできた、愚かな獲物を踏み潰すべく、巨大な脚を高々と上げる。
そして、最大限まで脚を上げたその瞬間、
「今だ! アリカ!」
「火炎球!!」
アリカの魔術が、炸裂した。
アリカの放った魔術は、ゴーレムの顔へと直撃した。
無論、魔術では奴を傷つけることはできない。
だが、魔術が当たった時の衝撃は別だ。
それは、微々たるものであり、普段であれば意味が無いものだ。
しかし、奴は今、片足を上げている状態だった。
そのような状態で、頭部に衝撃を受ければ、普通は転倒するものだ。
奴の体は、大きく仰け反り始めたが、
「ダメ! 衝撃が足りなかったみたい!」
脚を踏ん張り、倒れまいとする岩の巨人。
「いや、これでいい。あとは任せろ」
奴が仰け反った、今の状態。これこそが俺の狙いだ。
岩の巨体が仰け反った事により、鉱石の継ぎ目が、わずかにだが広がる。
その広がった継ぎ目の中に、赤く、光り輝く、核の姿が確認できた。
俺は手にした短剣を構え、狙いを定める。
そして、
「いっけええええええぇぇぇぇぇ!!」
手から放たれた短剣は、真っ直ぐに核へと突き進む。
獲物を見つけた鷹のように、檻から解き放たれた獅子のように。
その身を飛翔させた短剣は、核へと激突し、激しい音を、辺りへと響かせる。
核の硬さも相当なもののようだ。
普通の武器ならば、砕かれていたかもしれない。
だが、その短剣は特別製だ。
勢いのまま、核へと突き刺さると、
そのまま核を打ち砕いた。
ゴーレムは大きく身を震わせ、もがき、苦しむように暴れたが、徐々に、その体が崩れ落ちてゆき、元の鉱石へと戻っていく。
そんな奴に、俺は、
「味わってもらえたかい? 龍の牙ってやつを」
最後の言葉を掛けるのだった。