魔術師の注文 6
ゴーレムとは、岩石や金属などに意志が宿ったものであり、その多くは、太古の魔術師達が創り出したものだとされている。
故に、現存する数は少ない。
だが同時に、恐るべき強敵である。
特徴としてあげられるのは、二階建ての家ほどもある巨体と、その頑丈さだろう。
鉱石で出来た体は、並みの武器では歯が立たず、到底、傷つけられるものではない。
有効な攻撃手段は、魔術による攻撃なのだが……
「やっぱりダメ!」
後方から、アリカの悲鳴が聞こえる。
ゴーレムとの戦闘に入ってから、アリカには魔術による攻撃を頼んでいたのだが、
「ゴーレムに対抗魔術が施されているみたい!」
そう、このゴーレムは、魔術を記憶する特殊な鉱物で構成されている。
太古の魔術師は、その鉱石に対抗魔術を記憶させていたようだ。
対抗魔術とは、自身に降りかかる魔術を、打ち消す魔術だ。
これでは魔術による攻撃も、無効化されてしまう。
「念入りなことだな」
ぼやきつつも、鉱石の継ぎ目へと、剣を叩き込む。
ゴーレムを形成する、鉱石と鉱石の継ぎ目になら、少しはダメージを与えられると思ったのだが、
「ほんのちょっと欠けただけかよ……」
繰り返していけば、削っていく事は出来るかもしれない。
だが、倒すのに途方もない時間が掛かるし、こちらが先に参ってしまうだろう。
「何か、決定打を見つけないとな……っと!」
ゴーレムが打ちおろしてきた拳を、左へとステップする事で回避する。
なかなかの速度だが、この程度は造作もない。
以前、戦った暗黒龍は、当たれば致命傷必至の息を吐いてきたのだ。
その暗黒龍と戦う為に、俺がもっとも鍛えたのが、機動力だった。
相手の動きを先読みし、その攻撃を回避しきる。
それができたからこそ、俺は暗黒龍との戦いに生き残れたのだ。
奴の息に比べれば、ゴーレムの拳など恐ろしくはない。
攻撃の当たらない相手に、業を煮やしたのか、ゴーレムは俺への攻撃を中断すると、おもむろに、近くの岩石を掴み取る。
何をするつもりなのかと、訝しんだが、次の瞬間には、
「まずい!」
踵を返し、アリカへと向かって猛然と駆け出していた。
奴の狙いに、気付いたからだ。
ゴーレムはアリカへと向かい、岩石を放り投げた。
巨大な岩が空を飛ぶ光景は、普通では見る事はできないし、想像できない事だろう。
突然の事に、アリカは何が起きているのか分かってない様子だった。呆然としたまま岩を見上げ、その場を動こうとしない。
「ちっ! 間に合え!」
俺は剣を投げ出すと、その勢いのまま、アリカへとぶつかって行く。
間一髪、間に合ったようだ。
背後では轟音が鳴り響き、衝撃によって、俺とアリカは吹き飛ばされていた。
「いったい何が……?」
アリカは、まだ正常に事態を把握できていないようだ。突然訪れた死の恐怖に、うまく頭が働いていないのだろう。
だが、相手はアリカが立ち直るのを待ってはくれない。
ゴーレムは、近くの岩をその剛腕で殴り砕き、散弾のようにして飛ばしてくる。
「厳しいな、おい……」
こちらへと飛んでくる岩石の雨に、思わずぼやいてしまう。
だが、避ける訳にはいかない。背後にはアリカがいるのだから。
身を守る為の剣も、手放してしまった。
「だけど! やるしかねえよなぁ!」
俺は不敵に笑うと、一か八かの、賭けへと出ることにした。