少女達の注文 4
「休みが欲しい?」
エルの要望を、スタンはもう一度確認した。
「はい、申し訳ありませんが……」
申し訳なさそうに、首を縮こまらせるエル。
「いや、別に、謝る事じゃないさ」
気にする事はないと、スタンはエルへと笑いかける。
スタンとしては、エルに休みを取って貰っても構わなかった。
エルは、修行だけではなく、身の回りの世話も精力的にやってくれている。
むしろ、働きすぎていると思っていたくらいだ。
それに最近は、エルの表情に影が差す事もあった。
気分転換させるには、丁度良い機会だろう。
「分かった。修行に打ち込むのも良いけど、たまには気晴らしも必要だ。ゆっくり休んできていいぞ」
「ありがとうございます、師匠! 精一杯頑張ってきますね!」
「うん?」
休みを頑張るとは、どう言う事だろう?
全力で休むと言う事なのだろうか?
エルの言葉に、スタンは軽い疑問を覚えたが、まぁエルらしい言い方かと納得し、深く追求する事はしなかった。
翌日、事前に告げていた通り、エルはスタンの店を休んだ。
エルが店に来るまでは、スタンは自分で身の回りの事をやっていたので、特に困る事は無かったのだが、
「失敗したな……」
時間を忘れて作業に没頭してしまった為、夕飯の支度を忘れてしまったのである。
普段であれば、適当な時間にエルが声を掛けてくれたので、作業を途中で切り上げる事もできたのだが、今日は止める人間がおらず、そのまま最後まで作業してしまったのだ。
今から料理を用意していては遅くなってしまう。
何より、スタンは空腹を我慢できそうになかった。
「仕方ないか」
どう行動するか決めたスタンは、店の戸締りを確認した後、夜の町へと繰り出す事にした。
「最近ご無沙汰だったし、たまには良いだろう」
目指すは、マーシャの酒場だ。
最近はエルと夕食を取っていたので、酒場へ訪れる機会も減っている。
この機会に、久々に顔を出すのも良いだろう。
辿り着いた酒場は、いつにも増して盛況だった。
外の冷気など感じず、むしろ熱いくらいの盛り上がりを見せている。
騒ぎ、浮かれる酔っ払い共を尻目に、スタンは、自分がいつも座るカウンター席へと足を向けた。
「よう、スタン。ご無沙汰じゃないか」
席へと座るスタンを見つけ、酒場の女主人は、気軽に声を掛ける。
「ああ、最近はここに来る必要がなかったからな」
「やっぱり嫁さんが出来ると、生活が変わるのかね」
「嫁じゃない。弟子だ、弟子」
マーシャと軽口を交わしつつ、スタンは酒と食事を注文する。
こういったやり取りも、久し振りだった。
「ところで、今日はいつもより賑わっているみたいだが?」
「ああ、それはねぇ……」
マーシャは意味ありげに笑うと、スタンの後ろへと視線を向ける。
その先に何かあるのだろうかと、スタンが疑問に思った時、
「マーシャさん、追加の注文を……って、師匠!?」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
スタンの事を師匠と呼ぶ人間は、一人しかいない。
「何だ、エル。お前も来てたのか」
後ろに立っているのが、誰かを確信したスタンは振り返り、思わず目を丸くしてしまう。
そこに立っていたのは、確かにエルだった。
だが、その服装がいつもと違っていた。
普段着ている飾り気のない作業着ではなく、フリフリとした飾りがついた給仕服。
サラサがいつも着ている、ウィルベール家のメイド服と似たような趣きがあるが、今、エルが着ている服の方が、裾が短く、全体的に肌を出す面積が増えている。
「お前……何やってんだ?」
「いえ、あの、師匠、これは……」
エルは狼狽えてしまい、スタンの質問にマトモな答えを返せない様だった。
どういう事かと、スタンがマーシャへ視線を向けた時、
「げっ、スタン。何で貴方が、ここに居るのよ……」
新たな少女の声が、スタンの耳へと聞こえてきた。
まさかという思いと共に、スタンがそちらを見てみると、そこに居たのは予想通りの少女の姿。
エルと同じ様な給仕服へと身を包んだ、アリカの姿だった。
「お前もか、アリカ……」
いや、店内を良く見てみると、サラサとセトナも同じ様な恰好をして、給仕をしていた。
「一体、どう言う事なんだ?」
「え~っと……」
改めて、エルとアリカへと、問いかけるスタン。
少女達は、苦笑いを浮かべると、こうなった事情を説明し始めた。