表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/69

少女達の注文 4

「休みが欲しい?」

 エルの要望を、スタンはもう一度確認した。

「はい、申し訳ありませんが……」

 申し訳なさそうに、首を(ちぢ)こまらせるエル。

「いや、別に、謝る事じゃないさ」

 気にする事はないと、スタンはエルへと笑いかける。

 スタンとしては、エルに休みを取って貰っても構わなかった。

 エルは、修行だけではなく、身の回りの世話も精力的にやってくれている。

 むしろ、働きすぎていると思っていたくらいだ。

 それに最近は、エルの表情に影が差す事もあった。

 気分転換させるには、丁度良い機会だろう。

「分かった。修行に打ち込むのも良いけど、たまには気晴らしも必要だ。ゆっくり休んできていいぞ」

「ありがとうございます、師匠! 精一杯頑張ってきますね!」

「うん?」

 休みを頑張るとは、どう言う事だろう? 

 全力で休むと言う事なのだろうか?

 エルの言葉に、スタンは軽い疑問を覚えたが、まぁエルらしい言い方かと納得し、深く追求する事はしなかった。




 翌日、事前に告げていた通り、エルはスタンの店を休んだ。

 エルが店に来るまでは、スタンは自分で身の回りの事をやっていたので、特に困る事は無かったのだが、

「失敗したな……」

 時間を忘れて作業に没頭してしまった為、夕飯の支度を忘れてしまったのである。

 普段であれば、適当な時間にエルが声を掛けてくれたので、作業を途中で切り上げる事もできたのだが、今日は止める人間がおらず、そのまま最後まで作業してしまったのだ。

 今から料理を用意していては遅くなってしまう。

 何より、スタンは空腹を我慢できそうになかった。

「仕方ないか」

 どう行動するか決めたスタンは、店の戸締りを確認した後、夜の町へと繰り出す事にした。

「最近ご無沙汰だったし、たまには良いだろう」

 目指すは、マーシャの酒場だ。

 最近はエルと夕食を取っていたので、酒場へ訪れる機会も減っている。

 この機会に、久々に顔を出すのも良いだろう。




 辿(たど)り着いた酒場は、いつにも増して盛況だった。

 外の冷気など感じず、むしろ熱いくらいの盛り上がりを見せている。

 騒ぎ、浮かれる酔っ払い共を尻目に、スタンは、自分がいつも座るカウンター席へと足を向けた。

「よう、スタン。ご無沙汰じゃないか」

 席へと座るスタンを見つけ、酒場の女主人は、気軽に声を掛ける。

「ああ、最近はここに来る必要がなかったからな」

「やっぱり嫁さんが出来ると、生活が変わるのかね」

「嫁じゃない。弟子だ、弟子」

 マーシャと軽口を()わしつつ、スタンは酒と食事を注文する。

 こういったやり取りも、久し振りだった。

「ところで、今日はいつもより(にぎ)わっているみたいだが?」

「ああ、それはねぇ……」

 マーシャは意味ありげに笑うと、スタンの後ろへと視線を向ける。

 その先に何かあるのだろうかと、スタンが疑問に思った時、

「マーシャさん、追加の注文を……って、師匠!?」

 後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 スタンの事を師匠と呼ぶ人間は、一人しかいない。

「何だ、エル。お前も来てたのか」

 後ろに立っているのが、誰かを確信したスタンは振り返り、思わず目を丸くしてしまう。

 そこに立っていたのは、確かにエルだった。

 だが、その服装がいつもと違っていた。

 普段着ている飾り気のない作業着ではなく、フリフリとした飾りがついた給仕服。

 サラサがいつも着ている、ウィルベール家のメイド服と似たような(おもむ)きがあるが、今、エルが着ている服の方が、(すそ)が短く、全体的に肌を出す面積が増えている。

「お前……何やってんだ?」

「いえ、あの、師匠、これは……」

 エルは狼狽(うろた)えてしまい、スタンの質問にマトモな答えを返せない様だった。

 どういう事かと、スタンがマーシャへ視線を向けた時、

「げっ、スタン。何で貴方が、ここに居るのよ……」

 新たな少女の声が、スタンの耳へと聞こえてきた。

 まさかという思いと共に、スタンがそちらを見てみると、そこに居たのは予想通りの少女の姿。

 エルと同じ様な給仕服へと身を(つつ)んだ、アリカの姿だった。

「お前もか、アリカ……」

 いや、店内を良く見てみると、サラサとセトナも同じ様な恰好をして、給仕をしていた。

「一体、どう言う事なんだ?」

「え~っと……」

 改めて、エルとアリカへと、問いかけるスタン。

 少女達は、苦笑いを浮かべると、こうなった事情を説明し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ