少女達の注文 3
「ハァ……」
「ちょっと、エル。どうしたの? 戻ってきてから、ため息ばかりじゃない」
「あ、アリカさん。実は……」
スタンの店での仕事を終えたエルは、アリカの家へと戻って来ていた。
普段であれば、元気良くその日起こった出来事を話すエルだったが、今日はため息をつくばかり。
アリカ達が不思議がるのも、無理はなかった。
そんなアリカ達に、今日、店で見た事の説明をするエル。
「自分のせいで壊した物ねぇ……」
「はい、あれだけの量となると、値段も馬鹿にできませんし、師匠に余計な出費をさせていると思うと……」
説明するにつれて、段々とエルの気持ちは重くなり、表情も暗くなってきてしまう。
話を聞いたアリカも、そんなエルに同情はしたものの、
「別に、スタンなら気にしていないとは思うのだけど……」
当事者でない分、冷静な判断をしていた。
スタンは、全ての事情が分かった上で、エルの事を弟子にしたのだ。
物を壊される事とて、織り込み済みだろう。
しかし、それを説明したところで、今のエルには、納得して貰えそうになかった。
「やっぱり、ボクが壊した分くらいは、自分で稼いで弁償しないと……」
思考に詰まったエルは、遂にそんな事を言い始めた。
無論、エルとてスタンから手間賃は貰っていたし、必要に応じて費用を貰う事は出来るのだが、それではスタンが買うのと大した違いはない。
だからエルは、自分で稼ごうと思っているのだった。
「どこかで、条件の良い仕事でもあれば良いのですが……」
「エル様の考えは立派ですけど、スタン様としては、鍛冶の修練に集中した方が嬉しいのでは?」
思い悩むエルに、サラサが修行に打ち込むようアドバイスをする。
その考えは、スタンの考え方と、同じものなのだが、
「もちろん、鍛冶の修行を疎かにするつもりはありません。だけど、やっぱり何か、師匠にお返しをしたいのです」
それでもエルには通じず、彼女は自分の意見を曲げようとしない。
エルには、一度こうと決めると、譲らない時があった。
今回は、それが悪い方向へと向かっているらしい。
「身の回りの世話をしている時点で、十分だと思うのだがな」
セトナも率直な意見を述べるが、エルの気持ちを覆すには至らなかった。
どうしたものかと、セトナとサラサは顔を見合わせた後、アリカへと視線を向ける。
「話は分かったわ」
今までの話を聞いた上で、アリカは結論を出していた。
エルを納得させるには、やりたい事をさせるしかない。
「つまり、スタンにお礼をしたいという事ね」
そして、その為の資金が必要だという事。
アリカが話しを纏めると、サラサとセトナも、今度は、その方法を考え始めた。
「ウィルベール商会の方で仕事を探してみましょうか?」
「う~ん、お爺様に頼りすぎるのも、どうかと思うし、町の方で仕事を探した方が良いんじゃないかしら?」
サラサの言う様に、アリカもウィルベール商会で仕事を紹介して貰う事を、考えてはいた。
しかし、祖父には何かと便宜を図って貰っており、これ以上、頼るのも悪いと思っていたのである。
「だったら、私に良い考えがある」
そんなアリカ達へと、セトナが、ある提案をする。
「それで、私の所に来たのかい?」
セトナが、皆を連れて訪ねたのは、町で酒場を開いているマーシャの所だった。
夜も更け、既にほとんどの客が帰っており、酒場に残っているのは、店主であるマーシャと、酔いつぶれている幾人かの客だけ。
マーシャは、洗い終わった食器を片付けつつ、セトナの話に耳を傾けていた。
「そうだ。酒場では、冒険者の依頼も扱っているし、多くの情報が入って来る。何か、エルに出来る仕事はないだろうか?」
「よろしくお願いします、マーシャさん!」
「そう言われてもねぇ……」
頭を下げるエルの姿に、マーシャは困ったように頭を掻く。
冒険者の仕事は、確かに酒場で扱っている。
だが、こんな田舎町では、そんなに多くの依頼は扱っておらず、簡単な仕事は全て、他の冒険者達が請け負ってしまっていた。
それに、マーシャはエル達の実力を詳しく知らない。
スタンと一緒に、依頼をこなした事があるのは知っているが、それはスタンという実力者が常に一緒に居たという事。
エル達の、個人での実力を、マーシャは把握していないのだ。
「多少、危険な依頼でも平気だぞ? 我々も手伝うからな」
セトナの言葉に、一緒に居たアリカとサラサも頷く。
そんなアリカ達を、好ましく思うマーシャだったが、それでも危険な依頼を任せる気は無かった。
実力以上の依頼を任せてしまうという事は、その冒険者達を死地へと向かわせるようなものだ。
マーシャは依頼を選別し、任せる者として、それだけは絶対に避けたかった。
「さて、どうしたものかね……」
顎に手を当て、思案するマーシャ。
何とはなしに、店内を見回し、
「そうだ! アンタ達にピッタリの仕事があったよ!」
良い事を思い付いたとばかりに、にんまりと笑った。
「本当ですか!?」
そんなマーシャへと、嬉しそうに顔を寄せるエル。
だが、残る少女達は、マーシャの笑顔に、何やら嫌な予感がするのであった……。




