弟子の注文 3
「え~っと……何だって?」
「スタン・ラグウェイさん、ボクを弟子にして下さい!」
どうやら、先程の言葉は聞き間違いでも、幻聴でも無い様だった。
「どう言う事だ、アリカ?」
「ちょっと、そんなに怖い顔で睨まなくてもいいでしょ!? 私も、さっき会ったばかりだから、そんなに詳しくは知らないわよ!」
軽く睨んだつもりだったのだが、予想以上に鋭い眼光になってしまった様だ。
アリカは必死になって、自分は無関係だと主張する。
少し、悪い事をしたかもしれない。
「そうか、悪かったなアリカ。……えっと、キミ?」
「エルティス・ロールと言います! エルと呼んでください!」
「分かった、じゃあエル。弟子になりたいってのはどういう事だ?」
「はい! スタンさんの下で、鍛冶の修行をしたいんです!」
「いや、そうじゃなくてだな……」
エルは質問の意図が分かっていないのか、見当違いの答えを返してくる。
頭を抱えつつも、俺はもう一度、質問する事にした。
「どうして、俺の弟子になりたいと?」
「スタンさんの武器に憧れたからです!」
今度は、少しマシな答えが返ってきたが、事情を理解できる様な答えではなかった。
「済まないが、もうちょっと詳しく聞かせてくれないか?」
「詳しく、ですか? 分かりました!」
元気良く返事を返してくれるのは良いのだが、もう少し声の大きさを抑えて欲しいところだ……。
「実はですね……」
話しによると、エルの両親も、鍛冶屋を営んでいたらしい。
だが、幼い頃に両親は亡くなり、他に、鍛冶が出来る親族もおらず、店はそのまま閉める事になってしまったそうだ。
しかし、両親の意志を継ぎ、実家の鍛冶屋を再び開きたいと思ったエルは、鍛冶の腕を磨くべく、都会へと、修行の旅に出る事にした。
そこで、何件もの鍛冶屋を巡り、弟子入りを頼み込でいったのだが、どこの店でも断られてしまったそうだ。
全ての店に断られたエルは、途方に暮れ、都を彷徨い歩いたらしい。
「そんな時に、スタンさんの作った武器と出会ったんです」
恐らく、ウィルベール商会に卸した、武器の一つだろう。
その武器を見たエルは、全身に痺れが走ったそうだ。
「スタンさんの武器は、他の武器と、オーラが違いました。美しさが違いました」
エルは、興奮した様子で、その時の想いを語る。
「その武器を見た瞬間、この人に弟子入りするしかない! そう思ったんです」
エルは嬉々とした表情で、今までの事を語り、自分の想いを伝えてきた。
その想いは、とても嬉しいものなのだが、
「今の感想は? スタン・ラグウェイさん?」
「何だか、こそばゆくなってくる話だな」
アリカの茶化したような質問に、率直な答えを返す。
今までだって、何度も、客から良い武器だと言われた事はある。
だが、正面から、ここまで褒めちぎられるのは、初めてだった。
流石に、照れ臭くなる。
「それで、どうするのだ? 弟子にするのか?」
「そうだなぁ……」
後ろで話しを聞いていたセトナの質問に、頭を悩ませる。
エルの方を、見てみると、期待と不安が、ない交ぜになった様な瞳で、こちらを見ていた。
小柄な上、見るからに華奢な体格のエル。
恐らく、他の店で弟子入りを断られた理由の一つはこれだろう。
鍛冶という仕事には、体力が必要だ。
この細い身体付きでは、力仕事に耐えられないと判断され、どの店でも弟子入りを断られたのだと思う。
「どうしたものかな……」
俺としては、見た目だけで判断する気は無い。
体力なんてものは、あとから鍛える事も出来るし、鍛冶に必要な能力は他にもある。
実際にやらせてみなければ、分からない事も多いのだ。
「う~む……」
問題は、エルの方ではなく、俺の方だ。
他の鍛冶屋に負けていないという自負はある。
だが、自分の腕に満足している訳ではない。
まだまだ向上する余地もあると思うし、鍛えたいとも思っている。
そんな俺に、弟子を見る余裕があるのか?
問題はそこなのだ。
「スタン、貴方の腕を見込んで、わざわざここまで来てくれたのよ? 弟子にしてあげたら良いじゃない」
悩んでいる俺を見かねて、アリカが口を出してきた。
確かに、アリカの言う様に、エルの気持ちを汲んでやりたいという思いもある。
それに、わざわざここまで訪れたのに、そのまま追い返しては、可哀想だし、本人も納得しないだろう。
「……分かった。とりあえず、何日か様子を見させてくれ」
考えた末に出した結論は、試しに数日間、弟子入りさせてみるというものだった。
だが、エルにとっては、それでも喜ばしい結論だった様だ。
「はい! よろしくお願いします、師匠!」
顔を綻ばせ、勢い良く、頭を下げるのだった。