弟子の注文 2
「スタン様、商品の準備は出来ているでしょうか?」
いつもの様に、俺の店へと訪れたサラサが、こちらの様子を確認してくる。
「少し待ってくれサラサ。セトナ、済まないが、ちょっと手伝ってくれないか?」
「……分かった」
不機嫌そうな顔で、返事をするセトナ。
セトナのその様子に、俺とサラサは苦笑してしまう。
アリカとの話し合いの結果、セトナは俺の店から出て、アリカ達の家で暮らしていた。
その結果に対し、余程不満があったのか、最近のセトナは不機嫌だったのである。
「そろそろ機嫌を直せよセトナ。アリカの家だって、そこまで離れている訳じゃないんだから」
「分かってはいる。分かってはいるのだが……」
多少、機嫌が直って来てはいるものの、本来の調子に戻るには、まだまだ時間が掛かりそうだった。
(まぁ、やる事はやってくれるから、大丈夫か)
セトナに手伝ってもらい、用意した品物を、サラサの前へと運んでいく。
「ほら、サラサ。今回の分な」
「ありがとうございます。スタン様」
品物を確認したサラサは、一緒に連れて来ていたウィルベール商会の人間へと指示を出し、馬車へと運び込ませる。
あの馬車は、ウィルベール商会が巡業で使っている馬車だそうだ。
地方で、様々な荷を仕入れ、それを王都近辺で売り捌く。逆に、王都で仕入れた商品を、地方で販売する事も行っているらしい。
「なぁ、サラサ。ちょっと聞いていいか?」
俺は、サラサに勧められ、以前からウィルベール商会に、いくつかの武器を卸していたのだが、その事で、サラサに聞きたい事があった。
「最近、注文の数が多くなってないか?」
そう、最初はほんの数点しか、品物を卸してなかったのだが、最近は、注文の数が増え、忙しくなってきているのだ。
「それは、スタン様の腕が、世間の皆さまに認められたからだと思われます」
「本当かぁ? あの爺さんが、余計なお節介をしているんじゃないのか?」
自分の腕が、世間に認められたと言うなら嬉しいが、最近の注文の増加には、先日会った、あのアリカの祖父が関わっている様な気がしてならなかった。
だが、サラサは首を横に振り、俺の考えを否定する。
「いいえ、大旦那様は、知り合いだからと贔屓する様な方ではありません」
「……それもそうか、あの爺さんがそんな事する訳ないよな」
確かに、あの爺さんはああ見えて、国内一の商会の主なのだ。
質の悪い商品を売りつけて、自分の店の評判を落とすような真似はしないだろう。
「はい、ですから、スタン様の腕前を認めた上で、大旦那様は贔屓をしているのです」
「……」
やはり、あの爺さんが、余計なお節介をしているのは、確かの様だった……。
アリカと言い、ハンネスの爺さんと言い、何故、大人しくしていられないのだろう。
もしかして、ウィルベール家と言うのは、そういう一族なのだろうか。
そんな、ろくでもない事を考えていると、
「なに変な顔してるのよ、スタン?」
ウィルベール家のお嬢さんが、店へと入って来たのだった。
「お前の爺さんの事で、ちょっとな……」
「お爺様? お爺様がどうかしたの?」
「……いや、やっぱり何でもない」
「何よ、それ」
ちゃんと説明しなかったのを不満に思ったのか、アリカは頬を膨らませて抗議する。
しかし、次の瞬間には、何かを思い出した様な表情になり、不満げな顔は、すぐに消えてしまった。
「そうそう、スタン。あなたにお客さんよ」
「客?」
アリカが客を連れてくるとは、珍しい。
だが、余計な騒動を起こさず、大人しく客を連れて来てくれるなら、こちらとしては大助かりだ。
「入って来ていいわよ」
アリカが外へと呼びかけると、店の扉が開き、少女によって連れて来られた人物が、店内へと入って来る。
そして、開口一番、
「スタン・ラグウェイさん! ボクを弟子にして下さい!!」
その口から、とんでもない発言が飛び出して来るのだった。
やはり、ウィルベール家というのは、何かと騒動を起こす一族の様だ……。