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魔術師の注文 4

 馬車を走らせて、五日目。俺たちは目的の洞窟へと、辿り着いた。

 洞窟の付近には、魔物の影はない。

 これなら安心して馬車を置いていけそうだ。

 俺は馬車の中から、剣と革鎧、それにナイフやロープ、松明(たいまつ)など、探索に必要そうな物を取り出し、身に着けていく。

 そこでふと、アリカの方に視線を向けてみたが、彼女は、魔術書を一冊持っている(何もなくとも、魔術は行使(こうし)できるらしいのだが、杖や書などの補助アイテムがあると、効率がもっと良くなるらしい)だけで、他に何かを身に着けるような素振りを見せてはいなかった。


「お前、準備はいいのか?」

「準備? ちゃんと魔術書は持ってるでしょ? それに、このローブには防護の加護が掛かっているから、余計な装備をつける必要はないわよ?」

 と、不思議そうにしている。

 どうやら、彼女は、あまり探索の経験がないようだ。

 俺は(あき)れつつも、教えてやる。

「お前な……距離があるならともかく、物陰から、急に襲われたりしたら、どうする? 洞窟なんて、それこそ隠れられる場所が、至る所にあるんだ。せめて剣くらいは持て」

 そう言いつつ、俺はある事に気付く。

「お前、もしかして剣が使えないのか?」

 冒険を生業(なりわい)とする、魔術師の多くは、武器のあつかいにも、()けている事が多い。

 魔術が使えない場面、魔術が効かない相手なども、世の中には居るのだ。生き残る為には当然、必要になってくる。

「つ、使えない訳じゃないのよ!? ただちょっと……少しだけ、苦手というかぁ……」

 あ、ダメだこれ。使えない奴の言い訳だ。

 俺は、どうしたもんかなぁと考えつつも、馬車を(あさ)り、見つけた短剣をアリカへと投げ渡す。

「せめて、これくらいは持っておけ。俺の特注品だぞ? ありがたく使えよ?」

「ちゃんと斬れるんでしょうね、これ?」

「よし、俺と決闘したいようだな。いいだろう、ちゃんと斬れるかどうか、お前自身に確かめさせてやる」

「冗談! 冗談よ! そんなに本気にならないでよ!」

 慌てた様子で、あとずさるアリカ。

 俺も武器を馬鹿にされたせいで、ついカッとなってしまった。反省せねば。




 荷物をまとめた俺は、馬を手近な木へと繋いだ後、馬車に、布や落ち葉をかぶせ、隠すようにする。

 もちろん、魔物()けの薬を、撒いて行くのを忘れてはいない。

 そんな作業中の、俺の背中に、

「その……この短剣、ありがとうね」

 アリカは小さな声で、そんな言葉を掛けてくるのであった。


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