老人の注文 6
「何だ、あいつらか……」
俺は警戒を解き、セトナと爺さんにも、安全である事を伝える。
彼らとは、何度か酒を酌み交わした仲だ。危険な事には、ならないだろう。
「何だ、スタン。また木の伐採にでも来たのか?」
冒険者達が、笑いながら、こちらへと近付いてくる。
彼らの言葉に、セトナがキョトンとした顔をしていたので、すぐさま話題を変える事にした。
「違えよ。俺達は、宝石喰らいを探しに来たんだ」
「なに? お前もか?」
俺の答えに、驚いたような表情を浮かべる冒険者達。
その表情に、まさかという思いになる。
「もしかして、お前達の狙いも、宝石喰らいなのか?」
その質問に、彼らは首を縦に振ったのだった。
詳しい話しを聞いてみると、どうやら、最初に宝石喰らいを発見したのは、彼らだそうだ。前に受けた依頼の時に、この森で発見したらしい。
彼らは、依頼を終え、町へと戻った時に、酒場でその事を自慢したそうだ。
その情報が、マスターから俺の所へと、伝わって来た様だった。
(どうしたものかな……)
目的の魔物が被ってしまったという事は、競争になる可能性が高い。
協力して探すにしても、報酬の分け前で、充分な量の結晶が手に入るかどうかが、微妙な所だ。
向こうの方も、何やら仲間内で話し合っている。
「どうするつもりじゃ?」
同じ様な事を考えたのか、ハンネスの爺さんが、こちらへと聞いてくる。
「邪魔になる様なら……眠らすか?」
「馬鹿な事を言うなよ……」
セトナはセトナで、物騒な事を提案してきた。
彼らは別に、俺達の邪魔をしようという訳ではない。
どちらかと言えば、こちらの方が、彼らの獲物を横取りしようとしている様なものだ。
「仕方ないな……」
一番穏便な方法は、協力して宝石喰らいを探し、幸運結晶を、こちらで買い取る事だろう。
余計な出費になりはするが、人手も増える。人件費として、納得出来なくもない。
後は、向こうが、それを了承するかどうかが問題だった……。
「なぁ、少し話があるんだが」
「ちょっと待ってくれ、スタン。……よし、これで良いか」
俺が声を掛けた時、彼らは羊皮紙を広げ、そこへ何かを書き込んでいた。
そして、その内容を確認した後、それを丸め、こちらへと放ってくる。
「……これは?」
「俺達が以前、宝石喰らいを発見した場所と、今回、探索した場所が書いてある。お前の探索に役立ててくれよ」
そう言われて、受け取った羊皮紙の中身を確認してみる。
大雑把に書かれた森の地形に、彼らが探索したルートや、内容が書き込まれていた。
これがあれば、確かに探索の効率は良くなる。
有難い話しではあるのだが……。
「……いいのか?」
相手へと向かい、確認を取る。
競争相手に、情報を与えるなど、獲物を横取りして下さいと、言っている様なものだ。
疑問の視線に対し、彼らは苦笑する。
「実は俺達は、ここで四日間、宝石喰らいを探したんだが、遂に見つける事は出来なかった。どうやら運が無かったようだ」
残念そうに首を振る、リーダー格の男。
「手持ちの食糧も尽きるし、俺達は諦めて、町に戻る事にするよ」
「……済まないな」
「良いって事さ。その代わり、上手くいったら、酒でも奢ってくれよな?」
そう言うって笑うと、彼らは森の出口へと立ち去って行った。
「気の良い連中じゃったな」
冒険者達の背を見送り、爺さんが声を掛けてくる。
「まぁ、こんな田舎にいる連中だしな」
これが、王都近辺の冒険者だったら、状況は違っていただろう。
都会にいる冒険者達は、名声や、富を得ようと、躍起になっている者が多い。
競争相手を蹴落とす事など、良くある事だそうだ。
それに対し、田舎にいる冒険者は、秘境や未知を求めたりする者。冒険そのものを楽しむ者が多いと言われている。
彼らも、後者の類いの様だ。
宝石喰らいを見つけられず、残念そうにはしていたが、俺達と別れる時には、きっぱりと諦め、笑っていた。
目的を達成する事は出来なかったが、彼らにとっては、この冒険も良い思い出になったのだろう。
「せっかく良い物を貰ったんだ。何としても宝石喰らいを見つけないとな」
そして彼らに、酒でも奢って、話してやろう。
お前達の冒険のおかげで、見つける事が出来たんだぞ、と。