魔術師の注文 3
アリカの依頼を受けた数日後、旅の支度を整えた俺達は、鉱石のある洞窟へと向かっていた。
目的地である洞窟は馬車で、四、五日程の距離にある。俺は片手で手綱を操りつつも、
「ふむふむ、魔術ってのは結構な種類があるんだな」
アリカから借りた魔術書を読みふけっていた。
「当たり前でしょ、魔術っていうのは奥が深いのよ。極めようとしたら、人間の一生なんかじゃ、到底足りないわ」
と、荷台に座っているアリカから、声が掛かる。
「それにしても、魔術書を貸して欲しいだなんて、どうしたの? 魔術師にでも、なりたくなった?」
「いや、そうじゃない」
俺が鍛冶屋以外になるはずがない。
苦笑いを浮かべながらも、説明してやる。
「今までは、魔術は武器作りに関係ないと思ってたんだが、今回の件で考えをあらためてな。少し勉強する事にしたのさ」
「魔術はそう簡単に覚えられるものではないけど……まぁいいわ、魔術の難しさに絶望して、魔術師である私の偉大さを知るといいわ!」
そう言って胸を張るアリカだったが、次の瞬間には、不安そうな顔になり、
「けれど、本当に大丈夫なの?」
「魔術の勉強か? これくらいの本なら、俺にだって読めるさ」
「違うわよ! そうじゃなくて!」
今度は急に叫び始める。本当に表情がころころ変わって、忙しい奴だ。
「今回の洞窟探索の件よ! 護衛を雇わなくても、本当に大丈夫なの!?」
「なんだ、そう言う事か」
その話は、出発前にも出た。どこかの街で、腕の立つ冒険者を雇ってはどうかと? しかし、冒険者の中には、素行の悪い者、はっきり言ってしまえば、依頼者に襲いかかり、金品を奪う、盗賊紛いの者もいる。
そういった者達を雇ってしまうリスクがあるので、今回は雇わずにいたのだ。
それに、
「これでも一応、冒険者でもあるんでな。ある程度の魔物なら倒せるさ」
暗黒龍ほど、強い魔物など、そうはいないだろう。
「怖いなら、店で待っててくれてもいいんだぜ?」
「冗談じゃないわ! 私の依頼なのよ! 私が行かなくてどうするのよ! それに、あなた一人で行かせて、怪我でもされちゃ困るし……」
後半部分は、ボソボソと小声で言っていたが、俺の耳には、彼女の声が、しっかりと聞こえていた。
「お前……いい奴だな」
「な、何よ!? 当然のことでしょ! あなたが失敗したら、私の依頼もダメになるんだから、結果をちゃんと見届けないといけないでしょ!? それに、街で待ってたところで、心配で眠れなさそうだし……とにかく! 私もちゃんと、付いて行くからね!」
そう捲くし立てたあと、彼女はまたもや、そっぽを向いてしまう。
本当に、忙しい奴だよなぁ……