表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/69

獣の注文 5

 グリフォンとの戦闘を終えた俺たちは、クルガ族の集落へと戻る事にした。

 あれだけの手傷を負ったグリフォンだ。魔物の回復力が高いとはいえ、(しばら)くは襲ってこないだろう。

 もうすぐ日も暮れる。

 セトナと連れ立ち、集落へ向け、ゆっくりと歩いて行く。

 彼女のその背には、先程助けたクルガ族の少年が眠っていた。


「ぐっすり眠っているな」

「グリフォンに立ち向かうのに、気力を振り絞ったのだろう。この子は良く頑張った」

 その背に背負う少年を、(いつく)しむようにセトナが微笑む。

 それはまるで、我が子を愛おしむ、母のようだった。

「ん? 私の顔に何かついてるか?」

「ああ、済まない。ずいぶん子供の扱いに、慣れているなと思ってな」

「集落では、子供たちの面倒は一族全員で見る。私も、下の子たちの扱いに慣れているだけだ」

 そう言いながら、少年を背負い直そうとするセトナ。

「そうか、じゃあ将来は良い母親になれそうだな」

「なっ!?」

 セトナは何かに驚いたようだ。その拍子(ひょうし)に、少年を落としそうになってしまう。

「おっと、危ねえな。どうした、急に?」

 怪我をさせてはいけないので、すぐに傍へと寄り、少年を支えてやる。

「お前が変な事を言うからだ! それと、顔が近い!」

「せっかく助けてやったのに、酷い言われようだな。まだ尻尾を触った事を、根に持っているのか?」

 少年が背負い直されたのを確認し、ゆっくりと彼女から離れる。

「尻尾の事は言うな! よそ者の癖に二度も尻尾に触りおって! よそ者の癖に、よそ者の癖に……」

 恨み言のように、ブツブツと(つぶや)くセトナ。

 これには流石に、苦笑してしまう。

「俺には、一応、スタンって名前があるんだけどな」

「うるさい! お前なんてよそ者で充分だ!!」

「おいおい、あんまり大きな声を出すな。その子が起きるだろ?」

「ううっ、よそ者の癖に……」

 少年を起こしてはまずいと思ったのか、不満そうにしながらも、セトナは大人しくなった。




(まったく、何なんだこの男は)

 セトナは今まで、外の人間というものを、数える程しか見た事がなかった。

 その全ての者が、クルガ族の事を人としてではなく、奴隷として、商品として、扱おうとしていた事を、彼女は覚えている。

 セトナの事を見る彼らの目には、欲しかなく、その事に、セトナは激しい嫌悪感を抱いていた。

 だが、今、目の前にいる男は違う。

 セトナの事を見るその瞳には、(さげす)みや、(あざけ)りといった、暗い感情は宿っていない。

 彼は、ちゃんとクルガ族を人として扱っているのだ。

(確かに、今まで会った、よその人間とは違う。私の事も、この子の事も助けてくれたし、悪い人間ではないのだろう。まぁ、二度も、尻尾に触ってくるような奴ではあるが……)

 尻尾に触られた事とて、悪意があって触られた訳ではない。

 その事はセトナにも分かっている。

 だから、今のは軽い愚痴だ。

 しかし、親しい者にしか触らせた事のない部分に、しかも、異性には初めて触れられたのだ。

 これくらいの事は考えても、バチは当たらないだろう。




 薄暗くなり、星が(またた)き始めた空の下、二人はゆっくりと歩いて行く。

 二人の間に、会話はない。

 しかし、静かで、穏やかな空気が流れている。

(たまには、こういうのも良いもんだ)

 スタンは、のんびりと歩きながら、少女の方へと視線を向ける。

 彼女も、不快には思っていないようだ。

 その表情は、柔らかなものであり、彼女の心情を表すかのように、セトナの尻尾も、ゆったりと揺れ動いていた。




 集落の入口へと戻った俺たちは、少年を起こし、自分たちの寝床へと戻ろうとしたのだが、

「……何やら、集落が騒がしい」

「グリフォン……じゃ、ないよな。他に問題でも起きたか?」

 集落にいるクルガ族たちが、中心部へと集まり、人だかりを作っている。

 俺とセトナは、何が起きているかを確認すべく、中心部へと、足早(あしばや)に近付いて行く。

「おお、スタン。いい時に、戻ってきたな」

 人だかりの中にいたルドがこちらに気付き、声を掛けてくる。

「どうした、ルド。何か問題が起きたのか?」

「いや、それがな……」

 チラリと、ルドが人の輪の中心部へと視線を向ける。

 そこにいたのは、

「うう……何で、私がこんな目に……」

「……申し訳ありません。お嬢様……」

 縄で縛られ、地面に転がされている、アリカとサラサだった……。




「お前ら……何やってんだ?」

「え……? あ、スタン! ちょっと助けてよ!!」

「スタン様……見ないでください……」

 俺の姿を確認し、ジタバタと(もが)くアリカと、恥ずかしそうに、身を縮こまらせるサラサ。

 本当に何をやっているんだ、こいつらは?

「スタンの知り合いだと言うのは、嘘じゃなかったのか。いやな、集落の周りを見張っていた者たちが、捕まえてきてな。スタンの知り合いだと言うし、どうしたものかと悩んでいたんだよ。いや、本当にお前の知り合いで、助かったよ」

 俺の関係者である事が分かったルドは、周りの連中に、心配ない事を告げ、皆を帰らせる。

「だから最初から、そう言ってるじゃないのー!!」


 転がりながらも爆発するアリカ。その姿はどう見ても、貴族のお嬢様には見えなかった……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ