表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/69

獣の注文 3

「本当にこっちでいいのかしら?」

 スタンから遅れる事一日、アリカとサラサは、ラムウル山脈の麓へと差し掛かっていた。

「行商人や旅人の話しを照らし合わせると、恐らく、この辺りかと」

 馬車の手綱を操りつつ、地図を確認するサラサ。

「サラサがそう言うなら、大丈夫だと思うけど……それにしても、お尻が痛くなるわね」

 ガタゴトと振動する馬車に揺られ、閉口するアリカ。

「申し訳ありません、お嬢様。もう少し良い馬車が手配できれば良かったのですが……」

「あ、いいのよサラサ。馬車が手に入っただけでも助かったもの! 気にしないで!」

 申し訳なさそうにするサラサを、アリカは慌てて(なぐ)さめる。

 そうこうしているうちにも、馬車はクルガ族の集落を求めて、進んで行くのだが、


「え?」


 突然の物音と共に、彼女達を襲う影が現れた。




「ここで家畜を放しているのか」

 クルガの集落へと着いた翌日、俺は周辺の見回りに出ていた。

 集落の周りには荒野が広がり、生活するには厳しい環境と言わざるを得ない。

 だが、クルガ族はこの環境でも、(たくま)しく生きているのである。

「ああ、魔物のせいで、だいぶ数が減ってしまったがな」

 そう説明するのは、案内役のセトナ。

 本人は嫌がっていたのだが、ルドに説得され、渋々、案内役をやっている。

 辺りには、牛や山羊などが放されている他に、クルガの戦士達がいるのが、ちらほらと確認できた。

 家畜の警備にあたっているのだろうが、いるのはやはり、子供や年老いた者ばかりだ。

 グリフォンには、とても抵抗できまい。


「まぁ、いないよりはマシなのかもしれないが……」

 ぼんやりと彼らの事を眺めていて、ふと思う事があった。

「そう言えば、クルガ族の耳や尻尾って、人によって種類が違うんだな」

 セトナの耳と尻尾は犬のようだが、山羊の(そば)にいる少年は、猫のような耳と尻尾をしている。他の所にいるクルガ族も、種類がマチマチだった。

「よそ者は知らないだろうが、我らは元々、別の部族だったのだ。だが、どの部族も迫害を受け、数が減り、最終的には、一つの部族として暮らす事になったのだ」

「へぇ、クルガ族にはそんな歴史があったのか」

 そのような話しは聞いた事がなかった。やはり、世間に流れる噂話だけでなく、実際に会って話しを聞いてみないと、分からない事があるものだ。

「そうだ。だから私は、よそ者が嫌いだ。お前たちは未だに我らを捕え、売ろうとしているのだから」

 確かに、国が迫害を禁止しているとは言え、クルガ族を狙う者は多い。

 クルガ族の見た目から、愛玩動物扱いしようとする、金持ちなどが多いのだ。


「嫌いなよそ者が居て、済まないな。だが、今だけは我慢してくれ。魔物を倒したら、すぐに出ていくからさ」

 俺としては、クルガ族に対して何かをするつもりはない。

 だが、クルガ族にとっては、俺も、愛玩動物扱いする連中も、同じよそ者なのだ。

 彼女の気持ちが、分からなくはない。

 そう思って口にした言葉なのだが、セトナは不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「何だ? 何か変な事を言ったか?」

「いや……お前は、他のよそ者と、少し違うのだなと、思ってな」

 少し表情を(やわ)らげ、彼女は語る。

「今まで会ったよそ者は、高圧的な態度を取ったり、我らを騙そうとする、ずる賢い連中ばかりだった。お前のようなよそ者は、見た事がない」

「そりゃまぁ、わざわざクルガ族の集落に来る連中はなぁ……」

 思わず苦笑してしまう。

 こんな辺鄙(へんぴ)な所に、わざわざクルガ族に会いに来る連中なんて、十中八九、奴隷商人か、何かを企んでいる連中だ。そんな連中とは一緒にされたくないもんだ。

「お前は知らないかもしれないが、外の人間だって、そんな連中ばかりじゃないぞ? 俺みたいな奴は、大勢(おおぜい)いるさ」

「……そうなのか?」

 セトナが考え込むような顔をする。

 恐らく、セトナは集落から、一歩も外に出た事はないのだろう。

 クルガ族としては、それが普通の事なのかもしれないが、その分、集落の外に関しての知識が(かたよ)ってしまうのは(いな)めない。やはり、実際に、自分の目で見ないと、分からない事が多いのだ。

「クルガ族にとっちゃ難しいかもしれないが、一度、外の世界を見てみるといい。辛い事、厳しい事なんかもあるかもしれないが、その分、楽しい事も、あるかもしれないぜ」

「……そうだな、それもいいのかもしれない」

 俺の言葉に、少しは心が動かされたようだ。セトナは、ほんの少しだが微笑んで見せた。

 だが、次の瞬間、セトナの耳がピンッと張り詰めたかと思うと、厳しい顔をして、明後日の方向へと顔を向ける。

 少し遅れて、俺の耳にも(かす)かにだが、羽ばたきのような音が聞こえる。

「魔物か!」

「向こうだ! 急ぐぞ!」


 異変を察知(さっち)した俺たちは、急ぎ、音のする方へと駆けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ