冒険者の注文 6
スタンと別れたアリカ達は、オークションの会場へと急いでいた。
狙いはもちろん、ガルネルの確保だ。
「スタンが動けないんだから、私たちがやらないとね!」
「はい、お嬢様。スタン様のお役に立ちましょう」
アリカも、応じるサラサも、やる気に溢れている。
ヘイロンとの戦闘に参加させて貰えなかったのだ。ここで役に立たねば、来た意味がない。
決意を胸に、アリカとサラサは駆けてゆく。
二人が辿り着いた広間は、混乱の渦中にあった。
大勢の客は逃げ惑い、その合間で、黒服の警備員と冒険者達が、激しい戦闘を繰り広げている。
「お嬢様、私達も」
「待って。それよりガルネルを捜しましょう。まだ、この部屋にいるかもしれないわ」
服装のおかげか、まだ黒服達は、アリカ達を敵だと認識していないようだった。
アリカとサラサは、注意深く辺りを見回し、ガルネルの姿を捜す。
すると、通路の方へと移動しようとしている、黒服の一団が、視界の端へと映った。
「いました! ガルネルです! 奥へ逃げようとしています!」
「追いかけましょう!!」
ガルネルは、黒服たちに囲まれ、奥へと避難しようとしている最中だった。
それを阻止すべく、アリカたちは駆け出して行く。
「何だ、お前達は!」
流石に、自分達に近付く人間を見逃すほど、黒服達も甘くはなかった。
武器を構え、アリカ達を排除せんとする。
「やるわよ、サラサ!」
「はい、お嬢様!」
それぞれの武器を手に、彼女達は、黒服との戦闘を開始した。
「ほらほら、どうですか?」
ヘイロンが操る鎖が、スタンを仕留めんと、その猛威を振るう。
鎖は、時に蛇のようにうねり、時に稲妻のように迅速に、様々に動きを変え、襲い掛かってくる。
(厄介だな)
変幻自在に動く鎖に、スタンは防戦一方になっていた。
「どうです? 東域の武器のお味は? こちらでは滅多にお目にかかれませんよ?」
「そうだな。俺も作ってみたいから、ジックリ見せてくれると助かるんだが?」
「いいでしょう。では、もっと沢山お見せしましょう!」
ヘイロンの言葉と共に、袖の中から、更なる鎖が繰り出され、津波の如くスタンへと押し寄せる。
「鎖の大盤振る舞いか、気前がいいな!」
スタンは、その波を、最少の動きで躱し、手にしたナイフで掻き分けてゆく。
(数が増えたが、その分、一本一本の動作は疎かになっているな。このまま突っ切る!)
少しずつ、だが、確実に、ヘイロンとの距離を詰めてゆくスタン。
機を窺い、ヘイロンへと一気に駆け出そうとした瞬間、
「お見事お見事、では、こういうのはどうです?」
新たな鎖が、地を這い、スタンへと襲い掛かる。
その先端で踊るのは、今までの分銅ではなく、
「刃!?」
「鎖鎌と呼ばれるものですよ。どうぞ、ご賞味あれ!」
「クッ!?」
地を這う鎌は、スタンの脚を刈り取らんと、うねり狂う。
「そう簡単にやらせねえよ!」
脚を上げ、逆に、その刃を踏み砕かんとするスタン。
「そうはさせません。そのまま脚一本貰いますよ!」
鎖は、ヘイロンの意を受け、向きを変え、その切っ先を、迫る靴底へと突き立てる。
が、
「何と!?」
硬質な音が響き、刃は、靴底に弾かれる。
「武器が、そんなに持ち込めなかったんでな。靴底にも仕込みがしてあるのさ!」
虚を突かれたヘイロンへと、スタンが詰め寄る。
一撃を放たんと間合いへ踏み込んだ、その時、ヘイロンの鎖に変化が生じた。
鎖の群れは力を失い、袖口から離れ落ちてゆく。代わりに、その奥から無数の刃が飛び出し、スタンを串刺しにせんと、迎え撃つ。
「うおっ!?」
スタンは、慌てて後方へと距離を取り、難を逃れる事に成功した。
「どうなってるんだ、その服は? 何でそんなに武器が出てくる?」
「細かい事を気にしてはいけません。東洋の神秘というものですよ」
「ふん、何かの魔術か。面倒だな……」
お互いに、攻めきれず、二人は再び、対峙する。
オークション会場では、アリカ達が、黒服を相手に奮戦していた。
アリカは、その魔術で黒服たちを吹き飛ばし、サラサは、アリカに敵を近づけぬよう、立ち回る。
また、各所で戦っていた冒険者達も、ガルネルの存在に気付き、次々と集まって来ていた。
「アリカ殿! 無事か!?」
「ウルシュナさん! こっちは大丈夫よ!」
駆けつけたウルシュナも、アリカ達の援護にまわり、黒服たちを圧倒していく。
その光景に、恐れをなした黒服達から、徐々に逃亡する者が現れ、形勢は冒険者達に有利に傾いていった。
「もう少しで、押し切れそうね」
「そうですね。……お嬢様、スタン様は大丈夫でしょうか?」
この場にいない、スタンの身を案じるサラサ。
「あいつなら、大丈夫よ。あのいけ好かない奴を、ぶっ飛ばしてくれるわ」
サラサが心配しないよう、明るく答えるアリカ。
「だから……あいつの代わりに、私たちでガルネルを捕まえましょう」
「……はい!」
戦闘による疲労で、身体は既に重くなっている。
だが、少女達の戦意は衰えてはいなかった。
(こっちは任せて、スタン。だから、あなたも無事でいてね)
アリカもまた、スタンの身を案じつつ、目の前の敵へと魔術を放つのであった。