表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/69

冒険者の注文 5

 声に応じて振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

 東域の、道服と呼ばれる、(そで)の長い服を着た男だ。

「おや、もしかして、スタン・ラグウェイ殿ではありませんか? このような場所で会うとは奇遇ですなぁ」

 こちらの顔を確認した男が、にこやかに話しかけてくる。

「ヘイロンか……」

「知り合いなの?」

「ああ……出来れば、二度と会いたくなかった奴だな」

 アリカの質問に、苦々(にがにが)しい顔で答える。

「これはこれは、酷いですねぇ」

 俺の言葉に文句を言ってくるヘイロンだが、その顔は笑っていた。

 こちらの言葉など、意に介していないのだろう。

「どういう方なのですか?」

「私ですか? 私は、スタン殿と同じ武器商人ですよ」

 サラサの問いに、ヘイロンは自ら答える。

「俺は、あくまで鍛冶屋だ。お前とは違う」


 この男、ヘイロンは東域出身の武器商人だ。俺とは違い、自ら武器を作る事はせず、武器を調達しては売り(さば)いている。

 あらゆる武器を、どのような場所からでも、どんな方法を使っても、調達してくる、腕利きの商人として、一部では有名だった。


「私も、スタン殿も同じじゃないですか。客の望む物を用意し、売り与える」

「俺は、他人の持ち物を奪ってまで、客の要望に応える気はない」

 そう、この男は、必要とあらば、他人の物すら奪い取る。

「誤解ですよ、スタン殿。最初から奪うつもりではないのですよ? こちらの買取り交渉に応じて貰えない時に、やむを得ず、そうするだけですので」

 笑いながら、そう告げるヘイロン。

「どうやら、ろくな人じゃなさそうね」

「ですね」

 アリカが、そう判断し、サラサもそれに同意する。

 当のヘイロンは、それを聞いても愉快そうに笑っているだけだった。




「それで、ヘイロン。何故お前がここにいる?」

「商人がいる理由など、一つしかないでしょう?」

 人を小馬鹿にする様な話し方をするヘイロン。

 相変わらず、(かん)(さわ)る喋り方だ。

「ガルネルに武器を売ったのか」

「はい。ガルネル様は気前の良い御方で、いい商売ができましたよ」

「そうかい……」

 楽しげに語るヘイロンを、忌々(いまいま)しげに(にら)みつける。

「スタン、こんな所で時間を取っている暇はないわ。そろそろ会場に……キャッ!?」

 アリカの言葉と同時に、建物全体が振動し、あちこちから、悲鳴や叫び声が上がり始める。

「どうやら、ウルシュナが始めたらしいな」

「おやおや、スタン殿? まさか、このオークションを台無しにしようと?」

「依頼なんでね。いけないか?」

 俺が答えると、ヘイロンは、大袈裟(おおげさ)な仕草で、頭を抱える。

「いけません、いけませんねぇ……このオークションを台無しにされる訳には参りません」

「いけなかったら、どうするんだ?」

「こうします」

 刹那、ヘイロンの袖から飛び出したモノが、こちらへと迫りくる。

「ちぃっ!」

 (ふところ)に隠していたナイフを即座に抜き放ち、飛来するモノを弾き飛ばす。

 弾き飛ばされた凶器は、ジャラジャラと音を立てて、ヘイロンの下へと戻っていった。

「……鎖か?」

「ええ、東域の武器の一種ですよ」

 先端に分銅が付いた鎖は、ヘイロンの袖の中へと綺麗に納まっていく。


 この男は危険だ。

 実力もそうだが、何より怖いのは、何をしてくるか分からないところだ。

 勝つ為には手段を選ばない。


「アリカ、サラサを連れて、ウルシュナたちの所へ行け」

「え? でも……」

「こいつの相手は俺がする。サラサ、アリカの護衛は任せたぞ」

「……承知しました。お嬢様、行きましょう」

 サラサが、アリカの手を引き、(うなが)す。

「……分かったわ。気をつけなさいよ、スタン」

「お前たちこそな」

 軽く言葉を交わし、アリカ達は、この場から離れていく。

 向こうも危険だとは思うが、こっちよりは安全だろう。


「よろしかったのですか? お仲間と一緒に戦わなくても」

「冗談言うな。お前なんざ、俺一人で充分だ」

「そうですか、お優しい方ですねぇ」

 クツクツと笑うヘイロン。

 やっぱり、俺よりもアリカ達を狙う気だったか。

「このゲス野郎が」

「いやいや、相手の弱い所を狙うのは、兵法の基本ですよ」

「そうかよ」

 アリカたちの心配はなくなった。これで、ヘイロンへと集中できる。

 奴を見据(みす)え、ナイフを構える。


「さて……始めるとしようか」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ