冒険者の注文 2
闇オークション。
それは、一般には出回らない貴重な物や、国に禁止されている外国製の品物、または盗品など、表には出せないような品物を取り扱うオークションである。
今回の闇オークションは、王都の近くにあるロドルの街で開かれるらしい。
ロドルの街は、多くのカジノが建設されている街で、国一番の歓楽街としても有名だ。
オークションは、そんなカジノを隠れ蓑としておこなわれているらしい……。
「……って言う話なんだが……やっぱり、お前ら帰れよ」
ロドルの街へと向かう馬車の中、俺は、後ろの荷台へと声を掛ける。
「ちょっと! ここまで来てそれはないでしょう!?」
後ろから返ってくるのは、アリカの大声と、
「ご迷惑……だったでしょうか」
サラサの、蚊の鳴くような声だった。
出発の準備を終え、町を出ようとしたその時に、二人は何処からともなく現れて、素早く荷台へと乗り込んで来たのだ。
「ロドルの街に行くんでしょ? 私も一度行ってみたかったのよ! お爺様は、教育に悪いからって、連れて行ってくれなかったし」
かなり危険な依頼に行くはずなのだが、アリカにとっては観光気分なのだろうか?
「そもそも、どうして俺がロドルの街に行くって知ってるんだ?」
「サラサが教えてくれたわよ?」
「ウィルベール家のメイドとして、これくらいの情報収集は、当然です」
それはメイドの技能だろうか? とも思ったが、あの家の執事やメイドが色々と規格外だったのを思いだす。
「……優秀なんだな、サラサは」
「そ、それ程でもありません」
投げやりな俺の言葉に、頬に手を当て、恥ずかしそうにするサラサ。良い子なんだけどなぁ。
「むー……」
そんな俺たちの様子を、アリカの奴は半眼で睨んでくる。
「何だよ?」
「べっつにー。ただ、サラサには優しいんだなーって」
優しかったか? 今の態度が?
何故かむくれてしまったアリカの相手をしつつ、馬車はロドルの街へと向かうのであった。
「ふあぁー……凄い人ねぇ」
さすがに、国一番と言われている歓楽街だ。街は、大勢の人間でごった返していた。
カジノへと向かう遊び人、店へと誘い込もうとする客寄せの美女達、そして、ギラついた目をしているゴロツキ共。
確かにこの街は、あまり教育に良くなさそうだ。
「おい、ウロチョロしてはぐれるなよ?」
「そんな子供じゃないわよ! ねぇ? サラサ」
「はい、そうですね……(ソワソワ)」
返事だけは立派なのだが、キョロキョロと辺りを見回すアリカからは、不安しか感じられない。
サラサの方も、これだけの賑わいは珍しいのか、興味深そうに辺りを眺めている。
ウィルベール家のメイドとはいえ、やはり年相応の子供なのだ。この街並みに、浮ついても仕方がないのかもしれない。
そんな二人には悪いとは思うが、ゆっくりと観光している暇はない。
依頼書に書かれている集合場所へと、移動する必要があるのだ。
「他の街からも、何人か冒険者が集められてるらしい。まずは、集合場所の宿へと行くぞ」
「あ、ちょっと待ってよ……わぷっ!?」
「お嬢様!?」
人混みを掻き分け進もうとしたのだが、アリカが何度も人波へとさらわれかけ、一向に先へと進めない。
「ああもう……ほら、こっち来い。サラサも」
はぐれかけたアリカとサラサの手を掴み、こちらへと引き寄せる。
「しっかりしてくれよな?」
「ちょっとスタン……その……手が……」
「……(カーッ)」
掴まれた手を見つめ、何やらゴニョゴニョと言ってくるアリカ達。
「我慢しろよ? はぐれたら面倒なんだから。ほら、このまま行くぞ」
「……うん」
「……はい」
急に二人とも大人しくなったが、はしゃぎ過ぎて疲れたのだろうか?
まぁ、手間がかからないし、このままの方がいいか。
集合場所となっている宿は、街外れにある、趣きのある建物だった。
古びた扉を開け、中の受付へと向かう。
受付に座っていた男はつまらなさそうにこちらを一瞥すると、興味をなくしたのか、すぐに手元の本へと視線を落としてしまう。
「悪いが、もう満室なんだ。他所を当たってくれや」
「そうなのかい? ここに良い儲け話があるって、聞いてきたんだけどな」
手にした依頼書をヒラヒラと振り、受付の男へと見せつける。
顔を上げた男は、俺の手から依頼書を受け取り、その文面へと目を通し始めた。
王国政府は、この宿を貸切にして、依頼を受けた冒険者以外は泊まらせてい
ないらしい。
さすがは一国の政府だ。やる事が大きい。
男は内容を確認すると、奥から部屋の鍵を二つ取り出し、こちらへと放り投げてくる。
「その部屋を使いな。部屋の番号は鍵に書いてある。それにしても、アンタらは余裕だな? 他の連中なんかはとっくに来て、下調べをしているって言うのに」
「田舎者なんでな」
投げられた鍵を手にし、アリカ達を連れて部屋へと向かう。
「ああ、夕飯が済んだら、二階の奥にある大部屋に来てくれ。そこで今後の話をするからよ」
受付の言葉に軽く手を振り答え、そのまま割り当てられた部屋へと向かう。
「じゃあ、こっちの部屋は俺が使うからな。何か問題が起きたらすぐ呼べよ」
「大丈夫よ。スタンの助けなんかなくても、自分で何とかできるわ」
「へいへい」
自信満々のアリカには悪いが、あまり安心は出来そうにないな。
すぐ動けるように、気を抜き過ぎないでおこう。
「それじゃあ夕飯の時間になったら呼びに行くから、それまではゆっくり休め」
「そうね、そうさせて貰おうかしら」
「いえ……私は少し出かけてこようと思います」
「サラサ?」
休む気満々だったアリカに、サラサが静かな表情で告げる。
「どうか、お嬢様とスタン様は休んでいてください。少し、やる事がありますので」
踵を返し、一人で外へと向かおうとするサラサ。
「一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫です。どうかご心配なさらずに」
「……分かった。夕飯までには戻れよ」
「ちょっとスタン!?」
俺の言葉を聞いたサラサは一礼して、宿の外へと出ていった。
「大丈夫なの? サラサ一人で」
「本人が大丈夫って言ってんだから、大丈夫だろ。心配してやる事もいいが、信じてやる事も大事だぞ」
「……分かったわよ」
しぶしぶ納得したようなアリカは自分の部屋へと入って行く。
俺も自分の部屋へと入り、手荷物を放り出すと、ベットへと横になる。
さてはて、どうなる事やら……