表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/69

冒険者の注文

 日も沈み、あたりが星の輝きで照らされ始める中、店の営業が終わった俺は、仕事終わりの一杯でも飲もうかと思い、いつもの酒場へと顔を出す。

「マスター、一杯頼むよ」

 何故か今日も、マーシャの代わりに店番をしていたマスターへと注文を頼む。

 慣れた手つきで酒をシェイクし、グラスへと注いでゆく。相変わらずダンディな人だ。

 完成した色鮮やかなカクテルが、目の前のカウンターへと運ばれてくる。

「ん?」

 グラスを取り、さっそく味わおうとしたのだが、グラスの下に、折り畳まれた紙片が置かれていたのを見つけ、手を止める。

 中を確認してみると、書かれていたのは冒険者への依頼の内容だった。




「マスター、これは……?」

「お、スタン、来てたのか、ちょうど良かったよ」

 マスターへと尋ねようとした矢先、買い出しから戻ったマーシャに声を掛けられる。

 笑みを浮かべつつ、こちらへと近付くマーシャ。

(マーシャがこういう顔をする時は、面倒な事を押し付けられるんだよな……)

 半ば諦めつつ、チビリと酒を飲む。

「マスターから依頼の事は聞いたかい?」

「依頼? この紙に書かれている事か?」

「そうそう、それそれ」

 笑いながら、マーシャが首を縦に振る。

「冒険者の依頼なら、他の奴に頼めよ。俺は鍛冶屋だっていつも言ってるだろ?」

「こっちもいつも言ってるだろう? お前は冒険者でもあるだろうって。それに、依頼の内容が内容だからね」

 そう言われて、依頼の内容をもう一度確認する。

 書かれている内容は、闇オークションの調査と、主催者の捕獲。しかも、依頼者は王国政府と来たもんだ。

「……これは冒険者の仕事じゃないと思うんだが?」

「王国も人手が足りないのか、それとも、人を動かせない理由があるんじゃないのかい?」

「それにしたって、何でこんな田舎町の酒場に、王国からの依頼が来るんだよ?」

「さあねぇ、その依頼を持って来たのはマスターだし」


 マスター、アンタ何者だよ?


 マスターの方を見てみるが、彼は素知らぬ顔で、グラスを(みが)いていた。

 彼を見ていてもまったく反応が無いので、仕方なくマーシャとの会話に戻る。

「まぁ、内容は分かったが、俺が行く必要はないだろ? 他の奴にでも回せばいいじゃないか」

「あんたねぇ……」

 依頼を受けたがらない俺に、マーシャがあきれた声を出す。

「王国からの依頼で、しかも、相手は闇オークションを開ける程の権力者。そんな危険度が高くて、しかも失敗の許されない依頼なんだから、一番腕の良い奴を行かせるに決まってるだろ?」

「俺以外にも、腕が良い奴は居ると思うんだが……」

 チラリと、酒場にいる冒険者たちを眺めてみるが、どいつもこいつも目を()らしやがる。

 皆、依頼の厄介さに、二の足を踏んでいるようだ。

 意気地がないなぁとは思ったが、田舎町にいる冒険者なんてこんなものかと納得もする。

「それに、あんたは前にも闇オークションを潰した事があるんだろう?」


 何気なく言われた、マーシャのその言葉にギクリとする。

 確かに、俺は以前に闇オークションを潰した事があった。

 闇オークションが潰された事実は隠せない。街でも、ある程度の噂話にはなっていた。

 だが、襲撃者が俺だというのは知られていないはずだ。

 俺の顔を見た連中の口は、キッチリと封じたし(殺してはいないぞ? 話せば、どういう目に遭うかを懇切丁寧に説明しただけだ)、証拠などは残さなかったはずなのだ。

 

「マーシャ、その話はどこで聞いたんだ?」

「ん? マスターがそう言ってたけど?」

 

 マスター、アンタ、マジで何者なんだ……。


 マスターの方を見てみると、今度はサムズアップしながらこちらを見ていた。

 それに乾いた笑いで応えたあと、酒を一気に飲みほし、気分を切り替えようとするが上手くいかない。

「とりあえず、ウチからはあんたが行く事。これは決定事項だよ。いいね?」

「分かった、分かった。行ってくればいいんだろ」

 もう、半分自棄(やけ)になりながら答える。

「よろしい。それじゃあ、あとで詳細を伝えるよ」

「……はぁ」


 こうして、俺はまた面倒な依頼を引き受けるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ