魔術師の注文
俺の名前はスタン・ラグウェイ。
武器専門の鍛冶屋兼冒険者だ。
肩書きが一つ増えているって? それには訳がある。
ひょんなことから、暗黒龍の牙を素材にした剣の注文を受けちまってな。
俺も採掘に行く時には、魔物から身を守らなくちゃいけないから、多少は鍛えてはいたんだが。
さすがに、暗黒龍は無理だ。
だって、魔王の部屋を守ってる竜だぜ?
俺なんかじゃ、逆立ちしても勝てない相手だ。
だから、死ぬ気で自分を鍛えた。
そして、何度も暗黒龍に挑んだ。
何度も何度も死にかけて、
実際、死んだ爺さんと何回も会ったよ。
爺さん、いつも俺の名前間違えてたけどさ……
そんな爺さんに会うたびに挫けそうになったけど、
『必ず、客の望む武器を作る』
その信念を胸に、俺は、暗黒龍に挑み続けた。
そして遂に、暗黒龍を倒す事に、成功したんだ。
あ、ついでに、丁度、部屋から出てきた魔王も。
その事を依頼者に話したら、
「ぼ、僕の勇者としての存在意義が……」
とか言って、項垂れていたけど、俺には関係ないな。
依頼の品を渡せたから、それで良い。
さぁ、話しはこれくらいにして、そろそろ営業を始めよう。
「いらっしゃい」
扉を開け、店内へと入ってきた少女に、声をかける。
前までは丁寧な接客をしていたのだが、いかんせん、戦いばかりしていたせいなのか、少々、態度が雑になってしまった。
ちゃんと直さないといけないなと思いつつ、少女の接客にまわる。
少女は、十四、五歳程の年齢だろうか? ひと目見て、魔術師だと分かるローブを着ていた。
容姿も整っており、特に目を引くのが、その勝ち気そうな瞳だ。意志の強さを、感じさせる。
その少女は、
「ふーん、この店が……」
と、店内を眺め、何やら意味ありげに呟いている。
品定めされているようで気に食わないが、客は客だ。
「何をお求めですか?」
多少ぶっきらぼうな言い方になってしまったが、言葉使いとしては及第点だろう。
魔術師が武器屋に来るのは珍しい事だが、冒険者として活動する者の中には、多少、武器の心得が、ある者もいる。
そういった冒険者が護身用の武器を買いにきたと思ったのだが、
「ねえ、あなたって、勇者様とはどういう関係?」
いきなり、訳の分からない質問をされた。
「勇者? 俺は勇者なんか知らないぞ?」
「え? あなた、勇者アルナス様を知らないの? 魔王を倒した英雄よ?」
魔王? 魔王なら確か暗黒龍のついでに、ぶん殴った記憶があるんだが?
「勇者アルナス?」
「ええ、そうよ」
勇者の事を知らない俺に、少女は丁寧に説明してくれる。
「魔王討伐に向かった冒険者達が、魔王の部屋に辿り着いたのだけれど、部屋の前に居ると言われていた、暗黒龍が居なかったのよ」
それはそうだ、俺が武器の素材にしたのだからな。
「で、冒険者達が部屋の中を恐る恐る見てみると、中には呆然としていた、勇者アルナス様が居た訳。しかも、手には暗黒龍の牙で作られた剣よ?」
なるほど、どうやら剣の注文をした、あの男のようだ。
俺の言葉が信じられず魔王城にでも様子を見に行ったのだろう。
「魔王の姿もないし、これは勇者様が倒したのだろうって話になったのよ。ただ、当の勇者様は、僕が倒したんじゃない、彼が倒したんだ。って、否定するばかりで」
それはもしかして俺の事だろうか?
俺としては剣の素材が手に入れば良かっただけなので、魔王を倒した名誉などは興味ないのだが……
「多分、一緒に戦った仲間が居たのだと思うわ。恐らく、その人は、魔王との戦いで命を……」
どうやら俺は、世間的に殺されているようだ。ここでピンピンしているのにな。
「だから生き残ったアルナス様が、勇者としてお城に呼ばれたのよ。分かった?」
「オーケー、勇者に関しては理解した。で、その勇者様が、どうして俺と関係があると?」
まさか、俺が魔王を倒した事を話したのだろうか? だが、この娘の様子からは、そういった様子は見られない。
「実は私ね、ある武器を作りたいのだけれど、なかなか難しくてね。そんな時、勇者様が、こういう話しをしてるのを聞いたのよ。この武器屋ならどんな武器でも作ってくれる。ってね」
「さすがに、神様が作るような、世界を滅ぼす武器とかは無理だがな」
勇者様は相当、この俺の事を評価してくれているようで、嬉しい限りだ。
「それで、作りたい武器っていうのは?」
難しい注文のようだが、せっかく勇者様が宣伝してくれたんだ。期待に応えなけば、男が廃る。
俺は気合を入れつつ、彼女に話しの先を促す。
「私の、作りたい武器はね……」