表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/69

魔術師の注文

 俺の名前はスタン・ラグウェイ。

 武器専門の鍛冶屋兼冒険者だ。

 肩書きが一つ増えているって? それには訳がある。

 ひょんなことから、暗黒龍(ダークドラゴン)の牙を素材にした剣の注文を受けちまってな。

 俺も採掘に行く時には、魔物(モンスター)から身を守らなくちゃいけないから、多少は鍛えてはいたんだが。

 さすがに、暗黒龍(ダークドラゴン)は無理だ。

 だって、魔王の部屋を守ってる竜だぜ?

 俺なんかじゃ、逆立ちしても勝てない相手だ。

 だから、死ぬ気で自分を鍛えた。

 そして、何度も暗黒龍(ダークドラゴン)に挑んだ。

 何度も何度も死にかけて、

 実際、死んだ爺さんと何回も会ったよ。

 爺さん、いつも俺の名前間違えてたけどさ……

 そんな爺さんに会うたびに(くじ)けそうになったけど、


『必ず、客の望む武器を作る』


 その信念を胸に、俺は、暗黒龍(ダークドラゴン)(いど)み続けた。

 そして遂に、暗黒龍(ダークドラゴン)を倒す事に、成功したんだ。

 あ、ついでに、丁度、部屋から出てきた魔王も。

 その事を依頼者に話したら、

 「ぼ、僕の勇者としての存在意義が……」

 とか言って、項垂(うなだ)れていたけど、俺には関係ないな。

 依頼の品を渡せたから、それで良い。

 さぁ、話しはこれくらいにして、そろそろ営業を始めよう。







「いらっしゃい」

 扉を開け、店内へと入ってきた少女に、声をかける。

 前までは丁寧な接客をしていたのだが、いかんせん、戦いばかりしていたせいなのか、少々、態度が雑になってしまった。

 ちゃんと直さないといけないなと思いつつ、少女の接客にまわる。

 少女は、十四、五歳程の年齢だろうか? ひと目見て、魔術師だと分かるローブを着ていた。

 容姿も整っており、特に目を引くのが、その勝ち気そうな瞳だ。意志の強さを、感じさせる。

 その少女は、

「ふーん、この店が……」

 と、店内を眺め、何やら意味ありげに(つぶや)いている。

 品定めされているようで気に食わないが、客は客だ。

「何をお求めですか?」

 多少ぶっきらぼうな言い方になってしまったが、言葉使いとしては及第点だろう。

 魔術師が武器屋に来るのは珍しい事だが、冒険者として活動する者の中には、多少、武器の心得が、ある者もいる。

 そういった冒険者が護身用の武器を買いにきたと思ったのだが、

「ねえ、あなたって、勇者様とはどういう関係?」

 いきなり、訳の分からない質問をされた。


「勇者? 俺は勇者なんか知らないぞ?」

「え? あなた、勇者アルナス様を知らないの? 魔王を倒した英雄よ?」

 魔王? 魔王なら確か暗黒龍(ダークドラゴン)のついでに、ぶん殴った記憶があるんだが?

「勇者アルナス?」

「ええ、そうよ」

 勇者の事を知らない俺に、少女は丁寧に説明してくれる。

「魔王討伐に向かった冒険者達が、魔王の部屋に辿り着いたのだけれど、部屋の前に居ると言われていた、暗黒龍(ダークドラゴン)が居なかったのよ」

 それはそうだ、俺が武器の素材にしたのだからな。

「で、冒険者達が部屋の中を恐る恐る見てみると、中には呆然(ぼうぜん)としていた、勇者アルナス様が居た訳。しかも、手には暗黒龍(ダークドラゴン)の牙で作られた剣よ?」

 なるほど、どうやら剣の注文をした、あの男のようだ。

 俺の言葉が信じられず魔王城にでも様子を見に行ったのだろう。

「魔王の姿もないし、これは勇者様が倒したのだろうって話になったのよ。ただ、当の勇者様は、僕が倒したんじゃない、彼が倒したんだ。って、否定するばかりで」

 それはもしかして俺の事だろうか? 

 俺としては剣の素材が手に入れば良かっただけなので、魔王を倒した名誉などは興味ないのだが……

「多分、一緒に戦った仲間が居たのだと思うわ。恐らく、その人は、魔王との戦いで命を……」

 どうやら俺は、世間的に殺されているようだ。ここでピンピンしているのにな。

「だから生き残ったアルナス様が、勇者としてお城に呼ばれたのよ。分かった?」

「オーケー、勇者に関しては理解した。で、その勇者様が、どうして俺と関係があると?」

 まさか、俺が魔王を倒した事を話したのだろうか? だが、この娘の様子からは、そういった様子は見られない。

「実は私ね、ある武器を作りたいのだけれど、なかなか難しくてね。そんな時、勇者様が、こういう話しをしてるのを聞いたのよ。この武器屋ならどんな武器でも作ってくれる。ってね」

「さすがに、神様が作るような、世界を滅ぼす武器とかは無理だがな」

 勇者様は相当、この俺の事を評価してくれているようで、嬉しい限りだ。

「それで、作りたい武器っていうのは?」

 難しい注文のようだが、せっかく勇者様が宣伝してくれたんだ。期待に応えなけば、男が(すた)る。

 俺は気合を入れつつ、彼女に話しの先を(うなが)す。


「私の、作りたい武器はね……」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ