勇者の注文 4
「このままでは、僕は一歩も、先へ進めないんだ!!!」
言葉と共に、アルナスから気勢があがる。
どうやら、決着をつけるつもりのようだ。
(こっちは、もう動くのが、やっとだってのに……)
雷に撃たれた身体を、無理やりに動かしているのだ。もう倒れても、おかしくはない。
だが、意地を見せねばなるまい。あいつの想いに応える為にも。
アルナスの一撃が、来る。その想いを込めた、大地すらも引き裂きそうな、強烈な一撃だ。
その一撃に応じるべく、俺は全身の神経を研ぎ澄ませる。
余分な力はいらない。ただ、疾く、鋭く、魂を込めて。
今、その想いを解き放つ。
アルナスの剣がスタンへと届こうとする、その最中、スタンの剣が動き、眼前の剣へと喰らいつく。
その動きは、まさに電光石火。
スタンとアルナスの剣は、一瞬の激突を果たし、
一本の剣が宙へと舞った。
(僕の負けか……)
自分の手から放れていく剣を見つめ、アルナスは己の敗北を悟る。
全力を尽くした。剣も、魔術も、己にできる事すべてを尽くした。
それで負けたのだ。もう悔いはない。
そうやって、自分を納得させるアルナス。
だが、
本当に、そうなのか?
スタンの眼が、そう問いかけてくる。
お前はすべてを出し尽くしたのか?
お前の心は、本当に納得したのか?
お前の想いは、それで終わりなのか? と。
気が付いた時、アルナスは拳を握りしめていた。
スタンは頬に、鋭い衝撃を受けた。
剣を弾かれたアルナスが、雄叫びをあげ、殴りかかってきたのだ。
構えも、型も、何もない。ただ意志に、想いに従い、がむしゃらに殴りかかってくる。
(そうだ。それでいい)
悔しくないはずがない。目標としていたものを奪われたのだ。
そして、二度と叶える事ができない。
俺にとって、魔王の討伐は、あまり意味の大きいものではなかった。
だが、アルナスにとっては違う。
己の命を懸けて、やり遂げたかった事だろう。
それを奪ってしまった。
だから、俺が受けてやらなければならない。
あいつの想いのすべてを。
スタンも剣を手放し、殴り返す。
二人とも、既に身体は限界を超えている。
身体を支えているのは、意志のみだ。
それでも二人は殴り続けた。
その想いを拳にのせて、お互いの精根が尽き果てるまで……




