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魔術師の注文 11

 アリカが去ってから、数週間。

 何だかんだと、騒がしかった日々が終わり、俺はのんびりと、店を開いていた。

 寂しいかと問われれば、そうなのかもしれない。

 アリカは騒がしい奴ではあったが、一緒にいて、楽しかったのは事実だ。

 そんなアリカも、今頃は魔術協会で頑張っている事だろう。

 (えん)があれば、また会うこともある。

 そう思っていたのだが……



 

 店の扉が、開く音がする。

 俺は応対するべく、そちらへと向き、声を掛けるのだが、

「いらっしゃい……って、アリカじゃないか」

 そこにいたのは、魔術協会へと戻ったはずの、アリカだった。

 彼女はうつむいており、その表情は見えない。

 手には大きな荷物を持っており、よく観察すると、肩の辺りが震えている。

 何かあったのかと聞こうとした、次の瞬間、


「うわぁぁぁぁん!ズタァァァン!」


 アリカが荷物を放り投げ、泣きついてきた。

「おい、落ち着けよアリカ。どうしたんだ?」

 しがみつき、泣きじゃくるアリカをなだめに掛かる。

 俺も男だ。可愛い女の子に抱き付かれたら、嬉しいに決まっている。

 だが、服が鼻水だらけになるのは、勘弁して欲しい。

 俺の懸命な説得により、アリカは何とか落ち着きを取り戻す。

「で、何があったんだ?」

「うん……あのね……」

 話し(にく)い事なのか、なかなか先を話そうとしないアリカ。

 だが、俺が辛抱強く待っていると、

「実はね……」

 小さな声で、話し始めた。




「失敗した?」

「うん、そうなの……」

 どうやら、剣に魔術を掛けるのを失敗したようだ。

 俺が確認をすると、アリカは小さく縮こまってしまう。

「魔術は、上手く掛かったはずなんだけどね……」

 アリカの説明によると、魔術が掛かった剣は、最初、アリカの意志に従って、(ちゅう)へと舞った。

 そこまでは良かったのだが、その後、剣は暴走し、勝手に飛び回ってしまったらしい。

「途中で止める事ができたし、見学していた他の人達にも、幸い、怪我人は出なかったわ」

「ふむ、お前……古文書は、ちゃんと解読したんだよな?」

 俺の質問に、アリカが目を泳がせる。

「解読できてるわよ……八割くらいは……」

「はぁ……」

 アリカの答えに、ため息が出てくる。

「どれ、ちょっと剣を見せてみろ」

「スタンに見せたところで、どうにかなる訳ないじゃない……」

「い い か ら」

「……はい」




 アリカが荷物から取り出した剣を受け取り、俺は机の上へと置く。

 そして、その剣を眺め、

「ああ、成程」

 納得した。

「何が、成程なのよ?」

 分かっていないアリカへと、説明する。

「いいか、アリカ。この剣には、人の意志に従って、(ちゅう)を舞う魔術が掛けられている」

「そんなの当たり前じゃない。そういう魔術を掛けたんだから」

 何を当たり前の事を言っているんだという顔で、アリカが答える。

 彼女には、まだ分かっていないようだ。

「アリカ、実験をした場所には、他にも人が居たんだろ?」

「ええ、古代魔術の再現だもの。みんなが見に来るに、決まってるじゃない」

「そうだな。だから剣は、大勢の人間の意志、正確に言えば思念か? まぁ、それらを一斉に浴びた為、コントロールが効かなくなったのさ」

「それって、人が大勢いる場所では、操作できないってこと?」

「まぁ、今のままじゃな」

「それじゃあ全然、使えないじゃない!」

 アリカの怒りが爆発する。

「まぁ、落ち着けよ」

 苦笑しつつ、そんなアリカを抑える。

「だから、もう1つ魔術を掛けるんだ」

「もう1つ?」

「そう、剣が、使用者の意志にのみ反応するように、思考の通路を作る魔術だ」

 それが、剣を自在に飛ばす為の、最初の手順(プロセス)となる。

「けど、剣には、もうこれ以上、魔術は掛けられないわよ?」

「そうだ。だから、魔術を掛けるのは剣じゃなくて、(さや)の方だ」

(さや)の方?」

 アリカが不思議そうな顔をする。

(さや)に魔術を記憶させるの? そんなの無理に決まってるでしょ?」

 その疑問はもっともだ。だが、

「普通の(さや)ならな」

 俺には、その疑問に対しての答えがあった。

「実は、洞窟の奥に生えていた、あの樹なんだが、剣の鉱石と同じ性質を持っていたんだ」

「あの樹が……?」

 アリカは、洞窟の奥に生えていた、あの樹の事を、思い出したようだ。

 慌てて、店の外へと出ようとする。

「じゃあ、あの洞窟に取りに行かないと!」

「いや、お前と行った時に採取はしてあるし、お前に渡した剣の鞘も、その樹木で作られてるんだけどな……」

「そうなの?」

「ああ」

 あの大樹が気になった俺は、しっかりと樹木を回収しておいた。

 そして、何となくこの樹木で鞘を作った方がいいのでは? と感じたので、試しに作ってみたのだ。

「だから、あとは鞘に魔術を掛けるだけで完成するぞ」

「けどそんな魔術、私、知らないし……」

「何言ってるんだ? 古文書に書いてあったぞ?」

「ちょっと待って」

 そう説明した俺に、アリカがストップをかける。

「私の失敗の原因が分かった事とか、鞘の事とか、色々と分かっているみたいで、不思議に思ってたんだけど……あなたまさか、古文書を解読したんじゃないでしょうね!?」

「したけど、それがどうかしたのか?」

 あっさりと言い放ってやると、アリカはポカンと口をあける。

「そんな……そもそも文献は、私が持っているのに……」

「前に見せて貰っただろ? 中身はその時、覚えたからな」

「嘘よ……嘘でしょ……」

 アリカは呆然(ぼうぜん)と、何かを(つぶや)いている。

 武器を作るのに必要な事なのだから、覚えるのは当然のことだよな?

 俺は、茫然自失(ぼうぜんじしつ)となっているアリカをそのままにし、店の奥から、一本の剣を取り出してくる。

「ほら、お前が帰ったあとに、俺が作った剣だ」

 そう言って、呪文を唱え、剣を(ちゅう)へと浮かす。

 剣は、俺の意のままに(ちゅう)を舞ったあと、鞘へと収まる。

 アリカは、遂に目の前の現実に耐えられなくなったようだ。

 白目をむいて、そのまま倒れてしまった。




「スタン! 私と一緒に魔術師になりましょう!」

 意識を取り戻したアリカの第一声は、それだった。

「あなたなら、多くの古代魔術を復活させられる! 大魔術師に……いいえ! 魔術師たちの頂点に立つ事さえ、できるわ!」

「お断りだ。俺は武器作りにしか興味がない」

 魔術も便利だし、奥が深いが、やはり俺は武器を作る方がいい。武器作りこそ、俺の生き甲斐だ。

「そ、そんな事言わずに……」

「断る」

「じゃ、じゃあ私の研究を手伝ってよ!」

「お前……この前、自分の力でやるべきだとか、言ってなかったか?」

「それはそれ! これはこれよ!」

 よく分からない理由が飛び出してきた。

「とにかく! スタンにも、私の研究を、手伝って貰うからね! こうしちゃいられないわ、この町での宿を確保しないと!」

 言うが早いか、アリカは店から飛び出して行く。

「おいおい……」

 アリカが出ていった扉を見つめ、苦笑する。


 また、賑やかな事になりそうだ。



                                     ~魔術師の注文・了~


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