魔術師の注文 10
素材を無事に採取することができた俺達は、すぐに町へと戻ることにした。
店へと戻った俺は、早速、鉱石の鍛錬に取り掛かる。
初めてあつかう鉱石なので、慎重に、時間を掛けて、鍛錬していく。
アリカの奴も、張り切って手伝おうとしていたのだが、彼女に出来る事は無いので追い出した。
まぁ、料理の差し入れをしてくれたのは嬉しいんだが、
何であの料理は、手元の鉱石と同じ見た目をしていたんだ?
危うく、間違えて鍛錬するとこだったぜ?
そんないくつかのトラブル(?)も乗り越えて、遂に剣は完成した。
柄や鞘などの装飾品も作り終え、あとは魔術を掛けるだけとなったのだが……
「本当に、大丈夫なのか?」
剣が完成した翌日、アリカは、剣を魔術協会へと持ち帰り、そこで剣に魔術を掛けると言い出した。
「だって、偉い人たちの前で完成させた方が、私の凄さが分かるでしょ?」
その場面を想像したのか、ニヤニヤと笑っているアリカだが、俺には不安しかない。
「お前……結局、あの古文書は解読できたのか?」
「まだよ。けど、洞窟で新しい文献も手に入れたし、戻る道中の時間もあるわ。協会に戻るまでには解読できるはずよ!」
……何でこいつは、無駄にポジティブなんだろうか。
俺が受けた注文は、魔術が掛かった状態の剣だ。
今の状態では、本当の意味では完成とは言えない。
できれば、古文書の解読も手伝ってやり、魔術を掛けるところまで見届けたいのだが、
「それにね……この先は、私がやらなくちゃいけない事だと思うのよ」
アリカが静かに、そう告げた。
彼女が、俺に語りかけてくる。
「あなたは、私の注文に応えてくれたわ。ゴーレムなんていう、強力な魔物と戦って、それこそ命懸けでね」
「まぁ、それが俺の仕事だからな」
武器を作ること。それは俺にとっては、命を懸けるに値することだ。
他人の価値観なんて、関係ない。
これは、俺にとって譲れないものなのだ。
「だからね、ここから先は、私の仕事。自分自身の力で、ちゃんと完成させなきゃいけないと思うのよ」
そのように言われてしまっては、俺から言えることはない。
そう、誰もが、人には譲れないものがあり、自分自身で成し遂げたい事があるのだ。
「そうか」
「ええ、そうなのよ」
もう俺に、手伝えることはないらしい。
「だけどね、あなたにはホントに感謝しているのよ。あなたがいなければ、この剣は作れなかった。それにね、今回の冒険は楽しかったわ」
そしてアリカは、微笑みながら告げてくる。
「ありがとうね、スタン」
「ああ、どういたしまして」
こうして俺達は、別れたのだった。