魔術師の注文 9
ゴーレムが完全に動ない事を確認した俺は、安堵の息を吐く。
今回は、さすがにくたびれた。腰を下ろし、身体を休める事にする。
「魔術を使える事にも驚いたけど……このゴーレムを倒すなんて、あなたって、ホントに凄いのね」
と、向こうから駆け寄って来たアリカが、声を掛けてくる。
「だから、言ったろ? ある程度の魔物は倒せるって」
「ゴーレムは、ある程度の魔物じゃないと思うのだけど……」
苦笑いしつつ、アリカはゴーレムのなれの果てへと近づいて行く。
「それに、この短剣も凄いわね。ゴーレムの核を貫くなんて」
短剣を拾い、それを眺めるアリカ。
「あれ? この短剣どこかで見たような気が……?」
「そうか? 気のせいじゃないのか?」
あの短剣は、実は、勇者の剣と同じ、暗黒龍の牙で作ったものなのだ。
勇者の剣の試作品として作ったものなのだが、暗黒龍の牙で作った剣は、その身に独特の雰囲気を纏っている。
「う~ん……確かに、どこかで見たはずなんだけど……?」
アリカは恐らく、勇者の剣を見たことがあるのだろう。
だが、さすがに俺が、勇者と同じ剣を持っているとは、思っていないようだ。
気付かれると面倒な事になりそうなので、このまますっとぼけておこう。
「それより、そろそろ鉱石の回収でもしようぜ」
「あ! そうよね! それが目的だものね!」
目的を思い出したアリカは、ゴーレムだった鉱石を拾い、確認し始める。
「え~っと……この石は大丈夫だけど、こっちはダメね。対抗魔術が記憶されてて、使えないわ」
どうやら、ゴーレムの表面にあった鉱石には対抗魔術が記憶されており、体の内側にあった鉱石には、何も記憶されていないようだった。
アリカは一つ一つ鉱石を確認し、選別していく。
「おいおい、ダメって事はないだろ? その鉱石で剣を作れば、対抗魔術の掛かった剣が作れるんだから」
「なるほど。じゃあ、別々に分けて回収する事にしましょう」
「持てるだけにしとけよ? 欲をかくと、ロクな事がないからな」
わかってますよー。というアリカの返事を聞きながら、俺は洞窟の奥の方へと向かった。
洞窟の奥には、一本の大樹が生えており、それが俺には気になっていたのだ。
こんな洞窟に生えているのだ、ただの樹木ではないだろう。
何かあるはずだと思い、調査してみる。
大樹の周りを調べてみると、木の根の陰には、埃をかぶった、古い石碑があった。
埃を払い、表面を確認してみる。
「ちょっとー! あなたもサボってないで手伝ってよー……って、何それ?」
俺の様子を見て、アリカも追いかけてきたようだ。
発見した石碑を、不思議そうに眺めている。
「これは……古代文字で書かれた石碑だな」
書いてあった文字は、さすがに読めなかったが、この文字は見た事があった。
アリカの持っていた文献の文字に、そっくりなのだ。
「え? これ古代文字? ホントに? ちょっと待って! 今、メモするから!」
文献を持っていた、当の本人は気付いていなかったようだ。
コイツ、本当に優秀な魔術師なんだろうか……。
俺は、メモを探して慌てているアリカを放っておき、大樹の方を眺める。
やはりこの樹には、何かありそうだ。