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prologue 切っ掛けの注文

 俺の名前はスタン・ラグウェイ。

 とある田舎町の片隅で武器専門の鍛冶屋を(いとな)んでいる。

 鍛冶屋と言えば、冒険者などに比べ、地味な職業に聞こえるかもしれないが、冒険者達が、命を預ける武器を作るのが俺たちの仕事だ。

 切れ味の悪い武器、すぐに壊れるような武器などを渡してしまっては、彼らの命が危うくなる。

 だから俺は、己が鍛える武器に命を懸け、必ず客の求めるモノを作り出すことを信念としている。

 おっと、どうやら客が来たようだ。さぁ、今日も営業も始めるとしよう。


                        


「いらっしゃいませ」

 俺は、扉をくぐり、店内へと入ってきた男へと、声をかける。

 二十歳前後だろうか、動きやすさを重視した軽装だが、なかなかに旅慣れている雰囲気を感じさせる男だ。

「すみません、ここは武器屋でしょうか?」

「ええ、武器屋ですよ。店内に飾ってあるモノだけでなく、オーダーメイドも受け付けています」

 接客用の、丁寧な言葉使いで、男へと応対する。

「なるほど、ちなみに剣はどのようなモノがあるでしょうか?」

「刀剣類ですね、こちらになっております」

 俺が店内を案内すると、彼はじっくりと剣を眺め始めた。


 あまり知られてはいないのだが、この町の周辺では、ミスリルやオリハルコンといった貴重な鉱石が取れるのだ。

 その貴重な鉱石を、自ら採取(実は俺は採掘士としてもそれなりに優秀だったりする)し、鍛え上げた武器が店内には並んでいる。

 これならば彼も満足するだろうと思っていたのだが……


「残念ですが、ここには、僕の求めている剣はなさそうです」

「……なんだと?」

 若者は残念そうに首を振り、店を出て行こうとしていたが、今の言葉は俺には聞き捨てならなかった。

 接客用の丁寧な言葉使いも忘れ、彼へと呼びかける。

「ちょっと待ってくれ」

 俺が呼び止めると、彼は怪訝(けげん)そうな顔で振り返った。

「この店の武器は貴重な鉱石を使っているし、俺の鍛冶の腕は他店(よそ)に負けてないと自負している。それでも、アンタの欲しい剣はなかったって言うのか?」

「ええ、残念ながら……」

 若者は、目当ての剣が手に入らず、本当に残念そうにしている。それが俺には悔しくて、気が付いた時には、彼へと詰め寄っていた。

「だったら教えてくれ! アンタが求めている剣を! 俺がそれを絶対作ってみせる!」

「あなたが……ですか?」

 俺の突然の行動に驚いたのだろう、彼は戸惑いながらも聞いてきた。

「ああ、そうだ! 俺は自分の仕事に誇りを持っている! 客が求める限り、どのような武器であろうとも、作ってやるつもりだ!」


 そう、彼らが冒険に命を懸けているように、俺は自分の仕事に命を懸けている。

 他人からすれば、くだらない事かもしれないが、これだけは譲れないのだ。

 彼らが、命を託す武器なのだ。本人たちが望むモノを持たせてやりたい。


「だから教えてくれ!アンタが求めている剣を!」

 俺の熱意が伝わったのか、彼は真剣な表情で、俺を見つめてくる。

 だが、弱々しく(かぶり)を振ると、

「ですが、剣の素材を得るのは、とても難しくて……」

「それなら安心してくれ。こう見えても俺は(採掘士として)腕が立つ方なんでな。それに、色々な仕入れルートもある。アンタには、手に入れられなくても、俺には可能かもしれないぜ?」

 相手を安心させるように、腕を組み、あえて不遜(ふそん)な態度を取ってやった。

 そんな俺を見て、彼は決意してくれたようだ。

「分かりました。でしたら、お願いします」

 そう言って、しっかりとこちらを見据えてくる。

「よし、じゃあ教えてくれ、剣に必要な素材っていうのは?」

 手に入れるのが難しい素材と言うならば、極東地域にしかないと言われるヒヒイロカネだろうか?

 それとも、俺がまったく知らない未知の鉱物なのか、いずれにせよ、関係ない。

 どんなに入手困難であろうと必ず手にしてみせる。

 そんな決意をした俺に、彼が告げた言葉は、


「はい、僕が欲しいのは暗黒龍(ダークドラゴン)の牙で作られた剣なのです」








「…………え?」




                       


暗黒龍(ダークドラゴン):魔王の部屋の前にいる、最凶最悪のドラゴン。そのブレスは、あらゆる物体を溶かし、多くの勇者達を(ほふ)ったという。









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