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一冊目《僕は》
いらだたしい声。
僕はこの声が苦手だ。
教室の中でひそひそと聞こえる、噂話。
しかも当の本人がそこで座っているというのに。
「ねぇ、知ってる?柊さんってさぁ、殺人犯の娘なんだって」
「えー!?ホントに!?」
違う。それは違う。
ただ、帰ってこないだけ。
僕の、父さんは帰ってこない。
母さんはー……実家に帰った。
「しかも、柊さん家ないんだって」
それは初耳。そんな大袈裟な噂になっていたのか、と思い少しふきだしてしまった。
「ふふっ」
「なにあれ、こわーい」
「いこっ」
噂話は終わったようで、教室にいた女子はパタパタと駆け足で出て行く。
さぁ、人も帰ったことだし。僕も帰らなきゃ。
締め切っていなかった窓に鍵をかけながら出口へと向かう。
ゆっくりと最後のドアに鍵を差し、がちゃりと音を立てて閉めた。
夕日が僕の足元を照らす。
鍵とお気に入りの本を手に、職員室へと向かって歩き出した。