十八冊目 《まともに》
夜の森が風を受けて、気味の悪い音を立てる。
「今日は有難う!とっても美味しかったよ」
がさがさ。がさがさ。
「有難う御座います。今度の予約がありましたら下駄箱にこれを」
「うん!御馳走様でしたっ」
森の入り口で別れた僕は、岸先生の姿が見えなくなると来た道を駆けて戻っていく。
もう店に来る客は居ない。
それにもう閉店時間だ。
いつもなら店を閉めたあと、睡眠をとるのだが一日寝なくとも大丈夫だろう。
「先生!!福助!」
店のドアを勢いに任せてあけた僕は店の奥にいる二人のテーブルに座る。
「………話そう」
森にふく風が、急に強くなった気がした。
夜の闇が、この店を包んでしまったような。そんな感じが。
「俺は実際、死んだ身だったんだ」
福助は、コップの水滴を指先でなぞりながら話す。
「交通事故で引かれてさ、気がついたら何でか、俺は梟になってた。
当てもなくこの森を飛び回ってるときに出会ったのが紫苑なんだよ」
「じ、じゃあなんで、人の姿に?」
「それは俺にも分かんねー。でも、梟の姿じゃこの森から出れねぇんだ。
それに、人の姿だと皆から見えるみたいだ。梟のときの姿が見れんのは、霊感の問題かも」
それってつまり…僕達が霊感あるってことになるんじゃ?
先生の方を見ると、若干震えている。
「………先生?」
「なっななななんだぁ!!?」
「お前、幽霊とか怖いんだろ?」
「そそっそんなここっこことは、ないぞぉっ!!?」
はぁ。これじゃ、まともに質問できないじゃないか。