十七冊目 《食べるか喋るかどっちか》
いまの時刻を確認すると、予約の深夜1時前。
今日のお客様は予想だとあと48秒で来店する。
「……30………20……」
がさ、がささっ。
「10……5……3…」
かつかつ……。
「1、0」
からからんっ……。
「こんばんわー」
僕のカウントダウンと、店のベルと、客の呑気な挨拶が同時に店を埋める。
それを見ていた白河先生は、口に運ぼうとしていたチョコをポロリと落として驚いていた。
「いらっしゃいませ。岸先生」
「うん、いらっしゃいましたー!」
紫色の紙に黒縁眼鏡、白のワイシャツに髪色と同じネクタイ。
世に言う「イケメン」なはずの彼は、見かけによらず子供っぽくて「先生」というよりは
「弟」と呼んでもいいほど無邪気な人だ。
彼は行き倒れていたところを僕がここに連れてきたことでこの店を知った、
所謂「お客様第一号」である。
「あれ、白河先生?ここ知ってたんですかぁ?」
「おまっ……なんでここ知ってんだ!?この店、一見お断りの店だぞ!?」
「え~?だってオレ、紫苑ちゃんの親戚ですもん」
「……はい?」
「本当です。母方の親戚で、「叔父さん」です」
軽く説明すると、白河先生は腑に落ちないといった顔で再び席についてチョコをほお張った。
「ほぉ~…つまり、岸が親戚で、むぐ…その岸からむぐむぐ…小野田さんが紹介されて?
で、俺が小野田さんから………むぐ」
「食べるか喋るかどっちかにしろよ」
「るせっ」
福助……もとい、海風湊に言われ、白川先生は拳骨で軽く彼の頭を小突いた。