十一冊目《噂は底無し》
はぁ、とため息が止まらない。
時計の針は、お昼休みの時間帯。
女生徒達の冷たく鋭い視線に刺されながら、僕は本を読み続ける。
「なー、しおーん!」
「…………」
「なぁってばー!!」
そんな空気はもとから無かったかのように、のん気な声で転入生が話しかけてくる。
五月蝿いと一蹴してやろうかとも考えたが、その行動を取ると帰って事を荒立てることになってしまう。
「やっぱり俺が紫苑のこと好きって言ったから?」
「当たり前じゃないか?第一、君のことは僕は知らない」
「えー、紫苑つめたー」
女生徒らの視線はますますきつくなっていく。
僕はまたため息をついて、教室を出た。
緑色に塗られた廊下の端で会話する生徒達は、僕を見た途端、口を閉じて固まる。
そしてそこを通る僕を避けて、再び会話が始まる。
「柊さんが教室の外に出た」
「嵐でも起きるんじゃねぇ?」
「いや、嵐だけじゃすまない。人類滅亡もありえるかも……」
はっ。と心の中で嘲笑った。
僕の噂は底無しだと聞いたが、これは本当に笑える。
「なぁ紫苑っ!!何処行くんだよぉ~!!」
「君には関係無い!!」