九冊目《もん凄い運動神経》
こつこつと、靴を鳴らす。
玄関の鏡で服装を確認していると、いつも通りの福助が僕の肩にのる。
夢だったのかと安心しながら、僕はいつも通りに福助に挨拶をした。
「いってきます、福助」
「行ってらっしゃい」
……どうやら僕は、病気になったのかもしれない。
目覚めたら梟が少年に見えたり、梟が言葉を話すなんて。
時刻を確認すると、午前6時45分。
少し駆け足で急がないと間に合わない。
僕は森の中の近道を探して、学校に間に合うように走り出した。
「おはよー」
「おはよー」
時刻は8時10分。
ちょうど生徒達が学校内に入ってくる時間帯に間に合った。
友達同士の何気ない会話が、僕の話題に変わる。
「何で柊さんがこんな時間に着てんの?」
「さあ、化けモンの行動なんか知るかよ」
家族関係の次は、化け物扱いときた。
いつもなら8時前に教室で本を読んでいた僕は、この時間に来ると大変気味悪がられるようだ。
会話を聞きながら、生徒の中に紛れ、二階の保健室へと向かった。
そこから聞こえる、女生徒と白河先生の話し声。
「先生っ、最近チョコ保健室に無いなぁ~」
関西弁の甲高いソプラノ声。
「そーやねぇ、えりちゃん。左京ちゃんはいつでもチョコ頬ばっとる、チョコ症候群やもんなぁ」
こちらも、関西弁の甲高いソプラノ声。
「まぁなっ、紫苑のおかげってやつかな」
「「紫苑?」」
行き成り僕の名前が出て、僕は保健室に入るのを止めた。
だって恥かしいじゃないか。
先生には昨日のことを聞こうと思ったのに、女生徒たちと話しているところを邪魔するのも。
その紫苑がこの話を聞いていたってのも。
「あぁ!柊さんのことやね!」
「部活体験のときにもん凄い運動神経しとった子やろ?」
「へ?そうなのか?」
あぁああぁ~っ!!!その話はしないでぇ~っ!!