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Julia  作者: 朔立花
第3章
9/13

ダンスへの誘い

「なんだ、アンナだったの……」

「おはよう、ジュリア。昨日はどうしたの?」

 アンナが白い歯を見せて笑う。柔らかそうなセミロングの金髪を指先でいじっている。

「昨日はちょっと寝過ごしちゃって」

「ふーん。ね、朝ご飯食べにいこうよ」

「そうね」

 と言って、ベッドから降りた。いすの背もたれに引っ掛けてあった、シャツとズボンを適当に着る。なんだか気だるい。

「アンナは何着るの? 私の部屋にアンナの服は置いてないわよ?」

「アンナ、このままでいいよ。お部屋までもどるの、大変だもん」

 薄いナイトドレスを指差した。

「寒くない?」

「大丈夫! アンナ平気だもん」

 アンナはベッドから飛び降りると、部屋の中をくるくる走り回った。ジュリアが着替え終わったのを見て、アンナはカーテンを開けた。

「あっ!」

「何これ、この足跡……」

 外から入ってくる光で、初めて気がついた。

 部屋のカーペットの至る所に、泥のついた靴で歩いた跡がある。同じ所を行ったり来たりしているようだし、すれたりカーペットに滲んでいて、足の大きさも分からない。

「アンナ、アンナが来た時に、この足跡はあった?」

「ううん。なかったよ」

「そう。ありがとう。後で掃除しなきゃ」

 掃除道具くらい、あるわよね。

 ジュリアはアンナと手をつないで、食堂へと向かった。


「ジュリア、今日の午後、ダンスの練習につきあってもらえるかい?」

 ジュリアはフォークからスクランブルエッグを落としてしまった。

「ダンス? あぁ、あの、舞踏会の?」

「ああ。シルヴィアの体調が一向に良くならなくてね」

 アルベルトは残念そうにフォークを置いた。

「もし迷惑じゃなければ、テンポの速い曲の練習したいんだ」

「でも、私そんなにうまくないし……」

 ジュリアはほほが引きつった気がした。アルベルトは背が高いけれど、ジュリアとでは背が釣り合わない。

「教えてくれって言う訳じゃない。体を慣らしておきたいんだ。1、2曲でいいから」

「分かったわ。少しだけなら」

「ありがとう」

 アルベルトが白い歯を見せて笑った。奇麗な歯だ。

「じゃあ、今日の午後4時に、北の大広間で待ってるよ」



 アンナのお誘いを断って、ジュリアは部屋に戻った。正直、ダンスの練習は気が重いから、行く前に休みたかった。なのに、ジュリアの部屋にはシーズがいた。

「アルベルトとダンスの練習? へえ、もうそんなに仲が良いんだな」

「うるさいわね、出てってよ。ダンスなんて、気が重いのよ。私、休みたいの」

 ジュリアはどさっとソファーに倒れ込んだ。

 ダンスなんて、練習以外で踊ったのはいつ?

 舞踏会なんて、ここ3、4シーズン連続欠席よ。なまっていること確実なのに……。

「アルベルトの奴、何者だと思う?」

「知らないわ。この城に住んでる私の親戚でしょう」

 シーズは面白くないといった表情で近づいた。腰にはナタがぶら下がっている。

「違う。俺は親切だから教えてやるけど、アルベルトは普通の人間じゃない」

「そうね、ちょっと古風よね。格好とか」

「アルベルトと踊るなら短調の曲はやめておけよ」

「ふーん」

「……お前な、」

「はいはい。ご忠告ありがとう。私、休みたいのよ。さっさと出てって」

 ほとんど話を聞いていないジュリアに、シーズはむっとした様子で鼻の下をこすると、一層不機嫌な表情で出口へと向かった。そして出て行いきざまに、無理矢理口の端を上げたいびつな笑顔で、ジュリアに向かって叫んだ。

「まったく! これだから世間知らずのオジョーサマは!」

「うるさいっ!」

 ジュリアが投げつけたクッションは、扉の手前で力なく床に落下した。

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