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Julia  作者: 朔立花
第2章
7/13

脅しの午後

 夕食が終わって、部屋に戻る。フィナの姿はないし、少し寂しいなとジュリアは思った。マッチを擦って、ろうそくに火をつける。

「あぶないっていう意識がねえな。部屋の鍵くらい閉めろよ」

 振り返ると、シーズが勝手に入ってきていた。

「ちょっと、勝手に入って来ないでよ」

「なんでだ? 俺は凄く良い情報をあんたに持ってきてやったのに」

 ジュリアは口をへの字に曲げた。とってもかんじ悪い。

「交換条件があるんでしょ」

「当然」

「私がほしがっていない情報かもしれないのに、よくそう言うことが言えるわよね」

「分かるさ、顔に書いてある。『なぜフィナはリセーナへ戻ったんだろう?』」

 窓の外が光った。遠くで雷の落ちた音がした。

「なんでフィナのことを知っているの?」

「秘密」

 すらりと光ったのは、野良作業用のカマ。

「物騒な物持ってるわね」

「まぁ、帰り道に寄ったからな」

 悪びれることもなく、シーズはカマをくるくると弄んだ。十分な脅しだ。

「条件は何」

「明日の午前中は、自分の部屋にいることだ」

 また、雷が鳴った。

「自分の部屋にいるだけで良いのね」

「そう。扉には鍵をかけて、燭台で枷もかけとけば上々さ」

「分かったわ。じゃあなぜフィナは、セリーナへ戻ったの?」

「あんたを一人にするためだ。それ以外の何ものでもない」

 ジュリアは手近な所にあった壺を鷲掴みにした。

「それくらい分かるわよ! 女だからってなめてんの?」

「信用してないだけさ。あんたが約束を守って部屋の中にいるかどうか、その時になってみないと分からないからな」

「疑り深いわね。友達無くすわよ」

「いいさ。俺に友達なんていない」

「寂しくないの?」

「こんな山奥に暮らしてるんだぜ? 疎遠になるさ」

 シーズはつなぎのポケットから、銅の鍵を取り出した。

「そこの本棚の鍵だ。暇なら読んでな」

「あら、ありがと」

 鍵を渡すと、シーズはさっさと部屋を出て行ってしまった。挨拶もなし。

 やっぱり友達無くすわね、とジュリアは思った。


 この城へ来て、初めて一人で目覚める朝。フィナがいないと、やっぱり寂しい。外はまだ雨だ。

 自分で水を汲んで顔を洗い、服を着る。

「ジュリア、起きてる? 朝ご飯食べに行こう」

 ジュリアは、ぴたりと動くのを止めた。アンナの声だ。

 変に返事をしたりすると面倒なことになりそう。寝たふりしておこうかしら。

「ジュリア、ジュリア! ねぇ、起きてよお。朝ご飯食べにいこうよ!」

「ジュリア、そろそろ起きないと。具合でも悪いの?」

 シルヴィアの声だ。集まってきてしまった。

「アンナ、ジュリアはまだ寝てるみたいよ。先に行きましょう」

「えーっ」

「我が侭言わない約束でしょう?」

「……うん」

 足音と声が遠ざかってゆく。ジュリアはベッドにそっと腰をかけた。おなかは減っていない。水はあるし。

 野宿よりはいい環境よね。

 ジュリアはそう思って、本棚へと近づいた。あの銅の鍵を使って、扉を開ける。古めかしい本ばかり。背表紙が割れているのもある。

 手入れが悪いわ。

 ジュリアは本を一冊手に取った。題名は、ディリストラ城史書VII。七代目のディリストラ城主、ジェイミー・ドゥナが書いたらしい。ディリストラ城史書は全部で26巻あった。だが、XXVまでしか見当たらない。どこかおかしい。

「あ、XXが2冊ある……」

 ジュリアは、ディリストラ城史書XXを二冊同時に引き抜いた。

 間には、紙切れが一枚入っていた。不気味な文字が紅いインクで書いてある。

「なにこれ。気持ち悪いわね」

 ジュリアは思わずそれを破って丸め、くずかごへと放り込んだ。

「おい、入るぞ」

 振り返ると、シーズが勝手に入ってきていた。鍵をかけたと思っていたのに。

「あの三人は出かけた。もう昼過ぎだ」

「え? もう?」

 まだ朝起きてすぐの気分だったのに。

「寝過ごしたんじゃないのか? まあいいさ。約束は約束だ。教えにきた」

 扉を閉めて、シーズはソファーの背もたれに座った。

「『なぜフィナはリセーナへ戻ったのか』」

 ジュリアは固唾をのんだ。

「それは、あんたのおじい様の呼び出しがあったから……じゃない」

「お父様の、とか言わないわよね」

「よく聞けよ。あの馬車の御者は、リセーナの人間じゃない。あんたからフィナを引き離すためだけに現れた。フィナは今頃、ふもとの村にいるだろうよ」

 ジュリアはベッドから立ち上がった。冗談じゃない。もし本当なら、フィナは振り回されているだけじゃないの。

「なんでそんなことを知ってるのよ」

「御者と話をしたのさ。こんなとこまでご苦労だな、って」

「御者はどこの誰よ」

「それは言えねぇな。約束だから。それよりもっと面白い話をしてやるよ」

 ジュリアは枕を投げつけた。

「こういう時に面白い話なんて聞けないわよ! もう! フィナが、もしかしたら酷い目に遭ってるかもしれないって言うのに!」

「あんたのそれ、本心じゃないだろ?」

 シーズがソファの背もたれから降りた。ジュリアの方へ歩いてくる。ベルト通しからぶら下げられた、鍵束が鳴る。

「独ぼっちになった自分が寂しいんだ」

「そんなことないわよ!」

「本当に? 心の隅に、そのかけらもなく?」

「ないわ!」

「嘘だな」

 両手首をつかまれて、仰向けにベッドに押し倒された。

「自分が可愛くない奴は、人間じゃない」

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