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Julia  作者: 朔立花
第2章
6/13

ヴァイオリンと舞踏会

 弓が宙をきった。

「こんな曲、初めて弾いたわ」

 一曲弾き終えて、ジュリアは満足そうに譜面から目を離した。

「まあまあだったと思うけど?」

「なんだか見慣れない記号や奏法も書いてあって、難しかったし」

「そりゃそうだろうな」

 シーズは座っていた石段から腰を上げた。

 ジュリアがヴァイオリンの腕を披露していた場所は、奇麗に手入れされた庭だ。バラやすみれやスズランが、季節に関係なく咲いている。奇妙でもあったけれど、殺伐とした他の庭を思えば何倍も良い。他の窓から見える庭は、北の山だからか暗い表情しか見せない。なぜこの庭は暖かいのだろうか。

「この庭は不思議な庭ね。暑くはないけれど、他の庭よりも暖かいわ」

「温泉が湧いてるからだ」

「温泉? 良いわね、今度場所を教えてよ」

「ただじゃ教えないね」

「交換条件?」

 子どものいたずらのような、ささやかな楽しみ。日陰にいるシーズが、日向のジュリアを眩しそうに見た。

「気が向いたらな」

「何よ、ケチね」

「そんな挑発には乗らないぜ。また今度。俺は果樹園に行くから、あんたは早く城に戻れよ」

「もうすこし散歩をしていくわ」

「言うこと聞かねえ女だな。男みたいにごついし」

「男みたいで結構! 私は私の行きたい所へ行くわ」

 ジュリアはヴァイオリンをシーズに押し付けると、城の方へ向かってずんずん歩いていった。


 ふわりと、懐かしい香りがした。


「……こんな所に、レモンの木が植えてあるなんて」

 湿っぽい土、イバラに絡めとられてレモンの木が弱々しく立っていた。

「今度シーズに分けてもらおうかしら。レモンパイが食べたくなっちゃった」



 夕食前に、アルベルト達三人は戻ってきた。その少し後、ざあざあと激しい雨が降り出した。

「これは長く降りそうだね」

 アルベルトはそう言って夕食の卓についた。シルヴィアは少し具合が悪いらしく、部屋にこもってしまった。そのせいで止める者がいないため、アンナはずっと大好きなマッシュポテトばかり食べている。

「もうすぐ舞踏会があるのに。道が塞がれなければいいんだけどね」

「アンナも行きたい!」

「アンナはもう少し背が高くなったらだね。パートナーも見つけなくてはならないし」

「舞踏会って、」

「山の向こうで開かれるんだ」

 ジュリアの意を汲んだように、アルベルトは説明してくれた。

「ここは国境が曖昧でね。山の向こう側のルヴェンという城で毎年開かれている舞踏会に、今年も招かれたんだ。シルヴィアにいつも練習相手をしてもらっていたんだけど、体調がすぐれないらしいからね」

 ゴブレットから水を口に含んで、アルベルトは残念そうに目を閉じた。

「シルヴィアの体調さえ良ければなぁ」

「ジュリアは踊らないの?」

「私? あんまり踊らないわね」

「でも、リセーナだとたくさんダンスパーティーあるんでしょ?」

「まあね。でも私はあんまり出席しないの。理由は秘密よ」

「なんでー」

「恥ずかしいから」

 ジュリアは肩をすくめた。

 ジュリアがダンスを人前で踊らない理由は、彼女にとっては深刻だった。ダンスの師範が言うには、ジュリアのダンスは出来すぎていて相手が大変、とのこと。背も高く、肩幅も広く、筋力のあるジュリアはどちらかというと男性パートの方が合っているらしい。

「アンナ、ポテトの他には食べないのかい」

「今日のは美味しくないんだもん」

「ジュリア、もうシーズには会ったかい?」

 ジュリアは口に運ぼうとしていたサラダを、皿へと置いた。

「ええ。今日の昼くらいに。クロックムッシュを作ってもらったわ」

「へえ、そんなものも作れるのか。知らなかった」

「兄弟なのに?」

 アルベルトは苦笑した。

「あいつについては知らないことの方が多いんだ」


ヴァイオリンはViolinですからヴァイオリンなのです、というちょっとした主張……というわけではなく、気分です(´∀`)

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