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Julia  作者: 朔立花
第1章
4/13

ドレスと馬車

 大浴場から戻り、髪の毛がほとんど乾いた頃、夕食の仕度ができたと声がかかった。

「あら、ドレスは?」

 一緒に行きましょうと訪ねてきたシルヴィアが、ジュリアの格好を見て目を丸くしていた。どうやらシャツにスラックスの格好は、移動用だと思っていたらしい。

「実は、こんなにもてなされるとは思っていなくて、持ってきていないんです」

 申し訳ないというと、シルヴィアはジュリアの手を取った。

「私のドレスを着たら良いわ」

「そんな、私、シルヴィアさんほど細くないし……」

「シルヴィアで良いわ。大丈夫よ。良いドレスがあるから。折角だもの。ね?」

 今に儚く消えてしまいそうな指で、ジュリアの手は包まれた。

「では、お言葉に甘えて」

 本当は、ドレス着たくないんだけどなー……。



 シルヴィアはどちらかと言うと、スレンダーな美女だ。一方ジュリアはと言うと、メリハリのありすぎる体型だった。女らしさはあるものの、鍛え上げられた筋肉のせいで無骨さが漂う。ところが。

「ちょっとセクシーね。素敵よ」

 と、シルヴィアは意に介さないようだ。断りようがない。

「恥ずかしい……」

「あら、女ばかりじゃない」

「あまりこういう格好はしなかったし、着慣れていなくて……」

「似合っているけれど?」

「あ、ありがとう」

 歩きながら、延々と繰り返されるこの会話。

 道を覚える余裕もなし。ジュリアはストールを肩からすっぽりかけて、できる限り露出を抑えようとしていた。

「ジュリアがドレス着てる!」

 ブラウスにスカートをはいたアンナが駆け寄ってきた。あぁ、私もあれくらいならまだ良かったのに。

「アンナもドレス着たかったのにー」

「じゃあ明日着ましょうね」

 シルヴィアが言うと、アンナはハーイと言って、ジュリアのドレスの裾をつかんだ。

 食堂の木の扉が開く。中にはやっぱり少し古めかしい格好をしたアルベルトがいた。

「待っていたよ、夕食はできていたのに。なかなかこないから心配したよ」

「ごめんなさい、アルベルト。私がジュリアにドレスを選んでいたものだから」

「私がドレスを持ってきていなかったので」

 アルベルトがまじまじとジュリアを見た。ジュリアはやっぱり恥ずかしくなった。

 やっぱり、一着くらい自分のドレスを持ってくるんだった。

「シルヴィアのドレスか。ちょっとサイズが違うんじゃないかい?」

「私としては、気にならないけれど」

 と、シルヴィア。

「少し首の辺りが開き過ぎだ。奥の衣装部屋に、シルヴィアが着ないサイズの服がしまってあっただろう。あれを出してきた方が良いんじゃないかな」

「そうね、そうするわ」

「それじゃあ、晩餐にしようか」

 アルベルトが指差すテーブルには、すでに料理が運ばれてきていた。

「今日のジビエは野兎だよ。珍しくマスが捕れたからテリーヌにして、スープは早取りの空豆のクリーム風。ソルベは作ってないけれど、デザートがムースだから」

 料理はアルベルトが作るんだろうか。ジュリアはつらつらと料理の単語が出てくるアルベルトを見た。こんなど田舎だから、そんなに美味しいものは食べられないと思っていたけれど……昼食のオープンオムレツを思えば、凄く期待できる。

「南の方の料理が好きなの?」

 ジュリアが尋ねると、アルベルトはまあね、と言った。

「やっぱり、これだけ寒くて厳しい土地にいるとね。南の方は楽園に思えるよ。いつか行ってみたいものだね」

 席について、グラスに紅い食前酒。アンナはヤマブドウと書かれたボトルから、やや赤っぽいジュースを注いでいた。

「では、ジュリアの新しい生活に、乾杯!」




「ジュリア、一緒にお茶しよう。おいしいサブレがあるの」


「ジュリア、何か楽器はできる? 前からこの曲をしたかったのだけど、共演者がいなくって」


「ジュリア、お散歩に行こう。今日は西の地下道を探検よ」


「ジュリア、シフォンケーキがあるの。一緒にいかが?」


「ジュリア、お絵描きしよう」


「ジュリア、レース編みは得意? もしよかったら教えてほしいわ」


「ジュリア」


「ジュリア、ジュリア」


「ジュリア、ねえジュリアってば」



 城に来て2週間。毎日が行事尽くし。

「疲れるわ。夢の中にまで、遊びのお誘いの声が響いてくる」

「おはようございます」

 フィナが洗面器にぬるま湯を張って持ってきてくれた。ジュリアは顔を洗いながら、フィナを見た。旅の疲れはとれてこの城にもなれてきたと思っていたが、フィナの表情は明るくない。

「ジュリアお嬢様は人気者ですから。今日は皆さんお揃いでお出かけするそうですから」

「そう。久々に一人ね」

「ええ、それで……あの、昨日の夜更けに馬車が来まして」

 どことなく暗いフィナの顔を、ジュリアは覗き込んだ。

「何か、悪い知らせでもあったの?」

「なぜか、私だけリセーナへ戻ってこいと」

「……変ね」

 ジュリアはつぶやいた。フィナもうなずく。

「フィナ、出発はいつ?」

「もう一度馬車がこちらへ来るそうなので、そのときに」

「そう……おじい様がまた何か考えているのかしら」

「私、御者の方にそれとなく聞いてみます」

「そうね。多分、山の下の村で、足の速い馬に換えると思うわ。もし戻ってくるような確信が得られたら、そこで馬を借りて、戻ってきて」

「はい、そうします」

 フィナはジュリアの服を置くと、窓の方へ歩み寄った。この部屋から昨日馬車が止まった場所が見えるようだ。

 扉がノックされた。

「ジュリア、起きてるかい?」

 アルベルトだ。下着姿を見られるのは、あのドレスよりも恥ずかしい。

「ええ。でも、まだ着替えていないから」

「そうか。じゃあ、扉越しで悪いけど。これから山の下の村へ話し合いにいってくるから、城で留守をしていてほしいんだ」

「分かったわ」

「くれぐれも、北の塔には入らないようにね。今度案内するから」

「ええ、楽しみにしてるわ。あとね、フィナがしばらくこの城を離れることになったわ」

「ああ、昨日来た馬車の御者に聞いたよ」

「知ってるならいいのだけど」

「フィナ、気をつけてね。じゃあ、私も行ってくるよ」

「お気をつけて」

「ありがとうございます。お気をつけていってらっしゃいませ」

 足音が遠ざかる。扉越しの会話は終わった。フィナは不安そうにジュリアを見た。

「ジュリアお嬢様こそ、お気をつけて。こんな人里離れた古いお城ですから」


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