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Julia  作者: 朔立花
終章
13/13

彼女と彼の契約

 目が覚めると、見慣れた天蓋があった。

 海の香りと、大好きなレモンパイの香り。親しい人達の声。

「ジュリアお嬢様! ジュリアお嬢様がお目覚めに!」

 嬉しそうなフィナの声。

 薄らぼんやりとした視界に、ちょっと懐かしい、黒髪と茶色の瞳が入ってきた。

「ジュリア様」

「……クラウディオ?」

 優しい、いつもの微笑みがあった。

「ここは、リセーナ?」

 寝たままで見える範囲に、ジュリアが自分の趣味で集めた品々が見える。自分の部屋だ。間違いない。

「はい。ジュリア様が眠られている間に、ディリストラ城から馬車で」

「そう……フィナは無事なのね」

 自分の額に手をやって、目を閉じる。フィナがはい、と返事をした。

「城へ戻れなくて、すみませんでした。馬車に乗ってディリストラ城を出た後、山のふもとの村で馬車から降ろされ、馬車は行方知れずになりました。雨が降り出して、山へ行くなら馬は貸さないと村人から言われてしまって……ですから、コルドのドゥナ家まで戻って、そこから早馬を出していただいたんです」

 コルドは、首都リセーナとディリストラ城の建つボラーゾフ山の間にある中都市だ。コルドにはドゥナ家の分家がある。

「フィナ」

 ジュリアは目を開けて、微笑んだ。

「ありがとう。初仕事なのに、よくやったわね」

「ありがとうございます」

 フィナは、いつものように、優雅にお辞儀をした。そう、いつものように。


 ノックもなしに、扉が開いた。

「ジュリア、無事だったようだな」

 入ってきた人物を見て、部屋中の人が頭を垂れた。クラウディオとフィナも、ベッドから離れた。

 ジュリアだけは軽くお辞儀をして、その人を見て微笑んでみせた。

「はい、おじい様」

 祖父ルヴァントはゆっくりと、杖をつきながらジュリアのベッドサイドに置いてあった椅子に座った。

「心配したぞ、コルドからの早馬がついたと聞いて、まさかと思った」

 ルヴァントは、老齢にしては奇麗に揃った歯を見せて笑った。ルヴァントの後ろに控えていた黒髪が、周囲に向かって短く命じた。

「人払いを」

 人々は慌てて出て行く。

 あっという間に、部屋の中はジュリアとルヴァント、黒髪の男だけになった。

「だがお前が成功してよかった。お前は無事に、契約を結んだな」

「はい、まだ自覚はありませんが……」

「そのうち自覚も湧くさ」

 聞き覚えのある、イラッとする声が聞こえた。

 振り返ると、泥だらけのつなぎを着た、シーズが居た。初めてあった時と同じで、髪の毛はクリンクリンの金髪、瞳も青色。肌は日に焼け、少しそばかすも見える。

 ルヴァントやその後ろの黒髪も驚くことはなく、ただシーズのことをまじまじと見ただけだった。

「お前のことは、なんと呼べば良いかな、悪魔」

「ジュリアは俺をシーズと呼んだぜ」

 鍛えられた体を揺らして、ルヴァントは笑った。今までに聞いたことのない、大きな笑い声だった。

「ではシーズ、お前、契約書はどこに仕舞った?」

「人はかつて、翼を持っていた」

 シーズが、ルヴァントに近づいてゆく。ジュリアは、腹の底がひやりとした。

「翼を失う古の契約と同じさ」

「ほぅ、ハルヴァーの契約だな。つまり、2枚の契約書……保険か。用心深い悪魔だ。良い悪魔と契約したな、ジュリア」

 ルヴァントはジュリアの頭を撫でた。ものすごく、久しぶりだった。いつもならほめられるのは、嬉しいと感じるけれど……。間接的にでもシーズがほめられていると思うと、気分よく喜べない。それに、良い悪魔ってなによ。

「俺は久々のリセーナだ。どんなことが起きるのか、楽しみにしてるぜ」

 本当に楽しそうな顔をして、シーズはジュリアの横に浮かんだ。宙に、ふわりと。

「連れてきてくれて、ありがとよ。よろしくな、オジョーサマ!」

「……ええ、よろしく」

 ジュリアの頬が、一層引きつったのは、言うまでもない。



 こうしてジュリアは悪魔と契約した通り、ある意味では無敵となって日々の生活へと戻ったのでした。

 そのお話は、また別の機会に。

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